← Library‹ 夜光人間 古井戸の底

それから一いち時間じかんほどのち、上山うえやまさんの書斎しょさいで、上山うえやまさんと、一郎いちろう君くんと、小林こばやし少年しょうねんと、ポケット小僧こぞうの四よん人にんが、テーブルをかこんで腰こしかけていました。もう日ひがくれて、書斎しょさいには電灯でんとうがついているのです。

窓まどはぜんぶしめきって、ドアには中なかからかぎをかけ、壁かべのだんろの前まえには、さっきの書生しょせいが棍棒こんぼうを手てにして、立たち番ばんをしていました。そこから夜光やこう怪人かいじんが、はいってくるといけないからです。

「やつらがねらっているものを、見みておいてもらいましょう。あの金庫きんこに入いれてあるのです。いまわたしが、それを出だして、ここへ持もってくるから待まっててください。」

上山うえやまさんは、そういって、いすから立たちあがると、部屋へやのすみの小型こがた金庫きんこの前まえへいって、からだでかくすようにしてダイヤルをまわし、扉とびらをあけて、むらさきのふくさにつつんだ小ちいさいものをとりだし、テーブルにもどってきました。

そして、むらさきのふくさをひらきますと、中なかから二十にじゅうセンチほどの、ほそながいきりの箱はこが出でてきました。

「さあ見みてください。これがわたしのうちの家宝かほうです。むかし中国ちゅうごくからわたってきたもので、ヒスイばかりを組くみあわせてつくった三重みえの塔とうです。」

そういって、きりの箱はこの中なかから、それをとりだして、テーブルの上うえに立たてて見みせるのでした。

黒くろっぽい緑色みどりいろの、つやつやとした、かわいらしい三さん重じゅうの塔とうです。高たかさは十じゅう五ごセンチほどしかありません。

「きみたちには、この値ねうちはわからないだろうが、千せん万まん円えんもする美術びじゅつ品ひんです。夜光やこう怪人かいじんは、さいしょに推古すいこ仏ふつをぬすみ、二にどめには白玉はくぎょくの小しょう仏像ぶつぞうをうばい、そして、こんどは、このヒスイの塔とうをねらっているのです。みんなふるい東洋とうようの美術びじゅつ品ひんばかりです。あいつは、そういうものを集あつめようとしているらしい。」

上山うえやまさんは説明せつめいをおわると、ヒスイの塔とうをきり箱はこに入いれ、ふくさでつつんで、もとの金庫きんこにおさめました。

「このダイヤルの暗号あんごうは、わたしのほかには、だれも知しらないのです。いくら夜光やこう怪人かいじんでも、その金庫きんこをひらくことはできませんよ。」

上山うえやまさんは、もとの席せきにもどって、自信じしんありげにいうのでした。

そのときです。

「アッ!」

と叫さけんで、小林こばやし少年しょうねんが、いすから立たちあがりました。そして、むこうの窓まどを見みつめています。

みんなが、そのほうを見みました。

窓まどガラスのすぐむこうがわに、夜光やこうの首くびが、さかさまに、さがっているではありませんか。

まっ赤かな口くちが上うえになり、まっ赤かな目めが下したについています。二に階かいからぶらさがって、顔かおだけで、窓まどの上うえのほうからのぞいているのです。

「よしッ、ピストルで、うちころしてやる。」

上山うえやまさんは、デスクのところへ走はしっていって、そのひきだしからピストルをとりだすと、いきなり窓まどの首くびにむかって、ひきがねをひきました。

ガチャンと恐おそろしい音おとがして、窓まどガラスがわれ、そこに大おおきな穴あながあきましたが、夜光やこうの首くびは、スウッと上うえのほうへかくれてしまって、べつに、きずついたようすもありません。

