← Library‹ 大金塊 あっぱれ少年探偵

その翌日よくじつの夕方ゆうがたまでは、なにごともなくすぎさりました。三さん度どの食事しょくじは、きのう小林こばやし君くんを牢ろうに入いれた、あのおしゃべりの部下ぶかの男おとこが、はこんでくれましたが、そのたびに、じょうだんをいってからかうので、小林こばやし君くんのほうでも、相手あいてになってものをいうようになり、だんだん心こころやすくなっていくのでした。

夕方ゆうがた、六ろく時じごろになりますと、やっぱり同おなじ男おとこが、夕ゆうごはんのおぼんを持もって、鉄てつごうしの外そとへやってきました。

「さあ、ぼうや、ごちそうだ。ゆっくりたべるがいい。」

男おとこは持もっているかぎで、鉄てつごうしの戸とを開ひらき、おぼんを中なかに入いれると、またすぐ戸とをしめて、かぎをかけてしまいました。

「ははは、へんな顔かおしているね。たいくつかい。童話どうわの本ほんでもあるといいんだが、ここには、あいにく、そんなものがおいてないんでね。まあ、ごちそうだけで、がまんするんだね。」

男おとこはあいかわらず、おしゃべりです。

小林こばやし君くんは、ゆうべ牢ろうをぬけだしたとも知しらないで、いばっている男おとこの顔かおを見みるたびに、おかしくてしかたがありませんでした。それに、ゆうべ、この男おとこは五ご人にんの部下ぶかの中なかで、いちばん大おおきないびきをかいて正体しょうたいもなくねむっていたのです。それを思おもいだすと、小林こばやし君くんはふきだしそうになるのでした。

でも、賊ぞくは小林こばやし君くんが明智あけち探偵たんていの少年しょうねん助手じょしゅだなんて、夢ゆめにも知しらず、宮瀬みやせ不二夫ふじお君くんだとばかり思おもいこんでいるものですから、うっかり笑顔えがおなんかできません。こわくてしかたがないというようなふうをして、おどおどしていなければならないのです。

「ねえ、おじさん。」

小林こばやし君くんは、おずおずと男おとこに声こえをかけました。

けさから、きこうきこうと思おもいながら、あまりなれなれしく見みえてもいけないと思おもって、今いままでがまんしていたのですが、もうよい時分じぶんと、それをいいだすつもりなのです。

「え、なんだい。何なんかほしいものでもあるのかい。それならえんりょなくいうがいいぜ。おまえは、だいじなお客きゃくさまだから、なんでもいうままにしてやれって、首領しゅりょうのいいつけだからね。」

男おとこは、にやにや笑わらいながら、ひげむじゃの顔かおを鉄てつごうしにくっつけるようにして、いうのです。

「あのね、おじさん、首領しゅりょうって、いったいだれなの? どんな人ひとなの?」

小林こばやし君くんは、なにげなくたずねました。

「こわいおじさんさ。ははは、じつをいうとね、おれたちも、首領しゅりょうがどんな人ひとだか、よくは知しらないのだよ。一いち度ども顔かおを見みたことがないんだからね。だが、いい首領しゅりょうだ。おこるとこわいけれど、仕事しごとをすれば、ちゃんとそれだけのことはしてくださるんだからね。それでなけりゃ、こんな穴あなぐらずまいなんか、一いち日にちだってがまんできるもんじゃないよ。」

小林こばやし君くんが、たった一日ついたちで見みやぶってしまった首領しゅりょうの正体しょうたいを、この男おとこはまだ知しらないようすです。悪人あくにんでも、人ひとの手下てしたになっているようなやつは、力ちからは強つよくても、頭あたまのはたらきがにぶいのでしょう。

