← Library‹ 彼のオートバイ、彼女の島 14

二に台だいのオートバイの排気はいき音おんが、紅葉こうようの山やまにこだまする。

ゆるやかなカーブが、適当てきとうな間隔かんかくを置おいてつづいている登のぼり坂ざかだ。小ちいさな山やまが、いくつもつらなっている。その山やまなみに刻きざまれた往復おうふく二に車線しゃせんの道路どうろだ。平日へいじつなので、車くるまはすくない。

どの山やまにも、紅葉こうようと濃こい緑みどりが、絶妙ぜつみょうの調和ちょうわを見みせている。澄すみきった空気くうきのなかに、秋あきの山やまが放はなつ冷気れいきが、目めに見みえるようだ。

山やまは、暮くれはじめている。遠とおく山やまと山やまとのあいだに、夕ゆうもやがたなびく。小ちいさな谷たにあいが、白しろっぽくかすんで見みえる。昼間ひるまとは、空気くうきの味あじがちがう。

空そらを雲くもがおおっている。ところどころ、切きれ目めがあり、秋晴あきばれの日ひの名残なごりである、淡あわいブルーの空そらが、おだやかにのぞいている。

沈しずんでいく陽ひをうけて、雲くもの西側にしがわは、ピンクに染そまっていく。

ミーヨの乗のったヤマハRD250が、さきをいく。小川おがわが言いっていたとおり、タイアをいいものにとりかえたRDは、最高さいこうのできばえだ。ハンドルは低ひくいものにかえてある。

さきを走はしるミーヨが、Rの大おおきなカーブにさしかかろうとしている。腕うでや肩かたから、きれいに力ちからが抜ぬけている。RDと一体いったいになり、脚あしと腰こしは、RDと分わかちがたく溶とけ合あっている。

カーブに入はいるまえに、回転かいてんをきれいに合あわせて、シフト・ダウン。ブレーキングをかさねあわせ、カーブ進入しんにゅうのための減速げんそくを完了かんりょうさせる。

正確せいかくなラインを選えらびとり、リーン・アウトで、きれいに車体しゃたいを倒たおしこむ。Rの大おおきいカーブだから、バンクさせている時間じかんがながい。

アクセルは、ハーフ・スロットルで軽かるくパワーをかけたまま、一定いっていさせている。さからわずに、美うつくしく、流ながれていく。アウトへのはらみすぎも、いまはない。

カーブの出口でぐちが見みえてくる。ミーヨは、静しずかに、アクセルを開あけていく。うしろから見みていて、ぼくはとても満足まんぞくだ。たとえようもなく、うれしい気持きもちになってくる。

高原こうげんのキャンプ場じょうへ、ぼくたちは一いち泊はくのツーリングにいこうとしている。

中型ちゅうがたの免許めんきょを持もっているとはいえ、経験けいけん不足ふそくだし、そこからくる的確てきかくな判断はんだんと反応はんのうを、ミーヨはまだあまりたくわえていない。

東京とうきょうから走はしってくるあいだ、あとになりさきになり、ぼくはミーヨの走はしりぶりを、こまかく観察かんさつした。

現実げんじつの走行そうこう経験けいけんが足たらないことはたしかなのだが、文句もんくをつけるところは、ほとんどなかった。

しかし、肝きもを冷ひやすような現場げんばの目撃もくげきは、一いち度どだけだが、あった。

山道さんどうに入はいって、車くるまもすくなく、まわりの景色けしきも美うつくしくなりはじめたころ。左ひだりまわりのカーブに入はいるとき、ミーヨは、ギア・チェンジで横着おうちゃくをした。そのカーブに入はいるのにふさわしいギアではなく、それよりも高たかいギアで、入はいっていった。しかも、カーブの入いり口ぐちでのっけからインについた。

そのカーブの出口でぐちのはるか手前てまえで、ミーヨの乗のるRDはセンター・ラインまではらんでいき、車体しゃたいをまだ倒たおしきったまま、横這よこばいのような走はしりかたをした。そして、そのままセンター・ラインを割わって対向たいこう車線しゃせんに出でていった。ようやく車体しゃたいが起おき、パワーをかけて自分じぶんの車線しゃせんにもどろうとするRDの鼻はなさきをかすめ、明あきらかにスピードを出だしすぎのセダンが、坂さかをくだっていった。

