← Library‹ 大金塊 覆面の首領

ところが、今いま、かけだそうと身みがまえした二に少年しょうねんの耳みみに、みょうな声こえが聞きこえてきました。まったく思おもいもよらぬ、聞ききなれない声こえなのです。

「へへへへへへ、うまくいったね。四よん人にんのやつら、今いまごろは道みちにまよって、べそをかいているだろうぜ。」

「そうよ。運うんの悪わるいやつらだ。宝たからものが、こんな手てぢかなところに、かくしてあるとは知しらないで、別べつの穴あなへまよいこんでしまったんだからね。さすがの名めい探偵たんていも、こんどこそは運うんのつきだろうぜ。道みちしるべのひもを切きられてしまっちゃ、とてもあの穴あなを出でられっこはないんだからね。フフフフフフ、ざまあ見みるがいい。」

「だが、こんなにうまくいこうとは思おもわなかったね。やつらのあとをつけて、このほら穴あなへしのびこんで、ひょいと別べつの枝道えだみちへはいってみると、たちまち千せん両箱りょうはこの山やまにぶつかったんだからねえ。神かみさまが、おれたちのほうに味方みかたしていてくださるんだね。」

「ハハハハハハハ、神かみさまでなくって、この岩屋いわや島しまに住すんでいる鬼おにのご利益りやくかもしれない。なんにしても首領しゅりょうの運うんのつよいのにはおどろくよ。」

そんなことを、ガヤガヤしゃべりながら、近ちかづいてきたのは、ひとりやふたりではなくて、どうやら四、五しご人にんのあらくれ男おとこらしいのです。

二に少年しょうねんはこの会話かいわを聞きいて、ハッと身みをすくめました。味方みかたとばかり思おもっていたのが、そうではなくて、おそろしい敵てきとわかったからです。

話はなしのようすでは、大金たいきん塊かいを横よこどりしようとして、四よん人にんの探検たんけん隊たいのあとをつけてきたらしく、道みちしるべのひもを切きったのも、こいつらのしわざだったのです。四よん人にんがちがう枝道えだみちへまよいこんでいるあいだに、こいつらは悪運あくうんつよくも、正ただしい道みちをさがしあてて、とっくに宝たからものを見みつけていたのです。そして千せん両箱りょうはこを外そとへはこびだすために、人数にんずうをそろえてもどってきたのにちがいありません。

なんにしても、こいつらに見みつかってはたいへんです。明智あけち探偵たんていのなかまと知しれたら、どんなひどいめにあわされるか、知しれたものではないからです。

小林こばやし少年しょうねんは、ものをもいわず、不二夫ふじお君くんの手てをひっぱって、もとのせまい穴あなへ逃にげこみました。そのせまい穴あなには海うみの水みずが流ながれこんでいて、奥おくへ行いくほど深ふかくなるのですが、そんなことにかまってはいられません。ふたりは、またしても、ひざのへんまであるつめたい水みずの中なかへ、はいっていかなければなりませんでした。

そして、その穴あなの奥おくから、そっとのぞいて見みますと、あらくれ男おとこたちは、もう千せん両箱りょうはこの山やまの前まえにひとかたまりになっていて、これから、それをはこびだそうとしているところでした。

かぞえてみれば、男おとこたちは五ご人にんづれであることがわかりました。みな、力ちからの強つよそうなおそろしい顔かおつきの大男おおおとこの中なかに、ひとりだけ少すこし小こがらな、みょうなまっ黒くろな服装ふくそうをした人物じんぶつがまじっていました。どうやらそれが悪者わるものどもの首領しゅりょうらしいのです。

やがて、ひとりの男おとこが身動みうごきするひょうしに、その男おとこの手てにしていた懐中かいちゅう電灯でんとうが、首領しゅりょうらしい小男こおとこの顔かおをてらしました。

すると、その光ひかりの中なかへ、人間にんげんの顔かおではなくて、なんともえたいの知しれないみょうなものがあらわれたのです。まっ黒くろな化ばけ物ものです。目めと口くちのところだけが、三みつの穴あなのように白しろくなって、そのほかは、耳みみも鼻はなもなにもないまっ黒くろな顔かおをしているのです。