部屋へやの中なかの四よん人にんは、身動みうごきもしないで立たちつくしていました。

そのとき、

「ケ、ケ、ケ、ケ、ケ……。」

という、あやしい鳥とりのなき声ごえのようなものが聞きこえてきました。

「アッ、あすこだッ!」

小林こばやし君くんが叫さけびました。

まっ暗くらな庭にわの木立こだちのあいだを、夜光やこうの首くびが、飛とんでいるのです。首くびばかりでなく、胴体どうたいもついているのでしょうが、それは、黒くろいシャツでかくされていて見みえないのです。首くびばかりが、宙ちゅうを飛とんでいるように見みえるのです。青あおく光ひかる顔かお、まっ赤かな目め、火ひを吹ふきそうなまっ赤かな口くち、その首くびが、「ここまでおいで。」といわぬばかりに、ふわりふわりと、闇やみの中なかをただよっていくのです。

「ちくしょうめ! からかっているんだな。よしッ、ひっとらえてやるぞ。みんなも、ついてきたまえ。」

上山うえやまさんは、いきなり窓まどをひらくと、まっ暗くらな庭にわへとびだしていきました。手てには、さっきのピストルをにぎっています。

小林こばやし君くんも、ポケット小僧こぞうも、一郎いちろう君くんも、書生しょせいも、つぎつぎと窓まどをのりこして、はだしで庭にわにおり、上山うえやまさんのあとにつづきました。

夜光やこうの首くびは、「ケ、ケ、ケ、ケ……。」という、あのあやしい笑わらい声ごえをたてながら、ふわふわと、むこうへ逃にげていきます。

上山うえやまさんは、どこまでも追おっかけていきます。三さん人にんの少年しょうねんと書生しょせいも、夢中むちゅうになって走はしるのです。

木立こだちのあいだを、あちこちとくぐりながら、とうとう、庭にわのはずれまできてしまいました。そこは、つき山やまのうしろのくさむらで、水みずのかれた古ふる井戸いどのあるところです。

夜光やこうの首くびは、その古ふる井戸いどの上うえを、しばらくただよっていましたが、やがて、地面じめんの中なかへ、スウッと消きえていってしまいました。

「アッ、古ふる井戸いどの中なかへはいった。もう、ふくろのねずみだぞッ。」

上山うえやまさんは、そうどなって、古ふる井戸いどに近ちかづき、中なかをのぞきこみました。

深ふかい井戸いどの底そこに、夜光やこうの首くびがうごめいているのが見みえます。

小林こばやし少年しょうねんも、ポケット小僧こぞうも、こけのはえた井戸いどがわにとりついて、中なかをのぞいています。

上山うえやまさんは、いきなり上着うわぎをぬいで、シャツとズボン下かだけになりました。

「きみたちは、ここに待まっていたまえ。わたしはおりていって、あいつをつかまえてやる。この井戸いどの内うちがわは石いしがけになっているから、それに足あしをかけて、おりられるのだ。」

上山うえやまさんは、そういって、もう古ふる井戸いどの中なかへすがたを消けしてしまいました。

一郎いちろう君くんは、おとうさんが、こんな大胆だいたんな人ひとだとは知しりませんでした。いつものおとうさんと、まるで、人ひとがかわってしまったようです。

「おおい、井戸いどの底そこに、よこ穴あながある。あいつは、そのよこ穴あなへ逃にげこんでしまった。だれか、うちへいって、縄なわをさがして持もってきてくれたまえ。それをつたって、きみたちも、ここへおりてくるんだ。」

井戸いどの底そこから、上山うえやまさんの声こえがひびいてきました。

「縄なわをさがさなくても、少年しょうねん探偵たんてい団だんのきぬ糸いとの縄なわばしごを持もっています。それで、いま、おりていきます。」

小林こばやし君くんは、腰こしにまいていた長ながいきぬひもをほどいて、そのはしについている鉄てつのかぎを、井戸いどがわにひっかけ、ひもを井戸いどの中なかにたらしました。そのきぬひもには、三十さんじゅうセンチおきに、まるいむすび玉たまがついていて、それに足あしの指ゆびをかけておりるようになっているのです。

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