小林君は、勇気をだして、もう一度箱のふたをあけてみました。
やっぱり、玉村銀一君です。いつも着ている服を着て、正面をむいたまま、まばたきもしないで、立っています。
「玉村君、きみは、玉村銀一君だね。」
声をかけても返事もしません。こちらの顔を見ようともしません。
小林君は、銀一君の腕に手をかけてゆすぶってみました。すると、銀一君のからだが、ユラユラとゆれたのですが、そのゆれかたがへんでした。
それは人間ではなくて、人形だったのです。プラスチックでできた人形だったのです。じつによくできていました。銀一君にそっくりです。
気がつくと、人形の立っている足の下にひきだしが一つついていました。
それをあけてみますと、中に写真がたくさんはいっているのです。
みんな玉村銀一君の写真です。顔と全身を、前から、うしろから、横からと、あらゆる角度からとったものです。
ああ、わかりました。これらの写真をもとにして、この人形をつくったのです。これだけたくさんの写真があれば、銀一君とそっくりの人形をつくることもできるでしょう。
だが、なんのために、こんな人形をつくったのでしょうか。そこがどうもよくわかりません。
小林君は、ふと、みょうなことを考えました。超人ニコラ博士はにせものをつくったあとで、ほんもののほうは、人形にしてしまったのではないかということです。魔法つかいのニコラ博士にとっては、人間を人形にかえてしまうぐらいはわけのないことでしょう。
この、ロッカーみたいな箱の中には、ほかにも、たくさんの人形がはいっているのかもしれません。小林君は、いよいよ、気味がわるくなってきましたが、勇気を出して、針金のかぎで、つぎのT2のふたをひらいてみました。
その中には、美しい女の子が立っていました。まだあったことはないけれども、銀一君のねえさんの光子さんかもしれません。光子さんもにせものにかわっているらしいことは、玉村銀之助さんからきいていました。
そのつぎには、T3というふたをひらいてみました。
「おやっ、銀一君のおとうさんまで!」
そこに立っているのは、たしかに宝石王の玉村銀之助さんでした。
「すると、このあいだ銀座の店であったのは、にせものだったのかしら。」
小林君は、小首をかしげました。あれがにせものだったとは、どうにも考えられないのです。
そうです。あのときの玉村さんは、まだほんものでした。読者諸君は、よく知っています。玉村さんが、にせの小林少年のために、大時計の箱にとじこめられたのは、あれよりあとのことでした。
小林君が、このロッカーのような箱の中を見ているときには、まだにせものとのいれかえは、すんでいませんでしたが、人形のほうは、もうちゃんとできていたのです。
小林君は、こうなったら、みんな見てやろうと、どきょうをきめました。
そして、つぎにひらいたのは、T4のふたです。そこには、三十五―六歳の女の人が立っていました。小林君はあったことがありませんが、これは銀一君のおかあさんらしいのです。
「おやおや、おかあさんまで、にせものといれかえるつもりだな。」
小林君は、思わず、つぶやきました。これで玉村さんの家族はぜんぶです。ニコラ博士は、玉村家の人をみんなにせものといれかえて、玉村家をのっとってしまうのでしょうか。それを考えると、怪博士の、あまりの悪だくみに、小林君は、心の底から、ふるえあがってしまいました。
こんどはS1のふたです。それをひらくと、銀一君よりはすこし大きい少年が立っていました。むろん人形です。小林君は知りませんでしたが、これは白井美術店の子どもの白井保君です。
つぎのS2の箱には、保君のにいさんの人形が、S3、S4と、ひらくにつれて、保君のおとうさんをはじめ、白井家の人たちが、ズラッとならんでいるのです。小林君はその人たちを、ひとりも知りませんが、じつは、白井美術店の主人の家族ぜんぶが、そこに人形にされていたのです。
ニコラ博士は、こうして、玉村宝石店をのっとったのとおなじように、白井美術店ものっとろうとしているのにちがいありません。
そのつぎにはA1のふたをあけてみました。針金をカチカチやって、なんの気なしに、そのふたをひらいたのですが、ひらくと同時に、小林君は、目をまんまるにして、立ちすくんでしまいました。
ああ、なんということでしょう。その箱の中には、もうひとり小林少年が立っていたではありませんか。顔もおなじ、服もおなじ、まるで鏡にでもうつったように、ふたりの小林君が、むかいあって立っているのです。
小林君は、おどろいてしまいました。じぶんとそっくりのやつが、こっちをにらみつけているのです。小林君は、こわい目をして、相手をにらんでやりました。しかし、人形は、いっこうにへいきです。そしてながいあいだ、小林君と小林君との、ふしぎなにらみあいがつづきました。
小林君が牢屋にいれられたとき、ニコラ博士がやってきて、
「きみのにせものが、外ではたらいている。そのあいだ、ほんもののきみは、ここにとじこめておくのだ。」
といいました。では、この人形が、そのにせものなのでしょうか。
いや、そうではありますまい。にせものは、どこかで、生きて動いているはずです。すると、この人形は、なんのために、つくられたのでしょうか。
小林君は、しばらく考えていましたが、やがて、そのわけがわかりかけてきました。
「ああ、そうだ。まずぼくの写真をあつめたにちがいない。ぼくの知らないまに、だれかがとったのだ。」
ねんのために、人形の足の下のひきだしをあけてみますと、小林君の写真が何十枚もはいっていました。顔だけのもの、全身のもの、前から、うしろから、横からと、あらゆる方角からとった写真がたくさん出てきたのです。
「この写真をもとにして、プラスチックの人形をつくったのだ。この人形が、いわば原型なんだ。そして、なにかの魔法で、原型のとおりの、生きた人間をつくりだすのだ。
つまり、ほんとうのぼくと、人形とにせもののぼくと、三人のぼくがいるわけだな。」
小林君は、そう考えて、ひとり、うなずくのでした。