← Library‹ 大金塊 ねこめ石の指輪

ややあって、宮瀬みやせ氏しは何なんを思おもったのか、明智あけち探偵たんていに内密ないみつの話はなしがあるからといって、不二夫ふじお君くんと喜多村きたむらとを立たちさらせ、ぴったりドアをしめて、探偵たんていとただふたり、テーブルをはさんで、さしむかいとなりました。

「さいぜんも、ちょっとお話はなしたように、わたしは、そのかくし場所ばしょを少すこしも知しらなかったのです。しかし、どこかしらこの家いえの中なかに、あるたいせつな書かきものが、かくしてあることは、よく知しっておりました。亡なくなったわたしの兄あにがかくしておいたのです。

わたしは、それを手てをつくしてさがしました。兄あにがこの家いえをわたしにゆずって、亡なくなってから一いち年ねんほどになるのですが、そのあいだ、わたしは毎日まいにちのように、この家いえのすみからすみまでさがしまわったのです。しかし、秘密ひみつのかくし場所ばしょは、どうしても見みつかりませんでした。

それを、あなたは、たった一いち時間じかんのあいだに、見みつけてしまわれた。いったい、どうしてこの秘密ひみつがわかったのですか。」

宮瀬みやせ氏しは、ほとほと感かんじいったように、明智あけちの顔かおを見みつめるのでした。

「いや、何なんもわたしのてがらではありませんよ。この紙かみきれです。この紙かみきれが、教おしえてくれたのです。」

明智あけちはやっぱり、にこやかに笑わらいながら、少すこしも高たかぶらないで答こたえました。

「それはわかっています。むろんその紙かみきれが手てがかりになったことはわかっていますが、どうして暖炉だんろの彫刻ちょうこくにお気きづきになったのか、まるで手品てじなのようで、わたしなどには、さっぱりわけがわかりません。」

「いや、なんでもないことなのですよ。」

明智あけちは、むぞうさに説明せつめいしました。

「ぼくもはじめは、たいへんな思おもいちがいをしていたのです。五ごに三さんたす八はち、十三じゅうぞうから二にひく十じゅう一いちというふうに、たし算ざんとひき算ざんをするのだとばかり思おもっていたのです。

それで、この部屋へやの中なかに八はちとか十じゅう一いちとかいう数かずのものが、何なんかないかと、そのへんを見みまわしていますと、あの置おき時計とけいが目めにつきました。時計とけいの文字もじ盤ばんには、一いちから十じゅう二にまでの数字すうじがきざんであるのですからね。

わたしは、ふと、あの時計とけいの針はりを、八はち時じのところへまわしたり、十じゅう一いち時じのところへまわしたりすれば、秘密ひみつのかくし場所ばしょがひらくようなしかけになっているのではないかと考かんがえました。

しかし、あの時計とけいをよくしらべてみますと、どうもそんなしかけがあるらしくも思おもえません。そこで、わたしはまた部屋へやのまん中なかに立たって、心こころをしずめて、四方しほうを見みまわしたのです。すると、こんどはあのたなの下したの彫刻ちょうこくが目めにはいりました。

そこで、あのまるい彫刻ちょうこくの左ひだりから八はち番ばんめと十じゅう一いち番ばんめを動うごかしてみたり、右みぎから八はち番ばんめと十じゅう一いち番ばんめを動うごかしてみたりしましたが、これも失敗しっぱいでした。少すこしも動うごかないのです。

わたしは、とほうにくれて、紙かみきれをもう一いち度どながめました。そして数字すうじを見みているうちに、ふとべつの考かんがえがうかんできたのです。

この+や-の印しるしは、たしたりひいたりするのでなく、もっとほかのことを教おしえているのじゃないかしら、ためしにたしたりひいたりしないで、もとの数かずでやってみようと考かんがえたのです。もとの数かずというのは、つまり五ごと十じゅう三さんですね。

そこで、まず左ひだりからかぞえて五ご番ばんめのまるい彫刻ちょうこくを、動うごかしてみました。すると、なんだか少すこし動うごくような気きがするのです。ためしに右みぎへねじってみますと、ぐるぐるまわるじゃありませんか。

