← Library‹ 大金塊 とけたなぞ

四よん人にんはしばらくのあいだ、三みつの岩いわのみごとさに、金塊きんかいのことなどすっかりわすれてしまって、ただ見みとれているばかりでしたが、やがて、宮瀬みやせ氏しがやっと暗号あんごうのことを思おもいだして、明智あけちに話はなしかけました。

「見みたところ、烏帽子えぼし岩がんと獅子しし岩がんとは五十ごじゅうメートルもはなれているようですが、この獅子ししがどうして、あの烏帽子えぼしをかぶることができるのでしょう。暗号あんごうには『獅子ししが烏帽子えぼしをかぶる時とき』とありますが、大だい地震じしんでも起おこらないかぎり、この二ふたつの岩いわがかさなりあうことなんて、思おもいもおよばないじゃありませんか。明智あけちさん。あの暗号あんごうをどうお考かんがえになります。」

「ぼくも今いまそれを考かんがえていたところです。あの暗号あんごうは、この獅子しし岩がんがほんとうにあの烏帽子えぼし岩がんをかぶるという意味いみじゃなく、何なんかもっと別べつのことだと思おもうのです。もう少すこししらべてみましょう。」

さすがの明智あけち探偵たんていにも、それだけがまだわからないのでした。

それから、四よん人にんはごつごつした岩いわの道みちを歩あるいて、獅子しし岩がん、烏帽子えぼし岩がん、カラス岩いわの順じゅんに、一ひとつずつそばへよってしらべてまわりました。近ちかよって見みますと、三みつとも見みあげるような大岩おおいわで、なんだかおそろしくなるようでしたが、不二夫ふじお君くんは大喜おおよろこびで、小林こばやし少年しょうねんをさそって、岩いわの上うえへよじのぼって、下したにいるふたりのおとなに「ばんざい。」などとさけんでみせたりするのでした。

明智あけち探偵たんていはそれらの岩いわを、一ひとつ一ひとつたんねんにしらべているようすでしたが、べつにこれという発見はっけんもないらしく、四よん人にんはまた、もとの獅子しし岩がんのそばへもどってきました。

島しまへ上陸じょうりくしたのは午後ごご三さん時じごろでしたが、岩いわを見みまわっているうちに、いつのまにか時間じかんがたって、もう五ご時じをすぎていました。太陽たいようは西にしのほうの海面かいめんに近ちかづいて、だんだん形かたちが大おおきくなり、赤あかい色いろにそまっていくのでした。

不二夫ふじお少年しょうねんは、またしても獅子しし岩がんの上うえによじのぼって、ひとりではしゃいでいましたが、とつぜん大おおきな声こえでさけびました。

「やあ、すてきすてき、獅子ししの形かたちがあんなにのびちゃった。小林こばやし君くん、ごらん、獅子ししの頭あたまがもう少すこしでむこうの烏帽子えぼし岩がんにとどきそうだよ。ぼくの影かげもあんなに長ながくなっちゃった。ほらほら……。」

さけびながら、不二夫ふじお君くんは獅子しし岩がんの上うえで手てをふってみせましたが、その手ての影かげが、ずうっとむこうの岩いわのはだにうつって、ひらひらと動うごいているのです。

不二夫ふじお君くんのいうとおり、獅子しし岩がんの影かげは、今いまにも烏帽子えぼし岩がんにとどきそうになっています。下したに立たっている三さん人にんは、不二夫ふじお君くんに教おしえられてその影かげをじっと見みつめていましたが、やがて、明智あけち探偵たんていがハッと何なにごとかを気きづいて、うれしそうな声こえで宮瀬みやせ氏しに話はなしかけました。

「宮瀬みやせさん、わかりました。暗号あんごうのなぞがとけたのです。不二夫ふじお君くんのおかげですよ。今いまの不二夫ふじお君くんのことばで、すっかりなぞがとけたのです。」