見晴みはらしのいいドライブ・インで、峠とうげの団子だんごを食たべながら、ぼくはミーヨに、このカーブのことを話はなして聞きかせた。

「それに、Rがおなじだと、どのカーブでもおなじ走はしりかたをしてる」

「路面ろめんしか見みえないのよ」

「景色けしきを楽たのしんでるひまはないだろう」

「あんまりね」

「Rはおなじでも、ブラインドだったら、走はしりかたをかえるんだ。カーブのぜんたい的てきな状況じょうきょうを正確せいかくに見みてとって、判断はんだんしなきゃいけない」

「そうなんだけど」

「カーブに突つっこむなよ」

「アクセルの開あけすぎ?」

「シフト・ダウンしろよ、かならず。ギアは、高たかすぎるよりは低ひくいほうがいいんだから」

「どうして」

こういうところが、ミーヨは、まだぜんぜん弱よわい。

「なにかあったとき、とっさの加速かそくで、かわせるじゃないか。カーブに入はいるときはスローで、出でるときに加速かそくして、オートバイらしくファストで抜ぬけきる」

「バンクは?」

「倒たおしすぎになりそうだ。悪わるいくせがつかないうちに、なおすといい」

「倒たおしこむと、気持きもちいいのよ」

「そのときだけさ。あとで、えらい目めに会あうよ」

秋あきの峠とうげで、甘あまいような、からいような団子だんご。ツーリングのライディング・テクニックについて、常識じょうしき的てきなことだけど、語かたり合あう。団子だんごの味あじと空気くうきの香かおり、それに、話はなしの内容ないようが、よくからみ合あう。しかも、相手あいては、ミーヨ。いい気分きぶんだ。

「おなじカーブを、おなじマシーンに乗のり、おなじスピードで抜ぬけても、路面ろめんをこする人ひととこすらない人ひとがいる。こすらない人ひとのほうが、有望ゆうぼうなんだ」

「倒たおせば、こするもんだと思おもってた」

「ラインのとりかたがいけなかったり、ギアが適切てきせつでなかったり、体からだのバランスがよくなかったり、いろんな理由りゆうで、こするんだ」

「私わたくしのバランスは、どう?」

「それは、とてもいい」

「自信じしんはあるのよ」

「腰こしが中心ちゅうしんになってて、きれいだ。顎あごも出でてないし」

経験けいけんはすくなくても、最初さいしょから正ただしい基本きほんを身みにつければ、経験けいけん不足ふそくを大おおきくカバーしていける。

峠とうげの団子だんごのあと、ぼくがさきにたって走はしった。カーブでぼくが走はしるラインとおなじラインを、ミーヨにも走はしらせた。きれいに乗のって、ついてくる。ときたまミラーにうつるRDとミーヨが、はっとするほどに美うつくしい。

ミーヨにラインをとらせ、ぼくがその右側みぎがわについて走はしる。6段だんのギアを、彼女かのじょがていねいにこまかくシフトしていく音おとが聞きこえる。

路程ろていの後半こうはんにさしかかってからは、ミーヨの走はしりっぷりにまったく文句もんくはない。なめらかで、美うつくしい。流ながれるようだ。すこし気きを抜ぬくと、なめらかな流ながれにまかせて、アクセルを開あけて突つっこみ気味きみになる。何なん度ど目めかの休憩きゅうけいのときに、それも、いましめた。

山やまの茶屋ちゃやのようなドライブ・インにオートバイをとめて休やすむのは、楽たのしみだ。

たとえば、ミーヨがぼくのうしろについて走はしっている場合ばあいは、ぼくが駐車ちゅうしゃ場じょうにカワサキを乗のり入いれ、降おりてヘルメットをとったころ、ヤマハのRD250が、滑すべりこんでくる。

Click a word · hold for the whole sentence 0%