← Library‹ 天空の魔人 少年名探偵

そのあくる日ひの夕ゆうがたになっても、貨車かしゃ紛失ふんしつ事件じけんには、なんの新あたらしい発見はっけんもありませんでした。さすがに警察けいさつ分署ぶんしょ長ちょうは、巨人きょじんの腕うでなどという、怪談かいだんを信しんじていたわけではありませんから、本署ほんしょとも連絡れんらくして、手てをつくして、捜索そうさくしたのですが、まったく手てがかりがないのです。

その夕ゆうがた、分署ぶんしょ長ちょうの波野なみの警部けいぶ補ほは、トキワ館かんの近ちかくに用事ようじがあったので、その帰かえりにトキワ館かんにたちよって、応接おうせつ間かんで主人しゅじんと話はなしこんでいました。

「なんどいっても同おなじことだが、こんなふしぎな事件じけんは、生うまれてはじめてですわい。貨物かもつ列車れっしゃのまん中なかの、一両いちりょうだけが消きえてなくなるなんて。しかも、あの列車れっしゃは、横目よこめ駅えきを出でたのも、矢倉やくら駅えきについたのも、時間じかん表ひょうのとおりで、一いち分ふんも、おくれちゃいない。貨車かしゃをとりはずすひまなんか、ぜったいになかったのじゃ。じつに、またふしぎな事件じけんですよ。どうやら、わしも、巨人きょじんの腕うでというやつを、信しんじそうになってきましたわい。」

分署ぶんしょ長ちょうは、井上いのうえ少年しょうねんのおじさんのトキワ館かんの主人しゅじんとは、碁ごの友ともだちでたいへんなかよしでしたから、なんのかくしだてもしないで、ぐちをこぼすのでした。

「いや、おさっししますよ。日ひごろは平和へいわな村むらで、事件じけんがなくてこまるほどだが、こんなとほうもない大だい事件じけんがおこっては、あんたも、たいていじゃありませんな。」

「うん、いなかの分ぶん署長しょちょうには、手てにおえませんわい。警視けいし庁ちょうの名めい探偵たんていでも、きてくれなくっちゃね。ハハハ……。」

分署ぶんしょ長ちょうの波野なみのさんは、お茶ちゃをすすりながら、にが笑わらいをするのでした。

そこへ、バタバタと、あわただしい足音あしおとがして、井上いのうえ少年しょうねんがかけこんできました。

「おじさん、わかりましたよ。ぼくらの団長だんちょうの小林こばやしさんが発見はっけんしたんです。幸みゆきちゃんってこどもね、あの子こはわるものに、お金かねをもらって、みんなをだましていたんです。いまここへつれてきますよ。」

「え、なんだって? 幸みゆきちゃんが、うそをついていたんだって?」

おじさんと分署ぶんしょ長ちょうの波野なみのさんは、顔かおを見みあわせて、おどろいています。

そこへ小林こばやし少年しょうねんとノロちゃんが、あの森もりの木きのてっぺんに、ひっかかっていた幸みゆきちゃんというこどもをつれて、はいってきました。

「うん、佐多さたの幸こうぼうじゃね。どうしたんじゃ。きみが、うそをついていたというのは、ほんとうか。」

波野なみのさんが、やさしくたずねました。幸みゆきちゃんは、制服せいふく姿すがたの警部けいぶ補ほを、じろりとうわ目めで見みて、うつむいてしまいました。そして、クシュン、クシュンと、鼻はなをすすって、だまりこんでいます。人ひとの心こころを見みぬくことになれた波野なみのさんには、幸みゆきちゃんが、うそをいっていたということが、すぐにわかりました。

幸みゆきちゃんがだまっているので、小林こばやし君くんが、わけを話はなしました。

「幸みゆきちゃんは、うそつきの名人めいじんだそうですね。でも、こんどは、一いち晩ばん、うちへ帰かえらなかったし、あんな高たかい木きの上うえで泣ないていたので、みんながほんとうだと思おもったのです。だまされてしまったのです。ぼくは、井上いのうえ君くんとノロちゃんが、白犬しろいぬが空そらにのぼっていくのを見みたときから、考かんがえつづけていました。明智あけち先生せんせいのやりかたをまねて、いっしょうけんめいに考かんがえたのです。そして、巨人きょじんの腕うでの秘密ひみつを、といたのです。」

