ところで、ほんとうの小林君は、ニコラ博士の手下の、ふたりの男につれられて、地下室の牢屋の中へいれられてしまいました。
そのおなじ地下室には、玉村銀一君や、白井美術店の子どもの白井保君なども、とじこめられていたのですが、小林君のいれられた牢屋は、銀一君たちの牢屋とは、すこしはなれていましたので、小林君は、まだなにも知りません。
ふたりの男が、小林君を牢屋にいれて、鉄ごうしにかぎをかけて、いってしまいますと、それといれかわるように、鉄ごうしの外へ、白ひげの老人が、あらわれました。さっきまでトラにばけていたニコラ博士が、こんどは老人に姿をかえているのです。
「小林君、少年名探偵も、いくじがないねえ。まんまと、つかまってしまったじゃないか。しばらく、ここにいてもらうよ。ひもじいおもいなんかさせないから、ゆっくり、とまっていくがいい。」
「なぜ、ぼくをとじこめたのですか。」
小林君は、鉄ごうしに顔をくっつけるようにして、ききただしました。
「きみが、じゃまだからさ。わしが、おもうぞんぶんのことをやるのには、きみはじゃまものだ。いや、きみばかりじゃない。きみの先生の明智小五郎も、むろん、じゃまものだ。だから明智が北海道から、かえってきたら、やっぱり、ここに、とじこめてしまうつもりだよ。」
「えっ、明智先生を?」
小林君は、おもわず、大きな声をたてました。
「そうとも、わしは日本にきて、まもないが、明智小五郎のことは、よく知っている。日本で、なにかわるいことをするためには、まず、明智をやっつけなければならない。そうしなければ、こっちが、あいつにやられてしまうのだからね。ウフフフフ……。」
「明智先生が、きみなんかに、つかまるもんか。」
小林君は、顔をまっかにして、どなりました。
「ハハハハハ……、きみにとっちゃあ、神さまみたいな明智先生だからね。オールマイティーだからね。だが、このニコラ博士はそれ以上の力をもっているのだ。スーパーマンだ。ワハハハハ……、スーパーマンとオールマイティーの戦いだ。ゆかい、ゆかい、かんがえただけでも、胸がおどるよ。」
「ハハハハハ……。」
小林君も、まけないで、笑いとばしました。
「きみは明智先生を知らないのだ。きみみたいなおいぼれに、まけるような先生じゃない。いまに、びっくりするときがくるよ。」
「ウフフフフ……、小林君、なかなか、いせいがいいね。なあに、どちらが、びっくりするか、そのときになってみれば、わかることだ。それよりも、小林君、きみがここにとじこめられているあいだに、もうひとりのきみが、なにをしているか、知っているかね。」
「えっ、もうひとりのぼくだって?」
「そうとも、顔もからだも、きみとそっくりのやつが、もうひとりいるんだ。そして、きみのかわりに、だいじなしごとをやっているのだ。」
それをきくと、小林君は「しまった」とおもいました。小林君がこの事件にかかりあったのは、玉村銀一君が、にせものといれかわっているらしいことからでした。ニコラ博士は、なんかの魔力によって、ほんものと、全然ちがわない、にせの人間を、つくりだすことができるのかもしれません。そして、こんどは、小林君が、その魔力にかかったのです。小林君とそっくりの少年が、どこかに、もうひとり、いるらしいのです。
「ウフフフフ……、顔色がかわったね。おどろいたか。ニコラ博士の魔法が、こわくなったか。もうひとりのきみは、いま、あるところで、わしの命令のままに、はたらいているのだ。
え、わかるかね。きみがよびだせば、少年探偵団員は、みんな、あつまってくる。そして、きみのいうことには、なんでも、したがうのだ。
にせの小林は、なにを命令するかわからない。だから、少年探偵団員は、どんなひどいめにあうかも、わからない。いや、そんなことよりも、にせの小林は、もっともっと、おそろしい悪事をはたらいているかもしれないよ。
オールマイティーの明智先生だって、きみとそっくりの少年のいうことなら、信用するにちがいない。そうすると、どんなことがおこるだろうね。……え、小林君。にせの小林という武器をつかえば、オールマイティーが、オールマイティーでなくなってしまうのだよ。ハハハハハ……。」
ニコラ博士は、その笑い声をのこして、鉄ごうしの前から、むこうへ立ちさっていきました。
小林君は、すっかり、まいってしまいました。
じぶんとそっくりのにせものが、どっかで悪事をはたらいているのかとおもうと、気が気ではありません。しかも、その悪事が、どんなことだかわからないのですから、いよいよ心配です。
明智先生が北海道からかえられる日も、ちかづいています。もし、にせものが先生を出むかえて、うそをついたら、どんな危険なことがおこるかしれません。
考えれば、考えるほど、心配でしかたがありません。
いっこくも早く、ここからにげだし、にせもののばけのかわをはいで、わるいことのおこるのを、ふせがなければなりません。
どうしたら、ここをにげだすことができるでしょう。小林君は、しばらくのあいだ、しんけんな顔で、かんがえていましたが、やがて、なにをおもいついたのか、ニッコリと笑いました。
「あっ、そうだ。こういうときに、あれをつかうのだ。」
そんなひとりごとをいいながら、ポケットから、筒のようにまるめた、レザーのシースをとりだし、鉄ごうしの外から、のぞかれやしないかと、注意しながら、そのシースをひらきました。
それは電気工事をやる人が、腰にさげている皮のシースを小さくしたようなもので、小型のナイフ、ペンチ、ヤットコなどがさしてあり、また、ふといのや、ほそいのや、十センチあまりの針金が、何本もいれてあるのでした。少年探偵団の七つ道具のほかに、小林団長だけは、いつもこのシースを、用意しているのです。
小林君は、鉄ごうしのとびらの外がわの錠前の穴をしらべて、それに合うふとさの針金をえらびだし、ヤットコを片手に、針金ざいくをはじめました。