← Library‹ 電人M ひらけ、ゴマ

ポケット小僧こぞうは、うまく機械きかい室しつを逃にげ出だすことができました。

廊下ろうかに出でてみると、さっきまで、川かわが流ながれるように動うごいていたリノリウムの床ゆかが、いまは、とまっていました。その方ほうが都合つごうがいいのです。どちらへでも、行いけるからです。

廊下ろうかには、小ちいさな電灯でんとうが、ぼんやりと光ひかりを投なげているだけですが、人目ひとめをしのぶポケット小僧こぞうには、これも、具合ぐあいがいいのでした。

廊下ろうかのかべを、つたうようにして、だんだん奥おくの方ほうへ、進すすんで行いきました。

廊下ろうかは、まるで迷路めいろのように、いくつも枝道えだみちがあり、右みぎに左ひだりに、まがっていました。歩あるいていると、いつのまにか、もとのところへ、もどってくるような気きがします。

さすがのポケット小僧こぞうも、道みちにまよってしまって、長ながい間あいだ、廊下ろうかを、行いったり来きたりしていました。

ハッと気きがつくと、うしろのほうに、人ひとのけはいがします。

びっくりして、ぴったり、かべにからだをくっつけました。暗くらい廊下ろうかなので、そうすると、ポケット小僧こぞうの小ちいさなからだは、かべとみわけがつかなくなってしまうのです。

その前まえを、あの大おおきな電でん人にんMが、足音あしおともたてないで、歩あるいて行いきました。二十にじゅう面相めんそうです。機械きかいの実験じっけんをすませて、治郎じろう君くんをどこかに、とじこめてから、自分じぶんの部屋へやへ、帰かえって行いくらしいのです。

ポケット小僧こぞうは、かべから離はなれて、そっと、そのあとをつけました。

二十にじゅう面相めんそうは、廊下ろうかを二ふたつ曲まがったところで、立たちどまりました。

そして、低ひくい声こえで、

「ひらけ、ゴマ。」

と、呪文じゅもんのようなことばを、つぶやきました。

「ひらけ、ゴマ」というのは、「アリババ」の童話どうわにでてくる呪文じゅもんで、それを唱となえると、どんな厳重げんじゅうなとびらでも、ひとりでに、スーッと、開ひらくというのですが、実際じっさいに、そんなことが、できるはずはありません。

ところが、おお、ごらんなさい。二十にじゅう面相めんそうが、その呪文じゅもんを唱となえると、なにもしないのに、廊下ろうかのかべが、まるでドアのように、スーッと、開ひらいていくではありませんか。

ポケット小僧こぞうは、びっくりしましたが、これはやはり電気でんき仕掛しかけなので、「ひらけ、ゴマ」という音波おんぱが、そのかべの上うえに仕掛しかけてある、小ちいさなマイクロフォンに伝つたわると、秘密ひみつのとびらが、開ひらくような仕掛しかけになっているのです。

ちょうど、金庫きんこの暗号あんごう錠じょうと同おなじで、「ひらけ、ゴマ」ということばの組合くみあわせでなくては、開ひらかないのです。なんという、安全あんぜんで、便利べんりな錠前じょうまえでしょう。

開ひらいたかべの中なかから、まぶしいような白しろい光ひかりがさしてきました。

二十にじゅう面相めんそうが、その中なかにはいると、とびらは、ひとりでにしまりました。しかし、そのときには、小ちいさい黒くろんぼのようなポケット小僧こぞうは、すばやく、その部屋へやにとびこんで、もの陰かげに身みをかくしてしまいました。

見みると、四十よんじゅう平方へいほうメートルほどの、広ひろい部屋へやです。そして部屋へやじゅうがプラチナのように、きらきらと光ひかっています。

四方しほうのかべは、全部ぜんぶガラス張ばりの陳列ちんれつ棚たなになっていて、そこに、あらゆる美術びじゅつ品ひんが、ならんでいました。中なかでも、ぴかぴか光ひかる宝石ほうせきの首飾くびかざり、腕輪うでわ、小箱こばこ、王冠おうかんなどからは、虹にじのような後光ごこうがさしています。

ポケット小僧こぞうは、すっかり、めんくらってしまいました。地ちの底そこに、こんなすばらしい美術びじゅつ室しつがあるなんて、想像そうぞうもできないことでした。

二十にじゅう面相めんそうは、前まえには、山やまの中なかの奇き面めん城じょうに、大おおきな美術びじゅつ室しつをもっていましたが、小林こばやし少年しょうねんとポケット小僧こぞうの働はたらきで、それを警察けいさつにとりあげられてしまったので、こんどは、東京とうきょう都内とないに、こんな広ひろい地下ちかのすみかを造つくって、また盗ぬすみ集あつめた美術びじゅつ品ひんを、この部屋へやに飾かざっているのでしょう。

部屋へやの入口いりぐちのそばに、美うつくしい彫刻ちょうこくのある木きの箪笥たんすのようなものが、置おいてあったので、ポケット小僧こぞうは、そのうしろに身みをかくして、二十にじゅう面相めんそうのようすを、うかがっていました。

部屋へやのまんなかに大おおきなテーブルがあり、そのまわりに、りっぱな椅子いすがならんでいます。二十にじゅう面相めんそうはその椅子いすのひとつに、ゆったり、腰こしをかけて、テーブルの上うえの金色きんいろの箱はこから、葉巻はまきタバコをとって、金色きんいろのライターで火ひをつけました。

葉巻はまきタバコのいいにおいが、ポケット小僧こぞうのところまで、流ながれてきます。

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