二少年は、たがいに身をすりよせて、手をにぎりあって、胸をドキドキさせながら、立ちすくんでいました。まるでへびにみこまれたかえるのように、逃げだす力さえなくなってしまったのです。そういえば、くらやみの中に光っている懐中電灯は、とほうもなく大きな毒へびの目のようにさえ感じられるのでした。
そのぎらぎら光るへびの目は、刻一刻こちらへ近づいてきました。ああ、もう運のつきです。とうとうつかまってしまったのです。
小林君も不二夫君も、いよいよ覚悟をきめました。そして、口をきくかわりに、にぎりあっていた手に、ぎゅっと力をこめて、最後のわかれをつげるのでした。
すると、そのとき、じつに思いもよらぬことが起こりました。
「おお、不二夫、不二夫じゃないか。」
「あ、やっぱりそうだ。小林君だね。」
とつぜん、ぎらぎら光るへびの目のうしろから、そんなさけび声が聞こえてきたのです。
意外も意外、ふたりの少年にとっては、たましいもしびれるほどうれしい意外でした。それは賊ではなかったのです。賊どころか、味方も味方、さがしてさがしぬいていた明智探偵と宮瀬氏だったのです。
二少年の口から、なんともいえない喜びのさけび声がほとばしりました。そして、小林君は明智先生の胸をめがけて、不二夫君はおとうさんの宮瀬氏の胸をめがけて、おそろしいいきおいで飛びついていきました。
先生と弟子と、父と子とは、そのくらやみの中で、ひしとだきあったまま、しばらくは口をきくこともできませんでした。やがて、はげしいすすり泣きの声が聞こえてきました。不二夫君が、あまりのうれしさに、とうとう泣きだしてしまったのです。
あとで聞きますと、明智探偵と宮瀬氏は、二少年のゆくえをさがして、長いあいだ、地底の迷路をさまよったあげく、知らず知らずほら穴の入り口にたどりついたのです。すると、ちょうどそこへ、小林君たちも来あわせていたというわけでした。なんという幸運でしょう。やっぱり神さまは正しいものをお見すてにはならなかったのです。悪いやつは、いつかはほろび、正しい者は、いつかは、しあわせにめぐりあうのです。
しかし、うれしさにむちゅうになっているばあいではありません。いつ賊がもどってくるかもしれないからです。小林君はそこへ気がつきましたので、明智探偵と宮瀬氏に、てみじかに、ことのしだいを語りました。
それを聞いたふたりのおどろきは申すまでもありません。
「ああ、また、きみたちにてがらをたてられてしまったねえ。金貨が見つかったというのも、そんなおそろしい水ぜめにあいながら、少しもくじけなかった、きみたちの勇気のたまものだよ。えらかったねえ。ことに不二夫君は、よくがまんしましたね。」
明智が、年下の不二夫君をほめれば、宮瀬氏は、それもまったく小林君のおかげです、小林君は不二夫のいのちの親ですと、明智探偵の名助手をほめたたえるのでした。
「でも、その金貨は賊が横どりしようとしているのです。船でどっかへはこぼうとしているのです。先生、どうかして、あいつらをとらえるわけにはいかないでしょうか。」
小林君は何よりも、それが気がかりでした。
「それならば安心したまえ。ぼくは今、うまいことを考えついたんだ。たとえ相手が何人いようとも、きっととらえてみせるよ。宮瀬さん、ご先祖の小判一枚だって、賊の手に渡すようなことはしませんから、ご安心ください。さあ、それじゃ、賊がもどってこないうちに、急いで外へ出よう。」
明智探偵は何か考えがあるらしく、たのもしげにいって、さきに立ってほら穴の入り口へと進むのでした。
それから、四人はせまい入り口をはいだして、なつかしい太陽のかがやく地上の世界へ、もどりました。もう夕方です。考えてみれば、おひるまえから六、七時間の長いあいだ、地底のくらやみをさまよっていたわけです。
明智探偵は、しばらくあたりを見まわしていましたが、ほら穴の入り口から二十メートルほどのところに、大きな岩が立っているのを見つけて、一同をつれてその岩かげに身をかくしました。
そして、四人のものは、賊が千両箱をはこびだすために、もどってくるのを、待ちかまえていたのです。
岩かどから、そっとのぞいていますと、それとも知らぬ賊の一団は、覆面の首領を先頭に、どこからか姿をあらわし、岩穴の中へはいって行くのが見えました。
明智探偵は、賊の最後のひとりがその中へ消えるのを見とどけて「さあ、今だ。」と、人々をうながし、大急ぎでほら穴の入り口へかけつけました。
読者諸君は、四人が最初その場所を発見したとき、ほら穴の入り口が大きな岩でふさいであったことをご記憶でしょう。あの大岩はそのまま入り口のそばにころがっていたのですが、明智探偵は、いきなりそれに近づいて、大岩に両手をかけ、
「さあ、みんな、力を合わせておしてください。もとのように穴をふたしてしまうんです。」
と、ささやき声でさしずしました。
ひとりやふたりの力では、とても動かないのですが、四人がいっしょうけんめいにおしたものですから、さすがの大岩もやっと動きだし、まもなく、ほら穴の入り口をぴったりとふさいでしまうことができました。
ああ、なんといううまい考えでしょう。これでいっさいすんでしまったのです。賊と格闘したり、なわでしばったり、そんなめんどうな手数をかけないで、大岩一つで、五人のものを完全にとりこにしてしまったのです。さすがに名探偵ではありませんか。
「小林君、わかるかい。これは理科の問題だよ。こうしておけば、中からはどうしても、この岩をおしのけることができないのだ。なぜかというとね、穴の入り口のところは、立って歩けないほどせまいので、中からこの岩をおすにしても、たったひとりしか手をかけることができないからだよ。いくら力の強いやつでも、ひとりでこの岩を動かすなんて、思いもよらんことだからね。」