「エッ、不二夫ふじおのことばで? わたしにはさっぱりわかりませんが……。」

宮瀬みやせ氏しはびっくりしたように、名めい探偵たんていの顔かおを見みつめました。

「ごらんなさい。不二夫ふじお君くんに教おしえられて気きがついたのですが、獅子しし岩がんの影かげがあんなにのびて、今いまにも烏帽子えぼし岩がんに、とどきそうになっているじゃありませんか。もう少すこし太陽たいようがさがれば、影かげはもっとのびて、ちょうど獅子ししの頭あたまが烏帽子えぼし岩がんの下したのほうにうつるでしょう。すると、獅子ししが烏帽子えぼしをかぶるわけじゃあありませんか。暗号あんごうの意味いみは、獅子ししの頭あたまの影かげが、烏帽子えぼし岩がんにうつって、ちょうど、烏帽子えぼしをかぶったように見みえる時ときということだったのですよ。」

「ああ、なるほど、そうだ、そうだ、そうにちがいありません。やっぱりその場ばへ来きてみなければわからないものですね。まさか影かげとは気きがつかなかった。

不二夫ふじお、おまえは、たいへんなてがらをたてたんだよ。おまえがなにげなくいったことばから、明智あけち先生せんせいが暗号あんごうをといてくださったのだよ。」

宮瀬みやせ氏しはうれしまぎれに、岩いわの上うえの不二夫ふじお君くんに、大声おおごえに呼よびかけるのでした。

「もう少すこしです。もう少すこし待まてば、獅子ししが烏帽子えぼしをかぶった形かたちになります。ちょうどそのときに、あのカラス岩いわの頭あたまの影かげがどのへんにさしているか、それを見みさだめなければなりません。その頭あたまの影かげの頂上ちょうじょうから、東ひがしへ三十さんじゅう尺しゃくはかり、それから北きたへ六十ろくじゅう尺しゃくはかればいいのです。そこに戸とのようになった岩いわがあるわけです。」

いっているうちに、太陽たいようはみるみる西にしの水平すいへい線せんにちかづいて、獅子しし岩がんの影かげは、だんだんのびていきます。

「さあ、みんな、あの烏帽子えぼし岩がんの前まえへ行いって、獅子ししが烏帽子えぼしをかぶるのを見みていてください。ぼくはカラス岩いわのむこうへ行いって、カラスの頭あたまの影かげがどこにさすか見みさだめます。」

明智あけちのさしずで、宮瀬みやせ氏しと不二夫ふじお君くんと小林こばやし少年しょうねんの三さん人にんは、烏帽子えぼし岩がんのほうへかけだしました。明智あけちはただひとり、カラス岩いわのむこうへ走はしっていきます。

しばらくすると、烏帽子えぼし岩がんの前まえから小林こばやし少年しょうねんのかんだかい声こえがひびきました。

「先生せんせい、今いまです。ちょうど、獅子ししが烏帽子えぼしをかぶった形かたちになりました。」

すると、カラス岩いわのずっとむこうから、明智あけちの声こえが答こたえました。

「ようし、それじゃあ、みんなこっちへ来きてくださあーい。」

三さん人にんが大急おおいそぎでかけつけますと、明智あけちはカラス岩いわの頭あたまの影かげをふんで、にこにこ笑わらいながら立たっていました。

「さあ、小林こばやし君くん、きみのリュックサックから、巻尺まきじゃくをだしたまえ。いま、ぼくの立たっているところから、東ひがしへ三十さんじゅう尺しゃくはかるのだ。」

小林こばやし君くんが手てばやく巻尺まきじゃくを取とりだしますと、明智あけちは、その巻尺まきじゃくのはしを、くつでふんで動うごかないようにして、それから、時計とけいのくさりについている磁石じしゃくを見みながら、右手みぎてを上あげて、東ひがしの方角ほうがくをさししめしました。

小林こばやし君くんはその指ゆびのさししめす方角ほうがくへ、巻尺まきじゃくをのばして歩あるいていき、ちょうど、三十さんじゅう尺しゃく(九きゅう・一いちメートル)のところで立たちどまりました。

「ここが三十さんじゅう尺しゃくです。」

「よし。それじゃ、そこに動うごかないで立たっているんだよ。」

明智あけちがそういって、はしをふんでいた足あしをのけますと、小林こばやし君くんは巻尺まきじゃくのハンドルをまわして、もとのように巻まきました。

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