← Library‹ 仮面の恐怖王 三日月の笑い

それから一いち週間しゅうかんほどのち、舞台ぶたいは東京とうきょうにうつって、またしても、おそろしい事件じけんがおこりました。

ある夜よる、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんの木下きのした君くんと宮島みやじま君くんが、世田谷せたがや区くのクイーンという小ちいさな映画えいが館かんの客席きゃくせきに、腰こしかけていました。

このふたりは小しょう学校がっこう六ろく年ねん生せいで、まだ少年しょうねん探偵たんてい団だんにはいったばかりでしたが、正式せいしきの団員だんいんですから、むねには、とくいそうにB・Dバッジをつけていました。

なぜそんな小ちいさな映画えいが館かんにはいったかといいますと、そこには「むかしなつかしき、おもいでの映画えいが週間しゅうかん」というかんばんが出でていて、こんやは十じゅう年ねんも前まえに大だいひょうばんだった「黄金おうごん仮面かめん」の古ふるい映画えいがが上映じょうえいされていたからです。

あの京都きょうとの高橋たかはし少年しょうねんが読よんだという、ルパンのばけた「黄金おうごん仮面かめん」の本ほんが映画えいがになったものです。ふたりの少年しょうねんは、その本ほんを読よんでいましたけれど、映画えいがは一いち度ども見みていなかったので、クイーン映画えいが館かんのかんばんを見みると、さっそく見物けんぶつすることにしたのです。

まず上野うえの公園こうえんの博覧はくらん会かいにちんれつしてあった、何千なんぜんという真珠しんじゅの玉たまを集あつめてこしらえた、三十さんじゅうセンチほどの小ちいさい塔とうを黄金おうごん仮面かめんがぬすみだすところから始はじまって、だんだん場面ばめんがすすんでいきましたが、ある場面ばめんで、黄金おうごん仮面かめんの顔かおだけがスクリーンいっぱいに大おおうつしになりました。

ふつうの人間にんげんの何千なんぜん倍ばいもあるような、とほうもなく大おおきな顔かおです。しかもそれが金かねの顔かおで、お能のうの面めんのように、うすきみわるい形かたちをしているのです。

その顔かおが口くちを三み日か月形つきがたにキューッとまげて、ニヤニヤと笑わらいました。口くちのところが三み日か月形つきがたの、ほそい穴あなになって、そのおくに歯はや舌したがあるのでしょうが、なにも見みえず、まっ黒くろなのです。

そこでは音楽おんがくもやんでしまって、なんの音おとも聞きこえません。見物けんぶつ席せきはかたずをのんで、シーンと、しずまりかえっています。

そのしずけさをやぶって見物けんぶつ席せきのすみから、キャーッという、ひめいがおこりました。女おんなの人ひとがあまりのおそろしさに、おもわず、さけび声ごえをたてたのです。

見物けんぶつ人にんたちは、その声こえにゾーッとふるえあがりましたが、てれかくしのように、ほうぼうに笑わらい声ごえとざわめきがおこりました。見物けんぶつ人にんというものは、こわいときに笑わらうものです。

つぎのしゅんかん、その笑わらい声ごえがピタリと、とまってしまいました。画面がめんにおそろしいことがおこったからです。

黄金おうごん仮面かめんがスクリーンいっぱいに笑わらっている、その三日月みかつき形けいの口くちの右みぎのすみから、まっかな液体えきたいがタラタラとながれおちたのです。その映画えいがはカラー映画えいがでなくて、白黒しろくろの映画えいがなのです。その色いろのない画面がめんに、とつぜん、まっかな色いろの液体えきたいがながれたのです。

血ちです。

うすきみのわるい三み日か月形つきがたの口くちから、血ちがながれおちたのです。そして、その血ちだけが、まっかな色いろをしていたのです。

黄金おうごん仮面かめんはまだ笑わらっています。声こえのない笑わらいを、笑わらっています。そして、その口くちから血ちをはいているのです。

カラー映画えいがでなくても、フィルムの一いち枚まい一いち枚まいを虫むしめがねで見みながら、小ちいさく色いろをぬれば、こんなふうに見みえるかもしれません。しかし、色いろが出だしたければカラー映画えいがをとればいいのですから、いまどき、そんなてまのかかることをするはずがありません。

じじつ、その映画えいがには色いろはまったくついていなかったのです。それが、こんやにかぎって、まっかな血ちがながれだしたのです。

見物けんぶつ人にんはギョッとして逃にげごしになって、席せきから立たちあがりました。それより、もっとおどろいたのは映写えいしゃ技師ぎしです。

血ちを見みるとびっくりして、機械きかいをとめてしまったのです。そしてフィルムをはずして、よくしらべるために、そのあいだ場ば内ないの電灯でんとうをつけました。

スクリーンの大おおうつしがぱっと消きえて、見物けんぶつ席せきがあかるくなりました。

見物けんぶつ人にんのひとりひとりが、じぶんは気きがちがったのではないかと思おもいました。あんなおそろしい映画えいががあるはずはないからです。

ですから、スクリーンの画面がめんが消きえて、場内じょうないがあかるくなったときには、ゆめからさめたような気持きもちでした。

少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんの木下きのした君くんと宮島みやじま君くんも見物けんぶつ席せきの前まえのほうで、この怪かい映画えいがを見みたのですが、これはなにか犯罪はんざいにかんけいがあるかもしれないと思おもったので、こわさもわすれて、キョロキョロと場内じょうないを見みまわすのでした。

