← Library‹ 電人M ポケット小僧の曲芸

原はらっぱを出でようとすると、ポケット小僧こぞうは、コンクリートの長ながい塀へいのようなものに、ぶつかってしまいました。どこかに出口でぐちはないかと、塀へいをつたって、横よこに進すすんで行いきましたが、塀へいはどこまでもつづいています。しかも、まっすぐではなくて、みんなのかけているベンチをかこむように、丸まるくなっているのです。

「へんだなあ。こんな丸まるい塀へいの公園こうえんなんて、東京とうきょうにあったかしら。」

ポケット小僧こぞうは、首くびをかしげて、空そらを見みあげました。

すると、みょうなことに、気きがついたのです。塀へいの向むこうがわには星ほしが一ひとつも見みえないではありませんか。

「おやっ、雲くもが出でたのかな。」

と、うしろを振ふり返かえって見みますと、うしろの空そらには、さっきと同おなじように、たくさんの星ほしが、キラキラと、輝かがやいています。

なんだかへんです。こんなに、くっきり、空そらが二ふたつにわかれて、一方いっぽうには少すこしも雲くもがなく、一方いっぽうは厚あつい雲くもにおおわれるということが、あるものでしょうか。

「あっ、そうだっ。わかったぞっ。」

ポケット小僧こぞうは、思おもわず心こころの中なかで、さけびました。

ここは、あの月つき世界せかい旅行りょこうの見世物みせものの、月球げっきゅうの内部ないぶにあるプラネタリウムだったのです。頭あたまのいくつもある大おおきな黒くろい怪物かいぶつは、プラネタリウムの機械きかいだったのです。

ポケット小僧こぞうがしのびこんだ桜井さくらいさんのガレージは、練馬ねりま区くにあるのです。

そして、月がつ世界せかいの見世物みせものも、同おなじ練馬ねりま区くでした。

この二ふたつの場所ばしょは、あんがい近ちかいのかもしれません。二十にじゅう面相めんそうは、その間あいだに、長ながいトンネルを造つくったのでしょう。

いつか、小林こばやし団長だんちょうは、二十にじゅう面相めんそうと、月がつ世界せかいの見世物みせものとは、なにか、関係かんけいがあるんじゃないかと、言いったことがあります。ポケット小僧こぞうは、あのことばを、思おもい出だしました。

やっぱりそうだったのです。月がつ世界せかいのプラネタリウムは、昼間ひるまは、ほんとうの見世物みせものとして、大おおぜいの客きゃくをいれ、夜よるがふけると、二十にじゅう面相めんそう怪盗かいとう団だんの会合かいごうの場所ばしょに使つかわれていたのです。そして、その地下ちかつづきに、二十にじゅう面相めんそうのかくれがが、造つくってあったのです。

あんなにぎやかな見世物みせものの中なかに、二十にじゅう面相めんそうのすみかがあるなんて、だれも考かんがえおよばないことでした。

見世物みせものでお金かねをもうけるばかりでなく、それで世間せけんの目めをごまかしていたのです。二十にじゅう面相めんそうらしい大胆だいたんなやりかたではありませんか。

ポケット小僧こぞうは、なおも、塀へいをつたって、右みぎへ右みぎへと、進すすんでいきました。

やがて、大おおきな入口いりぐちの扉とびらのところへ、たどりつきました。その扉とびらは、厳重げんじゅうに、かぎがかかっていて、びくとも動うごきません。

しかたがないので、そこを通とおりすぎて、もっと右みぎの方ほうへ、進すすんで行いきますと、また出入でいり口くちがあって、そこはドアが開ひらいたままになっていました。

そこは、昼間ひるま、プラネタリウムを見みにくる人ひとたちの、休憩きゅうけい室しつでした。広ひろい部屋へやに、電灯でんとうがひとつだけついていて、あたりをボンヤリと、照てらしています。

