← Library‹ 電人M 大発明

豊島としま区くの奥おくのさびしいやしき町まちに、近所きんじょの家いえから離はなれて、二に階かい建だての西洋せいよう館かんがたっていました。これは化学かがく者しゃ遠藤えんどう博士はかせの研究けんきゅう所しょと住宅じゅうたくをかねた建物たてものでした。

遠藤えんどう博士はかせは、もと大学だいがく教授きょうじゅをやっていたこともありますが、もう十じゅう年ねんもまえ、まだ若わかいころに教授きょうじゅをやめて、財産ざいさんのあるにまかせて、なにか大おおきな研究けんきゅうにとりかかり、それをずっとつづけているのです。

博士はかせの家いえには、おくさんの美代子みよこさんと、治郎じろう君くんと、やすえちゃんというふたりの子こどもがありました。治郎じろう君くんは中学ちゅうがく一いち年ねん生せい、やすえちゃんは小しょう学校がっこう三さん年ねん生せいです。

家族かぞくのほかに、研究けんきゅう助手じょしゅの木村きむら青年せいねんとお手伝てつだいさんがひとりいるきりでした。

博士はかせがなにを研究けんきゅうしているかは、家族かぞくのだれも知しりません。助手じょしゅの木村きむら青年せいねんさえ、はっきりしたことはわからないのです。

遠藤えんどうさんの家いえには、広ひろい研究けんきゅう室しつがあって、その中なかには、いろいろな化学かがく実験じっけんの道具どうぐや薬品やくひんが、いっぱいならんでいるのですが、この実験じっけん室しつはがんじょうな鉄筋てっきんコンクリート造つくりで、一ひとつしかない入口いりぐちには、がんじょうなドアがついており、窓まどにはぜんぶ鉄てつ格子こうしがはめてあるうえ、そとに鉄てつのとびらがついていて、まるで巨大きょだいな金庫きんこのような部屋へやでした。

博士はかせは一いち日にちじゅうその研究けんきゅう室しつにとじこもって、なにかの研究けんきゅうにかかりきっています。おくさんの美代子みよこさんは、心配しんぱいして、ときどき、「なにを研究けんきゅうなさっているのですか。」とたずねてみるのですが、博士はかせは、

「世界せかいをひっくりかえすような大だい発明はつめいだよ。しかし、それがなんであるかは、わしのほかは、だれも知しらない。木村きむら君くんもしらない。うっかりしゃべったら、たいへんなことになるのだ。これは秘中ひちゅうの秘ひだよ。」

と言いうばかりでした。

その大だい発明はつめいが、いよいよできあがったらしく、このごろは、博士はかせの顔かおがいきいきしてきました。さもうれしそうに、ひとりでニヤニヤ笑わらっていることもあります。

研究けんきゅう室しつの外そとの小屋こやには、ウサギがたくさん飼かってありました。化学かがく実験じっけんに使つかうためです。その何十なんじゅう匹ひきというウサギが、いっぺんに死しんでしまって、死骸しがいを裏庭うらにわに、うずめることが、たびたびありました。庭にわを掘ほってうずめるのは、木村きむら助手じょしゅの役目やくめです。そういうことが、幾度いくどもくりかえされたので、五ご―六ろく年ねんのうちに、何百なんびゃく匹ひきというウサギが、裏庭うらにわに、うずめられました。

うちの人ひとたちは、それをきみわるがりました。木村きむら助手じょしゅも、あまりいい気持きもちはしません。それらのウサギたちが、いつ、どうして死しんでしまうのか、すこしもわからなかったのです。

しばらくすると、博士はかせのうちに、いろいろな人ひとが、たずねてくるようになりました。みな、りっぱな服ふくをきた紳士しんしばかりです。その中なかには、どこの国くにの人ひとかわかりませんが、外国がいこく人にんもおりました。そして、それらの紳士しんしたちは、博士はかせの応接おうせつ間かんで、なにかヒソヒソと、ながい時間じかん、話はなしをして帰かえっていくのです。

あるとき、木村きむら助手じょしゅが、おくさんの美代子みよこさんにこんなことを言いいました。

「発明はつめいがいよいよできたんですよ。先生せんせいが、そうおっしゃいました。まだ秘密ひみつですが、どこから、感かんづいたのか、このごろ、たずねてくる人ひとたちは、先生せんせいにその発明はつめいのことを聞きくためにやってくるのですよ。政府せいふのえらい人ひともきます。外国がいこく人にんもきます。なんだか恐おそろしくなってきました。先生せんせいは世界せかいをひっくりかえすような大だい発明はつめいをされたらしいのですよ。」

うちの人ひとたちは、心配しんぱいでたまりません。博士はかせがいろいろな人ひとに、つきまとわれて、そのうちに、恐おそろしいことが起おこるのではないかと思おもわれたからです。

よくやってくる、ある外国がいこく人にんなどは、目めがへんにするどくて、世界せかいをまたにかけているスパイというような感かんじをうけました。きみがわるくてしかたがありません。

ところが、そうしているうちに、もっときみのわるいことが起おこったのです。

ある晩ばんのこと、使つかいにいった木村きむら助手じょしゅが、顔色かおいろをかえて、研究けんきゅう室しつへとびこんできました。

「先生せんせい、塀へいの外そとに、へんなやつがウロウロしてますよ。先生せんせいの発明はつめいをねらっているのじゃないでしょうか。」

「へんなやつって、どんなやつだ。」

「恐おそろしくでっかいやつです。相撲取すもうとりみたいな、まっ黒くろなやつです。」

「まっ黒くろだって?」

「ええ、からだじゅう、まっ黒くろです。頭あたまはぼくの三さん倍ばいほどもあって、まっ赤かな目めが光ひかっているのです。」

「きみはどうかしたんだよ。そんな化ばけ物ものが、町まちを歩あるいているはずはない。まぼろしでも見みたんだ。」

博士はかせは、笑わらってとりあいませんでしたが、やがてそれが、けっして、まぼろしなんかでないことが、わかってきたのです。

その晩ばん、博士はかせの子こどもの中学ちゅうがく生せいの治郎じろう君くんは、自分じぶんの部屋へやで勉強べんきょうしていましたが、宿題しゅくだいが終おわったので、ひと休やすみして、外そとの空気くうきを吸すうために、窓まどを開ひらきました。

窓まどの外そとは、まっくらな庭にわです。向むこうに木きの茂しげみが、黒くろく見みえています。

ふと気きがつくと、その木きの茂しげみの間あいだに、赤あかい光ひかりが、チラチラと動うごいているではありませんか。

「おや、なんだろう。ヘビの目めが光ひかっているのかしら。いや、あんな大おおきな目めのヘビがいるはずはない。それに、動物どうぶつの目めにしては赤あかすぎる。といって懐中かいちゅう電灯でんとうでもない、へんだなあ……。」

治郎じろう君くんは勇気ゆうきのある少年しょうねんでしたから、外そとへ行いって、たしかめてみる気きになりました。

懐中かいちゅう電灯でんとうを持もって、部屋へやを出でると、縁側えんがわからおりて、庭にわにまわり、木きの茂しげみへ、近ちかづいていきました。

チカ、チカ、チカ……、その赤あかい光ひかりが、ついたり、きえたりしています。

「だれだっ、そこにいるのは?」

治郎じろう君くんは、そうさけんで、いきなり懐中かいちゅう電灯でんとうをつけて、そのへんを、照てらしました。

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