← Library‹ 妖星人R 地からわく

カニ怪人かいじんのために、からだを消けされた井上いのうえ少年しょうねんは、それからどうなったのでしょうか。

それは、しばらくのちのお話はなしとして、ここには、もっとべつな、もっとふしぎなできごとを、みなさんにおしらせしなければなりません。

カニ怪人かいじんが岩谷いわたに美術びじゅつ館かんの館長かんちょう古山ふるやま博士はかせのうちから、貴重きちょうな美術びじゅつ品ひん、推古すいこ仏ふつをぬすみさったことは、前まえに書かきましたが、こんどは、岩谷いわたに美術びじゅつ館かんそのものが、おそわれることになったのです。

ある夜よるのこと、古山ふるやま博士はかせから警視けいし庁ちょうに電話でんわがかかりました。電話でんわ口くちによびだされたのは、捜査そうさ一いち課かの中村なかむら警部けいぶでした。中村なかむら警部けいぶは、いま日本にっぽんじゅうをさわがせているR怪人かいじんの係かかりのひとりだったからです。

「R怪人かいじんがあらわれました。」

「えっ、いつ、どこへです。」

「つい、いましがたです。しかし、もういなくなってしまいました。電話でんわではなんですから、岩谷いわたに美術びじゅつ館かんまで、おでかけくださいませんか。ねんのため、部下ぶかのかたをおつれくださるほうがいいとおもいます。」

「しょうちしました。すぐ車くるまでいきます。」

中村なかむら警部けいぶは五ご人にんのうでききの刑事けいじをつれて、大型おおがた自動じどう車しゃをとばしました。そして、岩谷いわたに美術びじゅつ館かんについたのは、もう夜よるの七なな時じ半はんでした。美術びじゅつ館かんは五ご時じに閉館へいかんになり、のこっているのは古山ふるやま博士はかせと、三さん人にんの館員かんいんばかりでした。

警部けいぶと刑事けいじたちは、会議かいぎ室しつのような広ひろい部屋へやにとおされました。そこに古山ふるやま博士はかせと館員かんいんたちがまっていたのです。

「電話でんわでは、くわしいお話はなしができませんでしたが、実じつに奇怪きっかいなことがおこったのです。わたしはこの目めで見みたし、ここにいる館員かんいんたちも見みているので、まちがいはありませんが、それをお話はなししただけでは、信用しんようしていただけないかもしれません。」

「カニ怪人かいじんがあらわれたのですか。」

「そうです。しかも、ひとりではありません。全部ぜんぶで十じゅう人にんに近ちかいでしょう。ほうぼうにあらわれたのです。そして、そのあらわれかたが、じつにふしぎせんばん。ありえないことがおこったのです。」

「といいますと?」

「地ちの中なかから、わきだしたのです。」

「それならこのあいだ、先生せんせいのお宅たくでも、地ちの中なかからあらわれたではありませんか。」

「いや、あれとはちがうのです。あのときは地面じめんに穴あながあいていました。ところが、今夜こんやは穴あながないのです。地面じめんにはなんの異状いじょうもなくて、しかも、そこからカニ怪人かいじんが幽霊ゆうれいのようにわいてきたのです。そして、また、そこから地面じめんの下したへ消きえてしまって、地面じめんには、なんのあとものこらないのです。」

「さいしょ、それを見みたのは、わたしです。」

館員かんいんのひとりが話はなしをひきつぎました。

「五ご時じに閉館へいかんしたあとに、われわれ三さん人にんがのこって、カードの整理せいりをしていました。館長かんちょうさんも、今夜こんやはのこっておられました。わたしたちの事務じむ室しつは庭にわにめんしているのですが、暗くらい窓まどの外そとに、なにか動うごいているものが見みえたのです。

コンクリートのへいまで、十じゅう五ごメートルほどあります。そこにヒマラヤスギが、ならんで立たっているのです。その一いち本ほんのヒマラヤスギのねもとに、なんだか、動うごいているものがありました。

くらくて、よくは見みえません。犬いぬかしらとおもいましたが、どうも犬いぬやなんかではなさそうなのです。みんなが、立たって、窓まどからのぞきました。

『へんだぞ。いってみよう。』

わたしはそういって、懐中かいちゅう電灯でんとうをもつと、外そとへとびだしていきました。あとのふたりも、ついてきました。

ヒマラヤスギに近ちかづいて、懐中かいちゅう電灯でんとうをてらしてみると、そこにおそろしいものが、うごめいていたのです。あのカニのこうらのような頭あたまをもった、カニ怪人かいじんです。こうらの下したに二ふたつの目めが、青あおい火ひのように光ひかっていました。

いま地面じめんから、はいだしたところでした。青あおい目めで、じっとこちらをにらんでいるのです。

わたしたちは、キャッといって、にげだしました。しかし、あいても、おどろいたのでしょう。そのまま、地面じめんの中なかへ、もどっていったのです。二十にじゅうメートルもにげて、ふりかえってみると、カニ怪人かいじんは、からだをぜんぶ、地面じめんの下したにいれて、大おおきな頭あたまだけが、地面じめんの上うえにのこっているのでした。そして、その頭あたまも、わたしたちの見みている前まえで、地面じめんの中なかへ、すいこまれてしまったのです。

わたしたちは、しばらくして、そこへもどってよくしらべてみましたが、地面じめんには、なんのあとものこっていませんでした。むろん、穴あななんかあいていないのです。」

古山ふるやま博士はかせが、そのあとをひきとって、話はなしをつづけました。

「それからまた、あいつらは、庭にわのほうぼうにあらわれたのです。ひとりのカニ怪人かいじんが、つぎつぎとあらわれたのではありません。すくなくとも、五ご―六ろく人にんはおなじやつがいました。いっぺんに、五ご本ほんのヒマラヤスギの下したにあらわれたこともあるからです。

わたしたちは、きちがいのようにあちこちと、走はしりまわりました。しかし、こちらが気きづいたときには、怪人かいじんは、地面じめんの中なかへ、姿すがたをかくしてしまうのです。

わたしたちを、からかっていたのです。べつに、危害きがいをくわえるわけではありません。

おれたちは、こんな神通力じんつうりきをもっているのだ。美術びじゅつ品ひんをぬすむぐらいわけはないぞと、おどかしにやってきたのです。

これは、わたしが、そうおもうだけではなくて、あいつの口くちからきいたのです。」

「えっ、あいつが、なにかしゃべったのですか。」

中村なかむら警部けいぶが、おもわずききかえしました。

「美術びじゅつ館かんには地下ちか室しつがあります。物置ものおきにつかっているのです。その地下ちか室しつに、ゴトゴトと音おとがしたのです。

わたしは、それに気きづくと、懐中かいちゅう電灯でんとうをもって、おりていきました。地下ちか室しつのドアをひらくと、あいつが、コンクリートの床ゆかから、わきだしてくるところでした。もう、腰こしのへんまででていました。そして、わたしの目めの前まえで足あしまであらわれたのです。すると、いきなり、こんなことをいいました。

『いくら、用心ようじんしてもだめだよ。きょうから五いつ日かのうちに、ここの美術びじゅつ品ひんをぜんぶ、ちょうだいするからね。』

そして、カニ怪人かいじんは、すいこまれるように、コンクリートの床ゆかの中なかへ、消きえていったのです。

地面じめんばかりではありません。あのかたいコンクリートでも、自由じゆうに、ぬけてでる力ちからをもっているのです。

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