← Library‹ 奇面城の秘密 最後の切りふだ

あの深ふかい谷たににわたされた二に本ほんの杉すぎの木きの上うえを、よつんばいになって、警官けいかんたちがつぎつぎとこちらへわたってきます。さきにたつ十じゅう人にんほどは、もう谷たにのこちらがわに立たって、ピストルをかまえながらしずかに近ちかづいてくるのです。

「ちくしょう。よくも、おれをだましたな。だが、ほんとうの、おれの部下ぶかはどこにいるんだ。おれの味方みかたは、どこにいるんだッ。」

「ハハハハ……。ぼくたち、にせものは七なな人にん。ほんものは、たったふたりしかのこっていないのだ。とても、かないっこないと、そこのすみで、ぶるぶるふるえているよ。」

明智あけちが指ゆびさしたすみっこに、四十よんじゅう面相めんそうのコックと、もうひとりの若わかい男おとこが、青あおい顔かおをして、しょんぼりと立たっていました。

「よしッ、いよいよ、おれの最後さいごがきたようだな。おれは、血ちを見みるのがきらいだが、こうなったらしかたがない。かくごしろッ。みな殺ごろしだぞッ。」

四十よんじゅう面相めんそうは、いきなり右みぎと左ひだりのズボンのポケットから、一いちちょうずつピストルをとりだし、両手りょうてでそれをかまえました。

「さあ、ぶっぱなすぞッ……。」

カチッ、カチッと、両方りょうほうのピストルのひきがねをひきました。どうしたわけか、たまが飛とびだしません。また、カチッ、カチッ……カチッ、カチッ……。だめです。カチッ、カチッというばかりです。

「ハハハハ……。その二にちょうのピストルには、たまは一いちぱつもはいっていないよ。ぼくが、ピストルのたまをぬくのをわすれているほど、うかつだと思おもうのかね。きみは、いつものぼくのやりくちをよく知しっているはずじゃないか。ハハハハ……。」

それを聞きくと、四十よんじゅう面相めんそうの顔かおが、むらさきいろになりました。

「ちくしょう。いよいよ、おれの力ちからを見みせるときがきたなッ。さあ、つかまえるならつかまえてみろッ。」

かれは、そう叫さけぶと、二にちょうのピストルを、なげつけておいて、パッと走はしりだしました。おそろしいはやさです。

ジャッキーも五郎ごろうも、そのほかのにせの部下ぶかたちも、それから谷たにをわたってきた制服せいふくの警官けいかんたちも、四十よんじゅう面相めんそうのあとを追おってかけだしました。

四十よんじゅう面相めんそうは、まずじぶんの部屋へやにとびこむと、あの美うつくしい女おんなの人ひとの手てをひいて、べつのドアからかけだし、奥おくへ奥おくへと走はしっていきます。女おんなの人ひとは白しろいスカートのすそをみだして、いまにもたおれそうに見みえます。

廊下ろうかが枝えだみちになって、岩いわの階段かいだんが下したへおりています。四十よんじゅう面相めんそうと女おんなの人ひとは、そこをかけおりました。岩いわのトンネルのようなところをとおって、八はち畳じょうぐらいの洞窟どうくつにでました。

明智あけち探偵たんていたちは、四十よんじゅう面相めんそうにつづいて、その洞窟どうくつにはいりましたが、ここには電灯でんとうがついていないので、まっ暗くらです。みんなが懐中かいちゅう電灯でんとうをつけようかと思おもっていますと、洞窟どうくつの中なかが、パッと明あかるくなりました。

空中くうちゅうにたいまつがもえているのです。赤あかいほのおが、めらめらとのぼって、洞窟どうくつの天井てんじょうをなめています。それは、四十よんじゅう面相めんそうが、一いち本ほんのたいまつに火ひをつけて、高たかくささげているのでした。白衣はくいの女おんなの人ひとは、四十よんじゅう面相めんそうの左手ひだりてにかかえられて、やっと立たっているように見みえます。

「明智あけち先生せんせい、それから警視けいし庁ちょうの先生せんせいたち、みんなそこへやってきたね。ワハハハハ……。いいか、よく見みろ。ここにたるが三みつならんでいる。ほら、大おおきなたるが三みつだ。この中なかに、なにがはいっていると思おもう。……火薬かやくだよ。このたいまつをなげこめば、いちどに爆発ばくはつするんだ。

この部屋へやは、おれの美術びじゅつ室しつのま下したなんだ。あそこにかざってある何なん億おく円えんの美術びじゅつ品ひんが、こっぱみじんになるのだ。いや、そればかりではない。この岩いわの天井てんじょうが落おちて、きみたちは、ひとりのこらず死しんでしまうのだ。ワハハハハ……。ゆかい、ゆかい。どうだ、おれの最後さいごの切きりふだがわかったかッ。」