ひょっとしたら、五ごにたす三さんは、三さん回かいまわせという意味いみかもしれない。そう考かんがえて右みぎへ三さん回かいまわしますと、何なんか、かすかな手てごたえがあって、そこでぴたりととまって、動うごかなくなりました。

こんどは左ひだりからかぞえて十じゅう三さん番ばんめの彫刻ちょうこくです。動うごかしてみますと、やっぱりまわるのです。右みぎへではなくて、左ひだりへまわるのです。

そこで、わたしは、すっかり、紙かみきれの数字すうじのわけがわかりました。+のほうは右みぎへまわせという印しるしで、-のほうはその反対はんたいの左ひだりへまわせという印しるしなのです。13-2ですから、十じゅう三さん番ばんめの彫刻ちょうこくを左ひだりへ二に回かいまわせばいいのです。

そのとおりにしますと、あんのじょう、あの獅子ししの口くちがひらいたというわけですよ。」

「ああ、そうでしたか。その紙かみきれの数字すうじは、金庫きんこをひらく暗号あんごうと同おなじものだったのですね。それにしても、あの暖炉だんろのかざりの彫刻ちょうこくにお気きづきになるとは、やっぱり専門せんもん家かはちがったものです。われわれには思おもいもおよばぬことですよ。」

宮瀬みやせ氏しは感かんじいって、探偵たんていの知恵ちえをほめたたえたのでした。

「しかし、わたしはまだ、あの獅子ししの口くちの中なかに、何なんがはいっていたかということを知しらないのですが、それほどにして、賊ぞくがぬすんでいったところをみますと、よほどたいせつなものだったのでしょうね。」

「そうです。ばくだいな金額きんがくのものです。今いまのねうちにすれば、おそらく一いち億おく円えんをくだるまいと思おもいます。」

宮瀬みやせ氏しは、人ひとに聞きかれるのをおそれるように、さも一いち大事だいじらしく、ささやき声ごえになって、いいました。

「エッ、一いち億おく円えん? それは、たいへんな金額きんがくですね。いったいどういう書類しょるいなのです。」

さすがの明智あけち探偵たんていも、金額きんがくがあまりに大おおきいのに、びっくりしたおももちでした。

「暗号あんごう文書ぶんしょなのです。一いち億おく円えんの金塊きんかいのかくし場所ばしょをしるした暗号あんごうなのです。とつぜんこんなことをいったのでは、おわかりにならないでしょうが、これには深ふかいわけがあるのです。あなたには、その暗号あんごう文書ぶんしょを賊ぞくの手てから、取とりもどしていただかねばなりませんから、だれにも打うちあけたことのない秘密ひみつを、お話はなしするのですが、それはこういうわけなのです。

わたしの祖父そふにあたる宮瀬みやせ重右衛門じゅうえもんというのは、明治維新めいじいしんまえまで、江戸えどでも五ご本ほんの指ゆびにかぞえられる大だい富豪ふごうだったのです。

その重じゅう右衛門えもんという人ひとが、まあおくびょう者しゃとでもいうのでしょうね。維新いしんのさわぎで、江戸えどに大だい戦争せんそうが起おこるといううわさを聞ききますと、そうなれば自分じぶんのような商人しょうにんなぞは、どんなめにあうかしれないというので、たくわえていた百ひゃく万まん両りょう以上いじょうの金銀きんぎんのほかに、家いえ蔵くらまで売うりはらってしまって、それをすっかり大判おおばん小判こばんにかえ、何百なんびゃくという千せん両箱りょうはこにつめて、どこか遠とおい山やまの中なかへ、うめかくしてしまったのです。

さっき金塊きんかいと申もうしましたが、じつは大判おおばん小判こばんのかたまりなのです。いや、大判おおばん小判こばんの山やまなのです。それをわたしの兄あには、『大金たいきん塊かい、大金たいきん塊かい』と申もうしていたのです。

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