「あのね、おじさん、この地下ちか室しつの入いり口ぐちは一ひとつしかないんだろう。」

小林こばやし君くんは、だんだん大胆だいたんになって、また別べつのことをたずねてみました。

「うん、一ひとつしかない。おまえのつれられてきた入いり口ぐち一ひとつきりだよ。」

「そこには番人ばんにんがいるんだろうね。」

「ハハハ、こいつへんなことをききだしたな。おまえ、牢ろうやぶりをして、逃にげだすつもりかい。ハハハ、だめだめ、むろん番人ばんにんがいるよ。地下ちか室しつの入いり口ぐちには、昼ひるでも夜よるでも、こわいおじさんが大おおきな目めをむいてがんばっているんだ。おまえが逃にげだそうとでもしたら、その番人ばんにんにひどいめにあうぜ。そんなつまらないことは考かんがえるんじゃない。だいいち、逃にげだそうといったって、その鉄てつごうしが、おまえなんかの力ちからでやぶれるものかね。ハハハ。」

男おとこは何なんも知しらないで、さもおかしそうに笑わらいました。

小林こばやし君くんは、ゆうべこの鉄てつごうしを開ひらいて、ちゃんとぬけだしているのです。明智あけち先生せんせいの発明はつめいされた万能ばんのうかぎを持もっているので、どんな錠じょうまえだってやすやすと開ひらくことができるのです。それを知しらないで男おとこが安心あんしんしきって笑わらっているのを見みると、こちらこそ、ふきだしたくなるのでした。

「おじさん、首領しゅりょうっていう人ひと、いつでも、ここにいるのかい。ときどき外そとへ出でかけることもあるの?」

小林こばやし君くんは、こんどは、さもなにげないふうで、いちばんききたいことをたずねました。

「そりゃお出でかけになるさ。首領しゅりょうはここに一いち日にちいることなんて、めったにないんだよ。いろいろな仕事しごとがあってね、とてもいそがしいからだなんだ。今夜こんやもだいじな用件ようけんがあって、あるところへ出でかけるんだよ。」

「やっぱり、あんな覆面ふくめんのまま出でかけるのかい。」

「ハハハ、おまえ、いろんなことをきくんだねえ。いくら夜よるだって、覆面ふくめんのまま外そとへ出でては、かえって人ひとにあやしまれるじゃないか。むろん、あたりまえの身みなりにかえて出でかけるんだよ。」

「じゃ、そのとき、おじさんたち、首領しゅりょうの顔かおが見みられるじゃないか。どうして、首領しゅりょうの顔かおを知しらないなんていうの?」

「ところが、見みられないんだよ。首領しゅりょうは魔法まほう使つかいなんだ。おれたちのちっとも知しらないうちに、どこかへ出でかけたと思おもうと、いつのまにか、また、ちゃんと帰かえっているんだ。首領しゅりょうは変装へんそうの名人めいじんでね、いつもまるでちがった身みなりをして出でかけるということだが、おれたちは、その姿すがたを一いち度ども見みたことがないんだ。」

「へんだねえ、じゃ、どっかに秘密ひみつの出入でいり口くちがあるんじゃないの? 首領しゅりょうは、そこからこっそり出入でいりしているんじゃないの?」

小林こばやし君くんは、その秘密ひみつの出入でいり口くちもちゃんと知しっているのに、わざとそしらぬふりをして、ききかえしました。

「うん、おれたちも、そうじゃないかと思おもっているんだ。だが、それがどこにあるのか、すこしもわからないのだ。どう考かんがえても、首領しゅりょうは魔法まほう使つかいだよ。おれたちはまた、首領しゅりょうのそういうふしぎな力ちからに、すっかりまいっているんだがね。」

男おとこは相手あいてを子こどもとあなどって、ひごろおもっていることを、なにもかも、うちあけてしまうのでした。

「じゃ、首領しゅりょうは今夜こんやは、るすなんだね。」

小林こばやし君くんは何なんよりも、それがたしかめたいのです。

「うん、るすだ。お帰かえりは夜中よなかになるだろう。いつもそうだからね。」

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