← Library‹ 奇面城の秘密 かばんの中

お話はなしは、すこしまえにもどります。

明智あけち探偵たんていが総監そうかんの公舎こうしゃへ電話でんわをかけ、警視けいし庁ちょうにあらわれた総監そうかんが、にせものだということをたしかめるまでは、明智あけちのそばに、小林こばやし少年しょうねんとポケット小僧こぞうがついていましたが、それから明智あけちと小林こばやし少年しょうねんとが、総監そうかん室しつへいそいでいくのを見みおくって、ポケット小僧こぞうだけは、べつのほうへ歩あるきだしました。ポケット小僧こぞうは、こんなふうに考かんがえたのです。

「四十よんじゅう面相めんそうが警視けいし総監そうかんに化ばけたとすると、その変装へんそう用ようの服ふくは、あのかばんの中なかにはいっていたにちがいない。あいつは、どこかのあき部屋へやへかくれて、あのかばんの中なかから、総監そうかんの服ふくをだして着きかえ、顔かおをかえてから総監そうかん室しつへあらわれたのだ。

それなら、あのかばんが、どこかにおいてあるにちがいない。そのまますてていくかもしれないが、ひょっとしたら、あれを四十よんじゅう面相めんそうのすみ家かへ持もってかえるかもしれない。

かばんの中なかのものを、みんなとりだせば、からだの小ちいさいおれは、あの中なかへかくれられる。そして、四十よんじゅう面相めんそうのすみ家かをつきとめることができるじゃないか。

よし、やってみよう。見みつかったら見みつかったときのことだ。まさか、殺ころされやしないだろう。」

ポケット小僧こぞうは、かしこくも、そう考かんがえると、あき部屋へやからあき部屋へやへと、かばんをさがして歩あるきました。

そして、十じゅういくつめの部屋へやで、とうとうそれを見みつけたのです。

「まてよ。このままかばんの中なかにはいって、ふたをしめたら、息いきがつまってしまう。かばんの皮かわに、小ちいさな穴あなをたくさんあけておかなけりゃあ。」

そこで、ポケット小僧こぞうは、べつの部屋へやから、紙かみをとじるきりをさがしだしてきて、それを持もってかばんのある部屋へやにはいり、ぴったりドアをしめて、しごとにかかりました。

まず、かばんの中なかのものをすっかりとりだして、その部屋へやの戸とだなの中なかにかくし、それから、かばんの皮かわの目めだたない場所ばしょへ、きりをさして五十ごじゅうほどの穴あなをあけました。

そのしごとは、十じゅう分ふんほどでおわりましたので、すぐにからだをまるくして、かばんの中なかによこになり、自分じぶんでふたをしめました。すると、ふたについているばねじかけの金具かなぐが、ぱちんとしまって、もう中なかからはひらかぬようになってしまいました。

ポケット小僧こぞうは、浮浪ふろう少年しょうねんあがりのチンピラ隊たい員いんですから、苦くるしいことにはなれています。からだをまるめて、長ながいあいだ、じっとしていることなんか、へいきなのです。

穴あなをあけたおかげで、息いきはらくにできます。また、その穴あなから、そとの物音ものおとも聞きこえるので、たいへん便利べんりです。

するとまもなく、しずかにドアのひらく音おとがして、なにものかが、しのび足あしで部屋へやの中なかへはいってきました。

そして、かすかな足音あしおとが、すぐそばに近ちかづいたかとおもうと、ポケット小僧こぞうのからだが、ぐらッとひっくりかえりました。だれかが、かばんを持もちあげたのです。

「おっそろしく、重おもいかばんだな。」

そんなひとりごとが聞きこえました。ポケット小僧こぞうは、うたがわれやしないかと、びくびくしていましたが、それは四十よんじゅう面相めんそうの部下ぶかのものらしく、かばんの中なかに、なにがはいっているかもよく知しらないのでしょう。べつにうたがいもせず、そのまま、えっちら、おっちら、かばんをどこかへはこんでいきます。

やがて、建物たてもののそとへでたようです。五十ごじゅういくつのきりの穴あなから、つめたい風かぜが、はいってきました。

そして、また五ご分ふんほども歩あるいたと思おもうころ、

「おい、持もってきたよ。あけてくんな。」

というささやき声ごえがして、なにかドアのひらくような音おとが聞きこえ、かばんは、ふわッと宙ちゅうに浮ういて、どっかりと下したにおろされました。

「ああ、わかったぞ。ここは自動じどう車しゃの中なかだな。ふふん、うまくいったわい。この自動じどう車しゃは、きっと四十よんじゅう面相めんそうのすみ家かへいくにちがいない。」

ポケット小僧こぞうは、まるめたからだのいたみもわすれて、にやりと笑わらうのでした。

すぐに出発しゅっぱつするのかと思おもうと、そうではなくて、自動じどう車しゃはすこしも動うごきません。そのまま、三十さんじゅう分ふんほどもすぎました。その三十さんじゅう分ふんが、ポケット小僧こぞうには、二に、三さん時間じかんにも思おもわれたほどです。

かれは知しりませんでしたが、ちょうどそのころ、にせ警官けいかん隊たいが、にせ総監そうかんの四十よんじゅう面相めんそうをとりかこんで大おおさわぎをやっていたのです。そして、うまく警視けいし庁ちょうの裏門うらもんから逃にげだしたのです。

やがて、自動じどう車しゃのドアの音おとがして、だれかふたりほど中なかへはいってきたようです。

「出発しゅっぱつ! フルスピードだ!」

強つよい声こえが、聞きこえました。

「かしら、うまくいったようですね。で、ゆくさきは?」

「きめんじょうだ。」

いきなり、自動じどう車しゃが走はしりだしました。それからは、もうだれも、ものをいいません。

きめんじょうというところへ行いくらしいのですが、ポケット小僧こぞうには、そのいみがわからないのです。きめんじょうなんて、へんな名なの町まちは聞きいたこともありません。

高級こうきゅうの自動じどう車しゃらしく、エンジンの音おとは、ごくわずかです。しかし、いくら高級こうきゅう車しゃでも、道みちがわるいので、ときどきおそろしくゆれます。やがて三十さんじゅう分ふんも走はしりつづけると、車くるまのゆれかたが、きゅうにはげしくなってきました。アスファルトのしいてないいなか道みちにさしかかったのでしょう。

「おやおや、ずいぶん遠とおくまで行いくんだな。」

ポケット小僧こぞうは、心こころの中なかでおどろいています。だんだんからだのいたみが、ひどくなってきました。いいかげんにおろしてくれないと、がまんができなくなるかもしれないと思おもいました。

およそ一いち時間じかんも走はしったころ、やっと車くるまがとまりました。やれやれ助たすかったと思おもっていますと、かばんは、いちど車しゃからおろされたことはおろされたのですが、こんどはまた、べつの乗のりものにつみこまれたらしいのです。

「おや、こんどは、貨物かもつ列車れっしゃかもしれないぞ。汽車きしゃで、十じゅう時間じかんもはこばれるのだったら、たいへんだ。からだがいたいだけじゃない。だいいち腹はらがへって、がまんできないかもしれないぞ。」

ポケット小僧こぞうは、うんざりしてため息いきをつきました。

すると、そのとき、ぶるるるん、ぶるるるん、ぶるるるるる……という音おとが、かすかに聞きこえ、スウッとからだが浮うきあがるような気きがしました。エレベーターに乗のっているような感かんじです。

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