小林こばやし君くんはそれを見みて、ギョッとしましたが、しばらくすると、その小男こおとこが、お化ばけよりも、もっとおそろしいやつであることがわかりました。

そいつは、まっ黒くろな顔かおではなくて、黒布くろめで覆面ふくめんしていたのです。黒布くろめの目めと口くちのところだけがくりぬいてあったのです。

読者どくしゃ諸君しょくんも、もうおわかりでしょう。それは女おんなだったのです。このお話はなしのはじめのほうで、小林こばやし君くんを地下ちか室しつにとじこめた悪者わるものたちの女おんな首領しゅりょうだったのです。ロシア人にんの着きるルパシカに似にた黒服くろふくといい、覆面ふくめんのかっこうといい、あの地下ちか室しつの女おんな首領しゅりょうとそっくりだったのです。

ああ、なんという執念しゅうねんぶかい悪者わるものでしょう。大金たいきん塊かいのかくし場所ばしょをしるした暗号あんごうがぬすみだせなかったものですから、こんどは手てをかえて、はるばる東京とうきょうから、四よん人にんの探検たんけん隊たいのあとをつけてきたのです。そして、明智あけち探偵たんていがかくし場所ばしょを見みつけるのを待まちかまえていて、大金たいきん塊かいを横よこどりしようとたくらんだのです。

小林こばやし君くんはそれと気きづくと、賊ぞくのあまりの執念しゅうねんぶかさにゾウッとしないではいられませんでした。なんだかおそろしい夢ゆめでもみているようで、目めの前まえのできごとが、ほんとうとは思おもえないほどでした。

「よっこらしょっと、こりゃあ重おもいや。あの船ふねでは、これだけの箱はこを、とても一いち度どには、運はこべませんね。」

ひとりの男おとこが、千せん両箱りょうはこを肩かたにかついで、首領しゅりょうに話はなしかけました。

「うん、まあ三さん分ぶんの一いちだろうね。船ふねで、れいのところまで運はこんでおいて、また引ひきっかえしてくるんだ。なにしろ一いち億おく円えんなんだからね。どんなに骨ほねをおったって、骨ほねおりがいがあるというものだ。おまえたちもみんな、きょうから大おお金持かねもちになれるんだぜ。」

覆面ふくめんの首領しゅりょうが男おとこの声こえで、部下ぶかの男おとこたちをはげましました。首領しゅりょうが女おんなだということは、部下ぶかのものは、まだ知しらないようです。その秘密ひみつを知しっているのは、広ひろい世界せかいで、小林こばやし少年しょうねんたったひとりなのかもしれません。

「フフフフフフ、おれたちが、みんな百ひゃく万まん長者ちょうじゃか。なんだか夢ゆめみたいだね。」

「夢ゆめならばさめてくれるな。フフ、世よの中なかがおもしろくなってきたぞ。ねえ、首領しゅりょう、おれたちはずいぶん悪わるいこともはたらいてきたが、こんなでかい仕事しごとは、あとにもさきにもはじめてですね。」

「おいおい、喜よろこんでいないで、早はやく運はこぶんだ。これをすっかりかたづけてしまうまでは、安心あんしんができない。どんなじゃまがはいらないともかぎらないからね。」

むだ口ぐちをききながら、男おとこたちは一ひとつずつ千せん両箱りょうはこをかついで、ほら穴あなを出でていきました。覆面ふくめんの首領しゅりょうは、懐中かいちゅう電灯でんとうを持もって部下ぶかのものを見みはるようにしながら、いちばんうしろから歩あるいていきます。

やがて、賊ぞくの話はなし声ごえや足音あしおとも聞きこえなくなり、懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりも消きえてしまうと、ほら穴あなの中なかは、またもとの、めくらになったかと思おもうような暗くらさでした。

Click a word · hold for the whole sentence 0%