← Library‹ 夜光人間 ふしぎな家

このこじきの少年しょうねんは、いったい、何者なにものでしょう。

なぜ明智あけち探偵たんていのあとをつけていくのでしょう。

探偵たんていは、すこしもそれに気きづかぬようすで、暗くらい町まちを、いそぎ足あしにとおりすぎて、大通おおどおりへ出でますと、そこに一いち台だいの自動じどう車しゃが待まっていて、明智あけちはそれに乗のりこみました。

こじき少年しょうねんは、どうするかと見みていますと、明智あけち探偵たんていが、自動じどう車しゃに乗のるのを待まって、高たかく手てをあげて、あいずをしました。すると、むこうから、べつの自動じどう車しゃが、スウッと近ちかづいてきて、こじき少年しょうねんの前まえにとまったではありませんか。こんなきたない少年しょうねんに呼よばれて、自動じどう車しゃがやってくるなんて、じつにふしぎなことです。

そして、こじき少年しょうねんの乗のった自動じどう車しゃは、明智あけち探偵たんていの自動じどう車しゃを尾行びこうするのでした。

二に台だいの車くるまは、夜よるの町まちを、矢やのように走はしりました。まだ八はち時じごろですから、町まちには自動じどう車しゃがたくさん走はしっているので、尾行びこうがめだたないのです。

しかし、やがて、明智あけち探偵たんていの車くるまは、渋谷しぶや区くにはいり、だんだん、さびしい町まちへ進すすんでいきます。そうなると、相手あいてに気きづかれないためには、二ふたつの車くるまのあいだを遠とおくしなければなりません。こじき少年しょうねんは、運転うんてん手しゅにさしずをして、たくみに尾行びこうをつづけました。

明智あけち探偵たんていの車くるまがとまったのは、大おおきなやしきばかりならんでいる、さびしい町まちでした。そこに石いしの門もんのある二に階かいだての西洋せいよう館かんがあって、明智あけちは車くるまをおりると、その西洋せいよう館かんへはいっていきました。

こじき少年しょうねんも、ずっとへだたったところに、車くるまをとめておりると、その石いしの門もんの中なかへ、しのびこんでいくのです。

いったい、このコンクリートの西洋せいよう館かんは、だれのうちなのでしょう。門もんの表札ひょうさつには、『伊達五郎だてごろう』と書かいてありますが、伊達だて五郎ごろうなんて聞きいたこともない名なまえです。明智あけち探偵たんていは、事務じむ所しょへ帰かえらないで、どうして、こんなうちへ、はいっていったのでしょう。

「いよいよ、おかしいぞ。先生せんせいだけが知しっていて、ぼくの知しらないうちなんてないはずだからな。」

こじき少年しょうねんが、ひとりごとを、つぶやくのでした。

少年しょうねんは明智あけち探偵たんていのことを、「先生せんせい。」といいました。では、この少年しょうねんは少年しょうねん探偵たんてい団だんのチンピラ隊たい員いんなのでしょうか。しかし、それにしては、いまつぶやいたことばがへんです。もっと明智あけち探偵たんていとしたしいあいだがらにちがいありません。

ああ、そうです。これは小林こばやし少年しょうねんが、変装へんそうしているのではないでしょうか。顔かおをうす黒ぐろくぬっていますが、あのぱっちりした、りこうそうな目めは、たしか小林こばやし少年しょうねんの目めです。

このへんで、もうほんとうのことを書かいてしまいましょう。これは小林こばやし少年しょうねんなのです。小林こばやし君くんはさっき赤あか森もりさんのうちで、明智あけち探偵たんていに、「きみは、さきに帰かえれ。」といわれて、外そとへ出でましたが、こんなことをいわれたのは、はじめてなので、なんだか、へんだと思おもいました。

そこで、公衆こうしゅう電話でんわから、明智あけち探偵たんてい事務じむ所しょへ電話でんわをかけて、るす番ばんをしているマユミさんにたずねてみますと、明智あけち探偵たんていから、今夜こんや八はち時じ三十さんじゅう分ふんに東京とうきょう駅えきにつくという電報でんぽうが、きていることがわかりました。

いよいよ、おかしいではありませんか。八はち時じ三十さんじゅう分ふんにつく明智あけち探偵たんていが、それよりずっとはやく、赤あか森もりさんのうちに、あらわれたのです。

そこで小林こばやし君くんは、この明智あけち探偵たんていは、にせものかもしれないと考かんがえました。顔かおも声こえも、そっくりですが、そういう変装へんそうの名人めいじんがないとはいえません。これまでにも、いろいろな事件じけんで、にせ明智あけちがあらわれたことは、たびたびあるのです。

小林こばやし君くんは、タクシーをひろって事務じむ所しょに帰かえり、おおいそぎでこじき少年しょうねんに変装へんそうをすると、こんどは、いつもつかうハイヤーをたのんで、赤あか森もりさんのうちの近ちかくまでひきかえし、自動じどう車しゃは大通おおどおりに待またせておいて、赤あか森もり邸ていの門もんの前まえの電柱でんちゅうのかげにかくれていたのです。

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