← Library‹ 奇面城の秘密 ふしぎな変装

四十よんじゅう面相めんそうがかくれたしげみの中なかには、大おおきな四角しかくなかばんがかくしてありました。部下ぶかにめいじて、そこへ持もってこさせておいた変装へんそう用ようのかばんなのです。

四十よんじゅう面相めんそうは懐中かいちゅう電灯でんとうをつけて、そのかばんをひらきました。洋服ようふくやシャツなどが、いっぱいつまっています。かれは、かばんのふたのうらについているポケットに手てを入いれて、小ちいさな鏡かがみと箱はこをとりだしました。その箱はこの中なかには、顔かおをかえる絵えのぐや、つけひげや、いろいろなものがはいっているのです。

かれは、かばんのふたをしめ、その上うえに鏡かがみを立たてて、懐中かいちゅう電灯でんとうでじぶんの顔かおをてらしながら、変装へんそうのおけしょうをはじめました。

そこは深ふかい木きのしげみにかこまれていて、懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりがそとへもれる心配しんぱいはありません。

もう、夜よるの十じゅう二に時じをすぎています。さっきまで広ひろっぱに集あつまっていた、やじうまたちも帰かえってしまって、公園こうえんの中なかには、人ひとっこひとりいなくなってしまいました。新聞しんぶん記者きしゃにばけていた四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかたちも、どこへいったのかすがたが見みえません。

四十よんじゅう面相めんそうは、ゆうゆうとして変装へんそうをやっています。じつにおちつきはらったものです。

それにしても、かれはなぜこんな公園こうえんの中なかなどで、変装へんそうをはじめたのでしょうか。オーバーの下したから黒くろいズボンしたのあらわれているこのままのすがたで町まちにでれば、いくら夜よなかでも人ひとにあやしまれますが、それなら部下ぶかに自動じどう車しゃを用意よういさせて、それに乗のって逃にげてしまえばいいのです。

そうしないで、こんなふじゆうな場所ばしょで変装へんそうをはじめたのには、なにかわけがあるのかもしれません。

四十よんじゅう面相めんそうは、だれも見みていないと安心あんしんしていましたが、じつは、ひとりの小ちいさな少年しょうねんが、しげみのむこうがわにはいって、木きの葉はのすきまから、じっと中なかをのぞいていました。

この少年しょうねんは、少年しょうねん探偵たんてい団だんのなかまのチンピラ隊たいにぞくするポケット小僧こぞうなのです。からだがひどく小ちいさくて、ポケットにでもはいるくらいだというので、そんなあだ名ながついていましたが、すばしっこくて、たいへんりこうな少年しょうねんでした。

まえに書かいたとおり、このポケット小僧こぞうは、四十よんじゅう面相めんそうがにせものと入いれかわったのを気きづいて、ほんもののほうのあとをつけて、このしげみへやってきたのです。

ポケット小僧こぞうは、しげみのそとに寝ねそべって、相手あいてに気きづかれぬように、じっと中なかのようすをうかがっていました。

いくえにもかさなりあった木この葉はのすきまからのぞいているのですから、よくは見みえません。それでも、四十よんじゅう面相めんそうが懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりで、顔かおに絵えのぐをぬっていることはわかりました。

なにしろ、四十よんじゅうの顔かおをもつといわれる変装へんそうの大名だいみょう人にんです。その手てばやいこと……。たちまち顔かおをしあげて、こんどはかばんの中なかから黒くろい服ふくをとりだすと、それを黒くろシャツの上うえから着きこみ、バンドをしめ、肩かたからなにかさげて、帽子ぼうしをかぶり、靴くつをはきました。

変装へんそうがおわると、いままで着きていたオーバーをかばんに入いれ、ふたをしめて、そのかばんを手てにさげ、木きのしげみからでてきました。

ポケット小僧こぞうは相手あいてに見みつからぬよう、すばやくしげみのはんたいがわにかくれましたが、見みると、そこにあらわれたのは、ひとりの警官けいかんでした。四十よんじゅう面相めんそうは警官けいかんに化ばけたのです。