「なに、きみが、秘密ひみつをといたって?」

分署ぶんしょ長ちょうさんは、信しんじられないというような顔かおつきで、小林こばやし君くんを見みつめました。

「ええ、とけたつもりです。巨人きょじんのうわさは、みんな、つくり話ばなしです。わるものが、村むらの人ひとたちをだましていたのです。

その秘密ひみつをとくのには、子こどもの幸さちちゃんをときふせて、はくじょうさせるのが、いちばん早道はやみちだと思おもいました。それでぼくは、きょう、お昼ひるすぎに幸さちちゃんをつかまえて、長ながい時間じかんかかって、やっと、はくじょうさせることができたのです。

ぼくは、持もっているだけのお金かねをみんなやるからといって、幸みゆきちゃんにたのみました。もし幸みゆきちゃんが、うそをいってるのだったら、別荘べっそうのおじさんに、何千なんぜん万まん円えんという、損害そんがいをあたえるばかりでなく、警察けいさつや、鉄道てつどうや、村むらの人ひとみんなに、どれほどめいわくをかけるかわからない。きみが、はくじょうしても、けっして、みんなが、しからないようにたのんでやるから、といって、いっしょうけんめいに、ときつけたのです。」

「うん、えらい。さすがは明智あけち先生せんせいの弟子でしじゃ。それで?」

分署ぶんしょ長ちょうさんは、感心かんしんしたように、ことばをはさみました。

「幸みゆきちゃんは、二に時間じかんぐらいたって、やっとはくじょうしました。わるものに、たくさんお金かねをもらって、あんなおしばいをやったのです。あの晩ばんは、近ちかくのお百姓ひゃくしょうの納屋なやの、わらの中なかで寝ねたんだそうです。そして、夜明よあけまえに、わるものに手てつだってもらって、あの高たかい木きのてっぺんへ、あがったのです。そのときわるものが、幸みゆきちゃんの顔かおや手てに、どろをぬったり、きずをつけたりしたんだそうです。そのまえに、幸みゆきちゃんが空そらをとんだというのは、みんな、わるものに教おしえられた、つくり話ばなしだったのです。……幸みゆきちゃん、ぼくがいまいったこと、ちがっていないね!」

すると、幸みゆきちゃんは、うつむいたまま、また、クシュン、クシュンと、鼻はなをすすりながら、二に度どもうなずいてみせました。

「ふうん、そうだったのか。分署ぶんしょ長ちょうのわしがそこへ気きがつかなかったとは、じつにもうしわけがない。小林こばやし君くん、お礼れいをいいます。よくそこまでやってくれた。」

波野なみのさんは、人ひとのよい笑わらい顔がおで、心こころから小林こばやし君くんをほめてくれるのでした。そのとき、井上いのうえ君くんのおじさんのトキワ館かんの主人しゅじんが、口くちをはさみました。

「さすがは、少年しょうねん探偵たんてい団だんの団長だんちょうだね。おじさんも感心かんしんしたよ。それじゃ、ほかのことも、きみには、わかっているんだろうね。ニワトリが盗ぬすまれたことだとか、牛うしが足あしをおったことだとか、畑はたけに、大おおきな穴あながあいていたことだとか、それから、きみたちのうちふたりが見みた、白犬しろいぬが、つかみあげられたことだとか……。」

「みんな、うそっぱちですよ。」

小林こばやし君くんが、そくざにこたえました。

「ニワトリは、ちょうど巨人きょじんの腕うでがやぶりでもしたように、鳥とり小屋こやを大おおきくやぶって、盗ぬすんでいっただけですし、牛うしは、ただ、なにかで足あしをなぐって、立たてないようにして、空そらからおとされたように見みせかけたのだし、畑はたけも、シャベルかなんかで、巨人きょじんがつかみとったようなあとをつけたのですよ。

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