← Library‹ 天空の魔人 雲の上の怪物

少年しょうねん探偵たんてい団だんの小林こばやし団長だんちょうと、団員だんいんでいちばん力ちからの強つよい井上一郎いのうえいちろう君くんと、すこしおくびょうだけれど、あいきょうものの野呂一平のろいっぺい君くんの三さん人にんが、春はるの休やすみに、長野ながの県けんのある温泉おんせんへ旅行りょこうしました。

その温泉おんせんを、仮かりに矢倉やぐら温泉おんせんと名なづけておきましょう。国鉄こくてつから私設しせつ鉄道てつどうにのりかえて、矢倉やくら駅えきでおり、すこし山道さんどうをのぼると、そこに、温泉おんせん村むらがあります。山やまにかこまれた、けしきのよい温泉おんせんです。

その温泉おんせんのトキワ館かんという旅館りょかんの主人しゅじんが、井上いのうえ君くんのおじさんなので、小林こばやし団長だんちょうと野呂のろ君くんをさそって、五いつ日かほど滞在たいざいする用意よういでやってきたのです。

井上いのうえ君くんのおとうさんは、もとボクシングの選手せんしゅだったので、井上いのうえ君くんも、ときどきボクシングをおそわることがあります。生うまれつきからだが大おおきくて力ちからが強つよいうえに、ボクシングの手てまで知しっているのですから、学校がっこうでも、だれも井上いのうえ君くんにかなうものはありません。

野呂のろ一平いっぺい君くんは、ノロちゃんというあだなでよばれていますが、からだの動うごかしかたがのろいわけではありません。なかなか、すばしっこいのです。しかし、やせっぽちで力ちからもなく、そのうえ、すこし、おくびょうなのです。

そんなおくびょうものが、どうして少年しょうねん探偵たんてい団だんにはいったかといいますと、ノロちゃんは、小林こばやし団長だんちょうを、ひじょうに尊敬そんけいしているので、どうしてもはいりたいといって、きかなかったからです。小林こばやし君くんも、ノロちゃんがすきですし、おくびょうだけれどもすばしっこいのと、だれにもすかれる、あいきょうものなので、団員だんいんに入いれることにしたのです。

三さん人にんがトキワ館かんにつきますと、井上いのうえ君くんのおじさんや、おばさんは「よくきた、よくきた。」といって、ひじょうに、かんげいしてくれました。

トキワ館かんのそばに、岩いわをくんだ野天のてんぶろがあります。三さん人にんはまずそこへはいって、およいだり、お湯ゆのかけっこをやったり、大おおはしゃぎをしたあとで、部屋へやにもどって、おいしい夕食ゆうしょくをたべました。

そのとき、おきゅうじをしてくれたのは、よくしゃべる女中じょちゅうさんで、いろいろ話はなしてくれましたが、そのうちに、みょうなことをいいだしたのです。

「あんたがた、少年しょうねん探偵たんてい団だんだってね。そんならばちょうどいい。いまこの村むらに、おっかねえことが、おこってるだよ。おまわりさんでも、どうにもできねえような、おっかねえことがよ。」

女中じょちゅうさんは、いなかの人ひとですから、ことばがへんですが、いみがわからないほどではありません。

三さん人にんの少年しょうねんはそれを聞きくと、にわかに、からだがシャンとしたような気きがしました。じつはそういう話はなしを、待まちかまえていたからです。

「おっかないって、いったい、どんなことですか。」

小林こばやし団長だんちょうが、ひざをのりだすようにしてたずねました。

「それがね、わけがわからねえだよ。なんでも、雲くもの上うえに、おっかねえばけものがいて、わるさをするっていうのよ。」

いよいよ、おもしろくなってきました。

「わるさって、どんなわるさをするんです。」

「雲くもの上うえから、でっかい手てが、ニューッとおりてきて、ニワトリや畑はたけのものをつかんでいくんだって。牛うしや馬うまでも、つかみころされたことがあるくれえよ。」

「ねえさんは、その大おおきな手てを、見みたことがあるの?」

「いんや、わしは見みねえけんど、大おおぜい見みた人ひとがあるだよ。そのばけものの腕うでは、ふたかかえもあるマツの木きのような、でっけえ腕うでだとよ。」

三さん人にんの少年しょうねんは、顔かおを見みあわせました。いったい、そんなばかなことが、あるものでしょうか。雲くもの中なかから、巨人きょじんの腕うでがニューッとあらわれて、いろんなものをつかんでいくなんて、いままで聞きいたこともない、へんな話はなしです。

「ねえさんは、そんなことをいって、ぼくらをおどかすんだろう。東京とうきょうの子こどもは、山やまの中なかのことを、なんにも知しらないと思おもって、おどかしているんだろう。」

ノロちゃんが、にやにや笑わらいながらいいました。ほんとうは、すこしこわくなってきたのですが、笑わらい顔がおでごまかしているのです。すると女中じょちゅうさんは、しんけんなちょうしで、

「いんや、おどかしでねえ。なんでわしが、おどかしなんかいうもんか。ほんとのこったよ。だがね、この話はなしをしちゃいけねえって、だんなさんにいわれてるだ。そんなうわさがたてば、温泉おんせんがさびれるだから、いっちゃいけねえってね。だが、あんたたち少年しょうねん探偵たんてい団だんだから、わし、ちょっといってみただ。だからよ、これ、ほかのお客きゃくさんに話はなすでねえよ。わしが、しゃべったことがわかると、だんなさんにしかられるだからね。」

少年しょうねんたちは、もっと、いろいろ聞ききだそうとしましたが、女中じょちゅうさんは自分じぶんで見みたわけではないので、くわしいことは、わかりませんでした。

そのあくる日ひ、井上いのうえ君くんがおじさんにあったとき、女中じょちゅうさんから聞きいたといわないで、それとなくたずねてみますと、おじさんは、こまったような顔かおをして、

「もう一郎いちろう君くんの耳みみにはいったのかい。ばかばかしい怪談かいだんだよ。雲くもの上うえから巨人きょじんの手てが出でて、いろんなものをつかんでいくなんて、そんなことが、信しんじられるかい。きっと、どろぼうがいるんだよ。いろんなものをぬすんでおいて、そんな、巨人きょじんのうわさをいいふらし、自分じぶんのつみをのがれようとしているんだよ。」

「じゃ、おまわりさんが、しらべればいいんですね。この村むらにだって警察けいさつがあるんでしょう。」

井上いのうえ君くんがいいますと、おじさんは、うなずいて、

「むろんあるさ。警察けいさつ分署ぶんしょがあって、四よん―五ご人にんのおまわりさんがいる。このあいだから、いっしょうけんめいに、しらべているんだが、まだ、どろぼうはつかまらない。じつにこまったことだ。」

と、ためいきをつくのでした。

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