ああ、なんといううまい変装へんそうでしょう。警官けいかんの制服せいふくに制帽せいぼう、肩かたから革かわひもで、ピストルのサックをさげているようすは、だれが見みてもほんもののおまわりさんです。

ポケット小僧こぞうはその顔かおを見みて、びっくりしてしまいました。さっきまでの四十よんじゅう面相めんそうと、まるでちがっていたからです。四十よんじゅう面相めんそうが変装へんそうしたのではなくて、ほんとうのおまわりさんが、どこからかやってきたとしか思おもわれません。

四十よんじゅう面相めんそうが、四十よんじゅうの顔かおをもつといわれるほどの変装へんそうの名人めいじんだということは、聞きいていましたが、これほどの名人めいじんとは知しりませんでした。ほんとうに魔法まほうつかいです。

かばんをさげた四十よんじゅう面相めんそうのおまわりさんは、しゃんと胸むねをはって大おおまたに歩あるいていきました。ポケット小僧こぞうはさとられないように気きをつけながら、ちょこちょこと、そのあとをつけていきます。

おまわりさんは、公園こうえんをでると、すぐそばにある警視けいし庁ちょうのほうへ進すすんでいきました。警視けいし庁ちょうといえば、四十よんじゅう面相めんそうにとっては、いちばん恐おそろしいところです。その恐おそろしいところへ、へいきで近ちかづいていくのです。

やがて、警視けいし庁ちょうの入口いりぐちのところまできました。入口いりぐちのひろい石段いしだんに、警官けいかんが立たっています。そのまえには警察けいさつ用ようの自動じどう車しゃがたくさんならんでいて、夜よなかでも、警官けいかんたちが、いったりきたりしています。

四十よんじゅう面相めんそうのにせ警官けいかんは、その石段いしだんのまえまでいくと、なにを思おもったのか、石段いしだんをのぼりはじめました。ああ、四十よんじゅう面相めんそうは気きでもちがったのでしょうか。「さあ、つかまえてください。」といわぬばかりに、警視けいし庁ちょうの中なかへはいっていこうとしているのです。

ポケット小僧こぞうは、あきれかえって、そのうしろすがたをながめていました。どろぼうが警官けいかんにばけて、警視けいし庁ちょうへはいっていくのです。こんなばかなことがあるものでしょうか。

にせ警官けいかんは、石段いしだんに立たっている警官けいかんに、かた手てをあげてあいさつすると、そのまま玄関げんかんのなかへはいっていきます。

ほんものの警官けいかんは、すこしもあやしまず、おなじように手てをあげてあいさつをかえしました。

警視けいし庁ちょうへは、一いち日にちに何千なんぜんという警官けいかんが出入でいりするのですから、みんながおなじみというわけではありません。制服せいふくさえ着きていれば、じぶんたちのなかまだと思おもうのもむりはないのです。

にせ警官けいかんは、大おおかばんをさげていましたが、犯罪はんざい事件じけんの証拠しょうこ品ひんとして、そういうものを持もってくる警官けいかんはよくあるのですから、これもうたがわれる心配しんぱいはありません。にせ警官けいかんのすがたが玄関げんかんの中なかへ見みえなくなってしまったとき、ポケット小僧こぞうは、大おおいそぎで石段いしだんをかけあがり、そこに立たっている警官けいかんによびかけました。

「おまわりさん、いまのやつをつかまえて。大おおきなかばんをさげていたやつだよ。あれは四十よんじゅう面相めんそうだよ。おれ、あいつが変装へんそうするところを見みちゃったんだ。はやくあいつをつかまえなけりゃ……。」

警官けいかんはびっくりしてこちらを見みましたが、きたないふうをした浮浪ふろう児じのような子こどもなので、手てをふりながら、あっちへいけというあいずをするばかりで、いっこうとりあってくれません。

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