やっぱり、ここは見世物みせもののプラネタリウムでした。もう、間違まちがいはありません。

休憩きゅうけい室しつのかべぎわに、コンクリートの台だいがあって、その上うえに、瀬戸せと物ものの大おおきな花瓶かびんが飾かざってあります。高たかさ八十はちじゅうセンチほどもある、りっぱな花瓶かびんです。花はなもいけてないし、水みずも、はいっていません。ただ、部屋へやの飾かざりとして、置おいてあるのです。これも二十にじゅう面相めんそうが、どこからか盗ぬすんできた美術びじゅつ品ひんのひとつかもしれません。

ポケット小僧こぞうは、その花瓶かびんを、じっと眺ながめていました。それから台だいの上うえに上あがって、中なかに手てをいれて、水みずがはいっていないことを、たしかめました。

「あっ、そうだ。この部屋へやで、見物けんぶつの人ひとたちは、宇宙うちゅう服ふくを脱ぬいで、かかりの人ひとにかえすんだな。あのしまった戸との中なかに、宇宙うちゅう服ふくをおく棚たながあるんだ。」

ポケット小僧こぞうは、いつか月つき世界せかい旅行りょこうの見世物みせものを、見物けんぶつしたことがあるので、それを知しっていたのです。

「ウフフフ……。」

ポケット小僧こぞうの黒くろふくめんの中なかから、低ひくい笑わらい声ごえがもれてきました。いたずらっぽい笑わらいです。なにかおもしろいことを、考かんがえついたのでしょうか。

それから、また、まっくらなプラネタリウムの中なかへ、もどっていきました。

二十にじゅう面相めんそうの部下ぶかたちは、会議かいぎがすんだので、半分はんぶんはベンチから立たちあがっていましたが、まだ、半分はんぶんは、腰こしかけたままです。

「あっ、痛いたいっ。」

腰こしかけている部下ぶかのひとりが、小ちいさい声こえでさけんで、ベンチの下したを、のぞきこみました。なにかに、足あしをくいつかれたような気きがしたからです。しかし、ベンチの下したには、なにもいません。

「あっ、痛いたいっ。」

こんどは、すこしへだたったベンチで、同おなじことがおこりました。

それから、あちらでも、こちらでも、

「痛いたいっ。」「痛いたい。」

という声こえがおこり、みんながベンチの下したをのぞくのです。

「おい、なにかいるよ。犬いぬじゃないか。」

「いや、犬いぬにしては、かみつきかたが小ちいさいよ。ネズミだろう。」

「ネズミが人間にんげんにかみつくもんか。なにか、怪あやしい動物どうぶつが、まぎれこんでいるんだ。」

「おい、懐中かいちゅう電灯でんとうをつけて、捜さがしてみよう。」

パッ、パッと、あちこちに、光ひかりがながれました。部下ぶかたちが懐中かいちゅう電灯でんとうをつけて、ベンチの下したを照てらしているのです。

「あっ、まっ黒くろなやつがいる。」

「人間にんげんだ! 人間にんげんの子こどもだ。」

「よし、つかまえてしまえ。」

とうとう、見みつかりました。むろん、それはポケット小僧こぞうだったのです。かれは、からだが小ちいさいのをさいわいに、ベンチの下したをはい歩あるいて、部下ぶかたちの足あしを、つねって回まわったのです。

たちまち、みんなに、とりかこまれましたが、小ちいさいうえに、すばしっこいポケット小僧こぞうは、ヒョイヒョイと身みをかわして、リスのように逃にげ回まわり、なかなか、つかまるものではありません。

くらやみの中なかの鬼おにごっこが、はじまりました。

「あっ、そっちへ行いったぞっ。」

「さあ、つかまえたっ。……あらっ、すべり抜ぬけちゃった。なんて、すばやいやつだ。」

「痛いたいっ、おれのお尻しりに、かみつきやがった。こん畜生ちくしょう。」

大おおさわぎです。相手あいてはポケットにはいるといわれる、小ちいさな子こども、こちらは、何十なんじゅう人にんの大人おとなです。追おっかける方ほうが、多おおすぎて、同士どうし打うちなんかやって、かえって、つかまらないのです。

パッと、プラネタリウムの丸屋根まるやねに、電灯でんとうがつきました。だれかが、スイッチを入いれたのです。

「おやっ、どこへ行いったんだ。」

「休憩きゅうけい室しつへ、逃にげたらしいぞ。」

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