← Library‹ 妖星人R R変身

まだ昼ひるなのに、夕ゆうぐれのように、うすぐらい森もりの中なかへはいると、じいさんは、カニおけをかついだ棒ぼうを、かたからおろして、こちらにむきなおりました。そして、カニとそっくりの顔かおで、ニヤリと笑わらいました。

「きみは、りっぱな少年しょうねんだ。わしは、きみのような少年しょうねんが、ひとり、ほしかったのだ。どうだ、おれの弟子でしにならないかね。」

じいさんは、さっきのいなかことばとは、まるでちがった、標準ひょうじゅん語ごで、そんなことをいいました。じいさんとはおもえないわかわかしい声こえです。

「弟子でしになるって、どうすればいいんだい?」

井上いのうえ君くんは、勇気ゆうきをだして、たずねてみました。

「つまり、おれの命令めいれいどおりに、うごくのさ。そのかわり、きみは、地球ちきゅうの人間にんげんのだれもしらないものをみることができる。このひろい宇宙うちゅうを旅行りょこうすることができる。」

とんでもないことを、いいだしました。ひょっとしたら、このじいさんは、気きがちがっているのではないでしょうか。

「どうして、宇宙うちゅう旅行りょこうをするんだい?」

井上いのうえ君くんはあいてをばかにしたように、聞ききかえしました。

「Rすい星せいにのってさ。」

「えっ、Rすい星せいだって?」

この、よぼよぼのじいさんの口くちから、Rすい星せいなんてことばがでるのは、ふしぎです。

「だって、Rすい星せいまで、どうしていけばいいんだい?」

「カニ怪人かいじんといっしょにいけばいいのさ。ちゃんとのりものが、海うみの底そこにまっている。それにのりこんで、ピューッと、空そらへとびだしていくのさ。」

じいさんは、千葉ちば県けんの銚子ちょうしの近ちかくの海うみに、おそろしい音おとをたてておちた、あのロケットのようなもののことを、いっているのかもしれません。井上いのうえ君くんは、いよいよ、気味きみがわるくなってきました。

「だって、カニ怪人かいじんはきえてしまったじゃないか。それに、カニ怪人かいじんが、ぼくをRすい星せいへつれていってくれるかどうか、わからないじゃないか。」

井上いのうえ君くんは、まるで、夢ゆめの中なかで、ものをいっているような気持きもちでした。Rすい星せいへいくなんて、できっこないことを、しっていながら、つい、じいさんのことばに、まきこまれてしまったのです。

「わからなくはないよ。カニ怪人かいじんさえ、しょうちすればいいのだ。」

じいさんは、わかわかしい声こえで、自信じしんありげにこたえました。

「じゃあ、おじいさんは、カニ怪人かいじんをしっているのかい?」

「しっているとも、いや、しっているどころじゃない。いま、そのしょうこをみせてやるぞ。」

じいさんは、みょうなことを、いったかと思おもうと、パッと、姿すがたをけしてしまいました。

じいさんのすぐうしろに、直径ちょっけい一いちメートルもある大おおきな木きが立たっていました。とっさに、ひととびで、その木きのうしろへ、かくれたのかもしれません。しかし、あのよぼよぼのじいさんに、そんなはやわざができるでしょうか。おばけか、忍法にんぽうつかいのように、パッときえてしまったとしか、考かんがえられないのでした。

井上いのうえ君くんは、つぎつぎと、いがいなことばかりおこるので、あっけにとられて、ボンヤリと、つったっていました。夢ゆめに夢ゆめみるここちです。

ふと気きがつくと、二ふたつのブリキおけがすっかり、からっぽになっていました。あの何百なんびゃくというカニは、どこへいってしまったのでしょう。

井上いのうえ君くんは、目めをこらして、まえに立たっている大おおきな木きのみきをみつめました。木きのみきがウネウネと、ゆれていたからです。

コケのはえた、大木たいぼくのみきが、ヘビの背中せなかのように、うごいているのです。

「あっ、カニだっ。」

それは、何百なんびゃくぴきというカニが、かさなりあって、木きのみきを、のぼっているのでした。それがモゾモゾとうごくたびに、木きがゆれるようにみえたのです。

井上いのうえ君くんは、ハッとおもいだしました。カニ怪人かいじんが銚子ちょうしの近ちかくの海うみから、あらわれたときにも、また、古山ふるやま博士はかせの庭にわにあらわれたときにも、そのまえぶれのように、たくさんのカニが、はいだしてきたというではありませんか。

すると、いま、この大木たいぼくのみきを、はいあがっているカニのむれも、やっぱり、おなじまえぶれではないのでしょうか。

井上いのうえ君くんは、サーッと、からだじゅうから、血ちがひいていくような恐怖きょうふを感かんじました。

そのときです。大木たいぼくのみきのうしろから、なにか黒くろいものが、チラッとあらわれました。

ひらべったい、かさのようなものです。ピカッと光ひかりました。電気でんきのように、つよい光ひかりです。やがて、その光ひかりが二ふたつになりました。

あっ、目めです。怪物かいぶつの目めです。

その上うえにかぶさっている、かさのようなものは、巨大きょだいな、カニのこうらです。目めの下したに口くちがあります。口くちからはブツブツと、白しろいあわをふきだしています。

カニのこうらの上うえには、アンテナのような二に本ほんの触手しょくしゅ、口くちのよこからは、するどいはさみのついた二に本ほんの腕うで、それから、カニのはらのように、気味きみのわるい胴体どうたい、二に本ほんのまがりくねった足あし。

ああ、カニ怪人かいじんです。カニ怪人かいじんが、井上いのうえ君くんの目めのまえに、姿すがたをあらわしたのです。

「しんぱいしなくてもよろしい。きみを、とってくうわけじゃない。」

口くちのあわの中なかから、カニ怪人かいじんのことばが、もれてきました。

銚子ちょうしの近ちかくの海うみからあらわれたときには、まだ、かたことにしかいえなかったのに、あれから、十とお日かもたたないうちに、こんなにうまく、日本にっぽん語ごがしゃべれるようになったのでしょうか。

「おれたちR星せい人にんは、みたもの、きいたものをすぐ、じぶんのものにできるのだ。ことばでも、顔かおでも、姿すがたでも、地球ちきゅう人にんは、ならって、おぼえるのだが、おれたちは、ことばでも、姿すがたでも、そのまま、こちらへ、のりうつってしまうのだ。さっきは、地球ちきゅう人にんの七十ななじゅうのじいさんにばけていた。おれは、きのう、あのとおりのじいさんを、道みちでみかけて、それにばけたのだよ。地球ちきゅうには変身へんしんということばがあるね。だから、これはR変身へんしんとでもよべばいいだろう。」

みにくい大おおガニのばけものが、じつにただしい日本にっぽん語ごをつかっているのです。地球ちきゅう人にんの知恵ちえでは、想像そうぞうもできないことでした。

「まだある。おれはじぶんのからだをけすことができる。いや、じぶんばかりじゃない。だれのからだだってけせるのだ。地球ちきゅう人にんのからだだってね。だから、きみの姿すがたをみえなくすることだって、わけはないのだよ。」

いよいよ、ふしぎなことを、いいだしました。

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