そのときです。

見物けんぶつ席せきにワーッというような、どよめきがおこりました。そして、てんでに席せきを立たって、映画えいが館かんの入口いりぐちのほうへ逃にげだそうとしました。

それもむりはありません。スクリーンの前まえの舞台ぶたいのうえに、おそろしいことがおこっていたのです。

ああ、ごらんなさい。スクリーンの前まえに、なんともえたいの知しれぬ怪物かいぶつが、のこのこと、あらわれてきたではありませんか。

それは映画えいがの中なかの黄金おうごん仮面かめんとそっくりのやつでした。スクリーンからぬけだして実物じつぶつになって、あらわれたとしかおもわれませんでした。

金色きんいろの顔かお、頭あたまには金色きんいろのターバン、金色きんいろのマント、金色きんいろのズボン、金色きんいろのくつ。そいつがスクリーンの前まえにたちはだかって、見物けんぶつ席せきを見みおろしているのです。

映画えいが館かんの人ひとは客席きゃくせきのうしろから、それを見みると、あおくなって、一いち一いち〇れい番ばんへ電話でんわをかけました。

すると、三さん分ふんとたたないうちに近ちかくをまわっていたパトロールカーがかけつけ、ふたりのおまわりさんが、映画えいが館かんの中なかへとびこんできました。

それからのさわぎは、どう書かいたらいいのか、わからないほどでした。

ふたりの警官けいかんは廊下ろうかをとおって、舞台ぶたいにかけあがりました。

それといきちがいに、黄金おうごん仮面かめんはヒラリと客席きゃくせきにとびおり、いすのあいだを入口いりぐちのほうへ走はしるのです。

まだ残のこっていた見物けんぶつ人にんたちは、黄金おうごん仮面かめんにつかまったらたいへんだと、身みをよけて通とおり道みちをあけてやります。そのためにうしろにいた人ひとたちがころんでしまい、こどものなき声ごえ、女おんなの人ひとたちのひめいで、なんともいえないさわぎです。

木下きのした、宮島みやじまの二に少年しょうねんもその中なかにいましたが、いくら少年しょうねん探偵たんてい団だんでも、この怪物かいぶつにであっては、どうすることもできません。ただ、さわぎをながめているばかりです。

黄金おうごん仮面かめんは客席きゃくせきをつっきると、おもてへは出でないで、二に階かいの見物けんぶつ席せきへの階段かいだんをかけのぼり、二に階かいのおもてがわの窓まどをやぶって、ひさし屋根やねに出でました。

おもての道路どうろは、逃にげだした見物けんぶつ人にんたちと通とおりがかりの人ひとたちで、いっぱいになり、自動じどう車しゃが何なん台だいも動うごけなくなっているのです。

黄金おうごん仮面かめんはその群衆ぐんしゅうを見みおろして、あの三日月みかつき形けいの口くちでニヤニヤと笑わらいました。そして、ひさし屋根やねの一方いっぽうのすみまでいくと、そこにさがって来きている大おお屋根やねのはしに手てをかけ、ヒラリととびのって、いまにもすべりおちそうな大おお屋根やねの上うえを金色きんいろのトカゲのように、はいあがっていくのです。

ふたりのおまわりさんは窓まどのそとに出でて、ひさし屋根やねまで来きましたが、とても大おお屋根やねへはのぼれません。黄金おうごん仮面かめんはかるわざ師しのように身みがかるいので、ふつうの人間にんげんに、そのまねができるはずはないのです。

それから、しばらくすると、映画えいが館かんの前まえに集あつまって、屋根やねを見みあげていた群衆ぐんしゅうの中なかから、ワーッという声こえがわきあがりました。

みんな、夜よるの空そらを見みあげて、さけんでいるのです。大おお屋根やねよりも、もっと高たかい空そらを見みているのです。いったい、なにがおこったのでしょう。

おお、またしても、空中くうちゅう飛行ひこうです。黄金おうごん仮面かめんは金色きんいろのマントをひるがえして、夜よるの大空おおぞらを、南みなみをさして一いち直線ちょくせんにとんでいくのです。スーパーマンのように、とんでいくのです。

空そらには、かずしれぬ星ほしが、またたいていました。その下したを、星ほしよりもうつくしくひかる黄金おうごんの鳥人ちょうじんが、おそろしい早はやさでとんでいくのです。

そして、あれよあれよと見みるまに、黄金おうごん仮面かめんの姿すがたは、たちまち小ちいさくなり、またたく星ほしの間あいだにまぎれこんで見みえなくなってしまいました。

Next chapter →
Click a word · hold for the whole sentence 0%