四十よんじゅう面相めんそうは、きちがいのように笑わらいながら、手てに持もったたいまつを、火薬かやくのたるの上うえで、むちゃくちゃにふりまわしているのです。

火ひの粉こがたるの中なかへ落おちたら、たちまち爆発ばくはつがおこるでしょう。そして洞窟どうくつそのものが、こっぱみじんになり、人間にんげんはみんな死しんでしまうのです。

そのときです。

闇やみのなかから、四十よんじゅう面相めんそうとはちがう、みょうな笑わらい声ごえがひびいてきました。

「ワハハハハハハ……。ワハハハハ……。」

それを聞きくと、四十よんじゅう面相めんそうは、ギョッとしたように、キョロキョロと、あたりを見みまわしました。

「やい、そこで笑わらっているのは、だれだッ? なにがおかしいのだッ。」

「ぼくだよ、明智あけちだよ。きみのいきごみがあんまりおおげさなので、ついおかしくなったのさ。おい、ポケット君くん、もういいから、出でてきたまえ。」

明智あけちが呼よびますと、三みつならんだたるのうしろから、まっ黒くろな小人こびとがチョコチョコとかけだしてきました。

明智あけちは、その小ちいさい黒くろんぼを、だくようにして、

「おお、ポケット小僧こぞう君くん。きみはあの三みつのたるに、どういうことをしたか、いってごらん。」

「先生せんせい、もう明智あけち先生せんせいといってもいいのですね。ぼくは先生せんせいの命令めいれいで、ばけつに水みずをいっぱいいれてなんどもここへはこびました。そしてその水みずを、いっぱいになるまで、三みつのたるにいれました。」

ポケット小僧こぞうのことばに、四十よんじゅう面相めんそうはハッとして、ふたのとってある三みつのたるに、つぎつぎに手てをいれてみました。どのたるも、火薬かやくの上うえまで、水みずがいっぱいです。

「ワハハハ……。どうだね、火薬かやくがこう水みずびたしになってしまっては、いくらたいまつをなげこんでも、パチッともいいやしないぜ、気きのどくだが、きみの運うんのつきだよ。最後さいごの切きりふだがだめになってしまったのだから、あとは手錠てじょうをはめられるばかりだね。」

明智あけちのことばが、おわるかおわらぬうちに、もえさかるたいまつが、パッと飛とんできました。明智あけちがとっさに体たいをかわしたので、たいまつはうしろの岩いわかべにあたって、火ひばなをちらしました。

たいまつのつぎにとびついてきたのは、人間にんげんのからだでした。四十よんじゅう面相めんそうが、うらみかさなる明智あけち探偵たんていに組くみついてきたのです。

ふいをつかれて明智あけちはたおれ、四十よんじゅう面相めんそうは、その上うえにうまのりになりました。

しかし、四十よんじゅう面相めんそうの味方みかたは、かよわい女おんなの人ひとひとり。明智あけちのほうには、たくさんの警官けいかんがついています。四十よんじゅう面相めんそうは、一いち度どはうまのりになったものの、すぐおしたおされて、手錠てじょうをはめられてしまいました。

手錠てじょうをはめたのは、警官けいかんたちのうしろからでてきた中村なかむら警部けいぶでした。そして、そのそばには、学生がくせい服ふくの小林こばやし少年しょうねんが、にこにこしながらつきそっていました。

「おお、中村なかむら君くん、小林こばやしもよくきてくれた。とうとう、四十よんじゅう面相めんそうをとらえることができたよ。」

明智あけち探偵たんていは、中村なかむら警部けいぶと小林こばやし少年しょうねんに両手りょうてをのばして、あくしゅしました。

「小林こばやしさん、ぼくここにいるよ。」

黒くろいシャツ、黒くろい手てぶくろ、黒くろいくつした、すっぽりかぶる黒くろい覆面ふくめん、全身ぜんしんまっ黒くろな小人こびとが、つかつかと小林こばやし少年しょうねんの前まえに進すすんで、その手てをにぎりました。

「おお、ポケット小僧こぞう、きみはえらいねえ。この奇き面めん城じょうを発見はっけんしたのも、火薬かやくに水みずをかけて、四十よんじゅう面相めんそうをこうさんさせたのも、みんなきみのてがらだからねえ。」

小林こばやし少年しょうねんはポケット小僧こぞうの手てをにぎりかえして、さもなつかしそうにいうのでした。

「おれ、うれしくってたまらないよ。明智あけち先生せんせいが四十よんじゅう面相めんそうに勝かったんだ。そして、四十よんじゅう面相めんそうがつかまってしまったんだ。」

ポケット小僧こぞうは、そこまでいうと、感かんきわまったように両手りょうてをあげました。

「明智あけち先生せんせい、ばんざあい。小林こばやし団長だんちょう、ばんざあい……。」

すると、小林こばやし少年しょうねんも、目めに涙なみだをうかべながら、これにこたえて叫さけぶのでした。

「少年しょうねん探偵たんてい団だん、チンピラ隊たい、ばんざあい!」

Click a word · hold for the whole sentence 0%