← Library‹ 大金塊 鬼ガ島

そして、いよいよふたりは岩屋いわや島しまへ出でかけることに話はなしがきまりましたが、宮瀬みやせ氏しは、気きがかりらしくこんなことをいいました。

「わたしたちのるすちゅうに、賊ぞくのやつがまた、不二夫ふじおをひどいめにあわすことはないでしょうか。小林こばやし君くんが身みがわりになって、暗号あんごうをぬすみだしたり、警察けいさつが賊ぞくのすみかをおそったりしたのですから、賊ぞくは、そのしかえしをしようと、待まちかまえているにちがいありません。そこへ、わたしたちが旅行りょこうしてしまったら、あいつらは、また不二夫ふじおをどうかするのじゃないでしょうか。」

「そうですね。そういうことが起おこらないとはいえませんね。どうでしょう。不二夫ふじお君くんも岩屋いわや島しまへつれていってあげては。そして、ぼくも小林こばやしをつれていくことにしたら、お友ともだちもあるわけですし。」

と、明智あけちがうまいことを思おもいつきました。

そこで、宮瀬みやせ氏しは不二夫ふじお君くんを応接おうせつ室しつによび入いれて、そのことを話はなして聞きかせますと、不二夫ふじお君くんはすっかり喜よろこんでしまいました。

「ええ、ぼくだいじょうぶです。小林こばやし君くんといっしょに、きっとおとうさんの手助てだすけをします。鬼おにガ島しま探検たんけん隊たいっていうんでしょう。ぼく、そういう旅行りょこうはだいすきですよ。」

「ハハハ……、鬼おにガ島しま探検たんけん隊たいはよかったねえ。すると、おまえと小林こばやし君くんとが、桃太郎ももたろうっていうわけかい、ハハハ……、よし、それじゃ、つれていってあげるとしよう。」

宮瀬みやせ氏しも上じょうきげんで、不二夫ふじお君くんをつれていくことにきめました。不二夫ふじお君くんはずっと学校がっこうを休やすんでいたのに、またつづけて休やすまなければなりませんが、賊ぞくにさらわれることを思おもえば、学校がっこうを休やすむのもしかたがないわけです。

そうして、鬼おにガ島しま探検たんけん隊たい員いんは、明智あけちと宮瀬みやせ氏しと小林こばやし少年しょうねんと不二夫ふじお君くんの四よん人にんづれということになったのです。

出発しゅっぱつは、その翌日よくじつの夜よるときまりました。

明智あけちと宮瀬みやせ氏しは登山とざん服ふくにゲートルをつけ、ステッキを持もち、小林こばやし少年しょうねんと不二夫ふじお君くんは、洋服ようふくに、やはり、ゲートルをまいて、四よん人にんともリュックサックを背せおい、わざと品川しながわ駅えきから、人目ひとめにつかぬように、汽車きしゃに乗のりこみました。

汽車きしゃの中なかでねむって、そのあくる日ひの昼ひるごろには、三重みえ県けんの南みなみのはしの長島ながしま町ちょうについていました。それは海岸かいがんの漁師りょうし町ちょうでした。町まちじゅうに、磯いそくさいにおいがただよって、近ちかくの海岸かいがんから、ドドンドドンという波なみの音おとが聞きこえていました。

四よん人にんは、町まちにたった一いち軒けんの、いなかめいた宿屋やどやにはいって、昼ひるの食事しょくじをしたのですが、明智あけち探偵たんていは、その宿やどの主人しゅじんを呼よんで、いろいろ岩屋いわや島しまのことをたずねてみました。

「はあ、あの島しまは鬼おにガ島しまと申もうしまして、ここの名所めいしょになっております。お客きゃくさんがたは、よく船ふねで見物けんぶつにおいでになります。」

「その鬼おにガ島しまに、烏帽子えぼし岩がんと、獅子しし岩がんと、カラス岩いわという三みつの大おおきな岩いわがあるそうだね。」

「ええ、ございます。みょうな岩いわでね、一ひとつは烏帽子えぼしにそっくりだし、もう一ひとつは獅子ししの頭あたまにそっくりだし、それから、カラス岩いわと申もうしますのは、まるでカラスがくちばしを開ひらいて、カァカァと鳴ないているようなかっこうをしております。いかがでございます。船ふねをやとって、見物けんぶつなされては。ぼっちゃんがたは、きっとお喜よろこびでございますよ。」

