← Library‹ 妖星人R 古山博士

ひとりの新聞しんぶん記者きしゃが、この話はなしを聞ききつけて、別所べっしょ君くんをたずねてきました。そして、いろいろ質問しつもんして、これはうそじゃない、とおもいました。かれは東京とうきょうの毎朝まいちょう新聞しんぶんの銚子ちょうし支局しきょくの記者きしゃでしたが、さっそく、くわしい記事きじを書かいて、本社ほんしゃに送おくりました。その記事きじが毎朝まいあさ新聞しんぶんに大おおきくのったのです。それには別所べっしょ次郎じろう君くんの書かいた、怪物かいぶつの写生図しゃせいずまではいっていました。

カニ怪人かいじんRのことは、これで東京とうきょうじゅう、いや、日本にっぽんじゅうに知しれわたりました。どこへいっても、カニのおばけのうわさで、もちきりです。さかな屋やさんの店みせで、カニをみても、なんだか、うすきみわるくなるので、さっぱりカニが売うれなくなったといわれるほどでした。

そんなある日ひのことです。港みなと区くの古山ふるやま博士はかせのうちで、へんなことがおこっていました。

古山ふるやま文学ぶんがく博士はかせは、岩谷いわや美術びじゅつ館かんの館長かんちょうでした。この美術びじゅつ館かんは、岩谷いわたにというお金持かねもちがたてたもので、陳列ちんれつ室しつが五いつつぐらいしかない、小ちいさな美術びじゅつ館かんでしたが、美術びじゅつ品ひんは、つぶよりのものが、そろっていました。ことに、仏像ぶつぞうの部屋へやには、奈良なら時代じだいから鎌倉かまくら時代じだいまでの、国宝こくほうや重要じゅうよう美術びじゅつ品ひんがいっぱいならんでいるのです。

古山ふるやま博士はかせは、古こ美術びじゅつ研究けんきゅうの大家たいかで、三さん年ねんほどまえから、この美術びじゅつ館かんの館長かんちょうをつとめていました。美術びじゅつ館かんも港みなと区くにあり、博士はかせのうちからは、一いちキロぐらいのちかさでした。

博士はかせの家族かぞくは、奥おくさんと、ひとりっ子この古山ふるやま忠雄ただお君くんと、書生しょせいさんと、女中じょちゅうさんの五ご人にん暮くらしです。

この忠雄ただお君くんは、小しょう学校がっこう六ろく年ねん生せいで、名めい探偵たんてい明智小五郎あけちこごろうの助手じょしゅの小林こばやし少年しょうねんが団長だんちょうをやっている、少年しょうねん探偵たんてい団だんの団員だんいんでした。

その日ひは、古山ふるやま博士はかせは美術びじゅつ館かんから、はやくかえっていましたが、午後ごご四し時じごろ、洋室ようしつの書斎しょさいにはいったかとおもうと、大声おおごえで、忠雄ただお君くんをよびつけました。

「パパ、なに。」

忠雄ただお君くんが、いそいで書斎しょさいにはいっていきますと、おとうさんは、デスクの前まえに、つったって、じっと、その上うえをみつめているのです。

「これ、おまえが書かいたのか。」

みると、デスクの上うえに、おとうさんの大型おおがたの日ひ記帳きちょうがひらいてあって、そのページいっぱいに、字じだか、絵えだかわからないような、上うえのような形かたちのものが書かきなぐってあるのです。それをひと目めみると、忠雄ただお君くんが、とんきょうな声こえをたてました。

「あっ、ここにも……パパ、おんなじものが、ぼくのノートにも書かいてあったよ。」

忠雄ただお君くんは、いきなり、書斎しょさいをかけだして、じぶんの勉強べんきょう部屋へやから、一いち冊さつの大学だいがくノートをもって、もどってきました。そのノートにも、ページいっぱいに、おなじいたずら書がきがしてあるのです。

ふたりは、だまって、目めを見みあわせていましたが、やがて、忠雄ただお君くんが、青あおざめた顔かおで、ささやくようにいいました。

「パパ、これ英語えいごのRという字じじゃない?」

「うん、そういえばRだね。だが、この二ふたつのまるは、なんだろう。」

「目めだよ。」

「えっ、目めだって?」

「カニ怪人かいじんの目めだよ。そして、あいての名なはRっていうんだ。Rすい星せいからきたやつだからね。」

「おまえは、なにをいうんだ。まさか……。」

「だって、新聞しんぶんにそう書かいてあったでしょう。カニ怪人かいじんは、じぶんのことをRとよんでくれといって、地面じめんにRの字じを書かいてみせたって。そのRがカニ怪人かいじんの形かたちとよくにていたと書かいてあったでしょう。きっと、あいつだよ。」

「おまえは、少年しょうねん探偵たんてい団だんだから、そんなふうに考かんがえるんだよ。こんないたずら書がきをするのには、その怪物かいぶつが、うちへしのびこまなければならない。そんなことができるものじゃないよ。だれかが、いたずらをしたんだ。カニ怪人かいじんなんかじゃない。ひょっとしたら、おまえの友ともだちがやったんじゃないかい。さっき、二に―三さん人にん、あそびにきてたじゃないか。」

「ぼくの友ともだちは、こんないたずらしませんよ。ねえ、パパ、あいつは、あの推古仏すいこぶつをねらってるんじゃないのかしら。書庫しょこの中なかにおいてあるんでしょう。だいじょうぶなの。」

推古すいこ仏ふつというのは、高たかさ二十にじゅうセンチぐらいの小ちいさな仏像ぶつぞうですが、七なな世紀せいきごろの作品さくひんで、たいへん貴重きちょうな宝物たからものなのです。それを、あるお金持かねもちからかりだして、岩谷いわたに美術びじゅつ館かんに陳列ちんれつすることになったのを、博士はかせが一時いちじあずかって、本ほんを入いれてある書庫しょこの中なかにおいてあったのです。

「パパはいま書庫しょこからでてきたばかりだ。推古すいこ仏ふつはちゃんと、たなの上うえにあったよ。いつものように、錠前じょうまえをおろしてきた。窓まどには鉄てつごうしがはめてあるし、壁かべはコンクリートだ。いくら怪物かいぶつでも、あの書庫しょこはやぶれないだろう。……いや、おまえのおもいすごしだよ。そんなへんなかっこうのやつがウロウロすれば、町まちでも、家いえの中なかでも、すぐみつかってしまうはずだ。あの新聞しんぶんの記事きじだって、漁師りょうしのこどもがみたというだけで、そのまま信用しんようはできないのだからね。」

でも、忠雄ただお君くんはどうも安心あんしんができません。きっと、どこかに、あいつがかくれているんだとおもいました。新聞しんぶんにでていた、あの頭あたまでっかちのカニのおばけが、そのへんにいるのかと考かんがえると、ゾーッと、さむけがしてくるのでした。

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