しばらく待っていても、なにもあらわれません。ロボットは、まったく、この部屋から消えてなくなってしまったのです。
「ノロちゃん、ロボットは、もう、いなくなったよ。」
ノロちゃんは目をふさいで、小林君にしがみついていましたが、そのとき、やっと、目をひらきました。そして、キョロキョロと、あたりを見まわしていましたが、するとまたしてもなにを見たのか、いきなり、ギュッと小林君にしがみついてきました。
びっくりして、小林君も、むこうを見ますと、ノロちゃんがおどろいたのも、もっともです。電灯のむこうの暗いところに、人間の首だけが、スーッと、浮きあがっているではありませんか。
こんどは、ロボットでなくて、人間の首が、空中にあらわれたのです。しらが頭に、白ひげを長くたらした、おじいさんの首です。キラキラ光る、めがねをかけています。
おじいさんの首ばかりが、空中をフワフワただよっているのですから、じつに、気味がわるいのです。でも、小林君は逃げません。じっと、そのしらがの首をにらみつけていました。
首ばかりのおじいさんは、しばらく空中をユラユラしていましたが、パッと、首の下に、胴体があらわれ、おやっとおもっていると、その胴体の下に、右足がつき、左足がつき、それから両方の肩に、右手、左手と、つぎつぎと、足や手が、どこかから飛んできて、おじいさんのからだに、くっついてしまいました。
そして、ちゃんとしたひとりの人間が、できあがってしまったのです。灰色の洋服をきた、白ひげの、りっぱなおじいさんです。
「ハハハハ、感心、感心、さすがは少年探偵団の団長じゃ。よく逃げださないで、がまんをした。えらいぞ。それにひきかえ、もうひとりの子は、ひどくおくびょうだね。それでも団員かね?」
白ひげのおじいさんは、そういいながら、ツカツカと、ふたりのそばへ近づいてきました。
その声をきくと、ノロちゃんも、小林君の胸から顔をはなして、やっと、おじいさんの姿を見ました。いままで、目をふさいでいたので、どうして、こんなおじいさんがあらわれたのか、わからないものですから、びっくりして、キョロキョロしています。
「あなたは、いったい、だれです?」
小林君は、キッと、おじいさんの顔を見つめて、たずねました。
「わしかね、わしは、さっきのロボットじゃよ。」
おじいさんは、にこにこしています。それでは、あのロボットのなかに、この老人がはいっていたのでしょうか。
もし、そうだとすると、このおじいさんは、やっぱり、悪ものです。
「それじゃあ、となりの部屋の、女の子を、ひどいめにあわせたのは、あなたですね。」
小林君が、おじいさんをにらみつけました。
「ハハハ……、あれかね。あれは、わしの友だちのおじょうさんじゃよ。ミヨ子ちゃん、もういいから、こちらへおいで。」
すると、「はーい。」というかわいい声がして、さっき、となりの部屋にたおれていた、ピンクの服の少女が、にこにこしてかけこんできました。
「あらっ、それじゃあ、あの女の子は、ぼくたちに、うそをついたんだね。」
ノロちゃんが、あきれたように、いいました。
「そうじゃ、うそをついたのじゃ。きみたちを、この部屋に、おびきよせるためにね。」
「なぜ、ぼくたちを、この部屋へ、おびきよせたんですか。」
小林君が、おじいさんに、つめよりました。
「ハハハ、そう、おこるもんじゃない。まあ、こっちへおいで。もっときれいな部屋で、ゆっくり話をしよう。」
そういって、おじいさんは、さきにたって、廊下へ出ました。ふたりの少年は、ともかく、そのあとについていきます。
老人は、少年たちと、ミヨ子ちゃんをつれて、りっぱな洋室にはいりました。
壁いっぱいの本だなに、むずかしい本がズラッとならび、部屋のまんなかには、大テーブルがあって、そのまわりに、ふかふかとしたあんらくいすが、いくつもおいてあります。
「さあ、かけたまえ。これから、きみたちを、おびきよせたわけを話すからね。
わしは、ロボットになって、きみたちの前にあらわれた。きっと、ついてくるじゃろうと思ってね。窓から、このうちへ、しのびこんで見せたので、きみたちは、いよいよ、わしを悪ものだと思った。そして、さっきの部屋まで、はいってきた。それから、ふしぎなことがおこったね。あれはきみたちのどきょうを、ためすためじゃった。だが、どうして、あんなことがおこったか、わかるかね。」
老人が、ブラック=マジックの種あかしをしました。
「あの部屋の電灯は二つとも、きみたちのほうを向いていた。うしろの壁には、黒いカーテンがはってある。そのカーテンの前に、あたまから足のさきまで、まっ黒なきれでつつんだ、わしの助手が立っていたのだが、きみたちには、すこしも見えなかった。そこへロボットがはいってきた。
わしのまっ黒な助手は、黒いきれの袋をいくつも持っていて、ロボットの手や、足や、胴や、首へ、つぎつぎと、かぶせていったのだ。そうすると、かぶせたところだけ消えたように見える。暗い舞台で、白いガイコツがおどりだす奇術があるね。あれは人間が、黒いシャツとズボンに、白いガイコツの絵をかいたのをきて、おどるのだよ。それと同じわけさ。
そのあとへ、このわしが、姿をあらわしたのも同じりくつで、手や足や首に、黒い袋をかぶせてあったのを、つぎつぎと、ぬいでいったのだよ。わかったかね。」
老人は、にやにやと笑いました。
「まだ、きみたちをびっくりさせることがある。わしはロボットから老人になったが、これでおしまいではない。わしは世界一の変装の名人だからね。」
怪老人は、そういったかと思うと、まっ白な頭と、ひげに手をかけて、それを、ひきむいてしまいました。すると、その下から、黒いかみの毛の三十ぐらいの若い顔が、あらわれました。
「ハハハ……、どうだね。若くなっただろう。だが、これが、わしのほんとうの顔かどうか、わからないよ。