「それじゃ、ひとつ船せんをやとってください。ことによったら、島しまへあがってしばらく遊あそぶかもしれないから、晩ばんがたまでかかるつもりで、来きてくれるようにいってください。」

明智あけちがいいますと、主人しゅじんはびっくりしたように、目めをまるくしました。

「え、島しまへおあがりなさる? それはおやめになったほうがようございましょう。獅子しし岩がんやカラス岩いわは船ふねからでもよく見みえます。おあがりになったところで、岩いわばっかりの島しまで、べつに見みるものもありませんし、それに漁師りょうしたちはあの島しまへ船ふねをつけることを、いやがりますので……。」

と、しきりにとめるのです。

「漁師りょうしがいやがるというのは、何なんかわけがあるのですか。」

「なあに、つまらない迷信めいしんでございますがね。あの島しまには、むかし鬼おにが住すんでいたので、その鬼おにのたましいが今いまでも島しまの中なかにのこっていて、あの島しまへあがったものは、おそろしいめにあうというのでございます。ハハハ……、このへんの漁師りょうしなんて、まるで子こどもみたいなもので、それをすっかりほんきにしているものですから……。」

そういうわけで、船ふねをやとうのは、なかなかめんどうでしたが、きまりの船賃ふなちんの三さん倍ばいのお礼れいをするからといって、やっとひとりの年としよりの漁師りょうしをしょうちさせて、その漁師りょうしの持もっている発動はつどう機きのついた和船わせんで、岩屋いわや島しまへわたしてもらうことにしました。

海岸かいがんに石いしをつみかさねた小ちいさなさん橋ばしのようなものがあって、四よん人にんはそこから船ふねに乗のりました。

船ふねのまん中なかのしきりに、むしろがしいてあって、四よん人にんがそこへすわるといっぱいになってしまうような、小ちいさな船ふねでしたが、でも船ふねのうしろのほうに、ちゃんと発動はつどう機きがついていて、漁師りょうしのじいさんはろをこぐのではなくて、まるで自動じどう車しゃの運転うんてん手しゅのように、その発動はつどう機きを運転うんてんするのでした。

ポンポンポンポンとはげしい音おとをたてて、船ふねはみるみる海岸かいがんをはなれていきました。風かぜのない静しずかな日ひでしたが、それでも、波なみがないわけではなく、船ふねがブランコに乗のったように、気持きもちよくゆれるのです。

うしろを見みますと、長島ながしまの町まちが、だんだん小ちいさくなっていきます。そして前まえのほうは、見みわたすかぎり、はてしもない大おお海原うなばらです。

はるかむこうの水平すいへい線せんが、右みぎのはしから左ひだりのはしへ、グウッと弓ゆみのように、丸まるくなって見みえています。その水平すいへい線せんを見みわたしていますと、地球ちきゅうがまるいものだということが、はっきりわかるような気きがします。

「やあ、すてきだなあ。鎌倉かまくらの海うみなんかよりずっといいや。あ、見みたまえ、小林こばやし君くん、あんな遠とおくを汽船きせんが走はしっている、まるでおもちゃみたいだねえ。」

「不二夫ふじお君くん、ほら、下したを見みてごらん。底そこまで見みえるようだよ。ぼく、こんなきれいな海うみ、見みたことがないよ。あら、なんだか大おおきな魚さかながおよいでいった。サメかしら。」

不二夫ふじお君くんと小林こばやし少年しょうねんとは、長ながい汽車きしゃの旅たびで、すっかりなかよしになっていました。ふたりは船ふなべりにもたれて、青々あおあおとしたきれいな水みずに、手てを入いれて、手ての先さきから白しろい波なみが立たつのを、おもしろがってながめるのでした。

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