そして、日がくれ、だんだん夜がふけていきました。
夜の十時に、園田さんに電話がかかってきました。
「わしがだれだか、いわなくても、わかっているじゃろう。うん、そのとおり、わしはニコラ博士じゃ。きみのダイヤモンドは、明智小五郎が見はりをしているね。いい人をたのんだものじゃ。なにしろ日本一の名探偵じゃからなあ。
だが、だいじょうぶかね。わしは魔法つかいじゃよ。もうとっくにダイヤモンドを、ぬすんでしまったかもしれないぜ。え、どうだね、心配ではないかね。ウフフフフ、ほうら、見たまえ、きみは声がふるえている。心配になってきた。
ダイヤモンドは、かくし場所にあるだろうか。いや、ないのだ。あのかくし場所は、からっぽだ。うそだと思うなら、いますぐ、あそこへいって、しらべてみるがいい。ウフフフフ……。」
そして、ガチャンと電話がきれました。
園田さんは、受話器をおいたまま、まっさおになって、その場に立ちすくんでいましたが、庭の持仏堂へいってみないでは、どうにも安心ができません。
懐中電灯をもって、えんがわから庭げたをはいて、あの黄金仏のお堂の前にかけつけました。
「明智先生、明智先生はいませんか。」
大きな声でよびますと、お堂のそばのしげみの中から明智探偵と小林少年が出てきました。ちょうど月夜で、そのへんは昼のように明るいのです。
「どうなすったのです。なにかあったのですか。こちらは、べつにかわったこともありませんが。」
明智ののんきなことばに、園田さんははらだたしげに、どなりつけました。
「ニコラ博士が電話をかけてきたのです。そして、ダイヤは、とっくにぬすんでしまったというのです。明智さん、しらべてください。ダイヤがかくし場所にあるかないか、しらべてみてください。」
「そんなばかなことがあるものですか。ぼくはお堂の入口をずっと見はっていました。お堂のとびらは、一度もひらかなかったのです。だから、ダイヤをぬすみだせるはずがありません。」
「ともかく、しらべてみましょう。いっしょにきてください。」
園田さんは、いいすてて、お堂のとびらをひらくと、その中へとびこんでいきます。しかたがないので、明智探偵と小林少年も、そのあとからついていきました。
園田さんは仏像のうしろへまわると、かくしボタンをおして、秘密のふたをひらき、もうひとつのボタンをおして、鉄のツメがとびださないようにしておいて、穴の中へ手をいれました。
「あっ、ない。なくなっている。明智さん、この中はからっぽですよ。」
明智探偵をしかりつけるように、さけびました。
「おかしいですね。ニコラ博士は、このかくし場所を、知らないはずじゃありませんか。それをどうして……。」
「だから、はじめから、もうしあげておきました。あいつは魔法つかいです。どんなことだってできるのです。それをふせいでくださるのが、あなたの役目ではありませんか。しかも、あんなにかたく、おひきうけになったではありませんか。」
園田さんに、つめよられて、明智探偵はタジタジとあとじさりをしていました。
そのときです。じつにふしぎなことがおこりました。とびらをひらいたままになっているお堂の入口に、みょうな人間が立っていたのです。
銀色の月の光が、横のほうから、その人の顔の半分を、てらしていました。
園田さんも、明智探偵も、その顔を見ると、あっとさけんだまま、立ちすくんでしまいました。
その人は懐中電灯を持っていました。その光をこちらにむけながら、ゆっくりとお堂の中へはいってきます。
こちらの三人は、思わずあとじさりをしながら、園田さんの懐中電灯は、しぜんに、そのふしぎな人間の顔をてらしました。
あいての懐中電灯は、明智探偵の顔をてらしています。
人間の倍もある金色の仏像の前に、おたがいに懐中電灯でてらされた二つの顔が、まっ正面にむきあっていました。
おお、ごらんなさい。その二つの顔は、まるで鏡にうつしたように、そっくりおなじではありませんか。
そうです。明智探偵がふたりになったのです。どちらかが、ほんもので、どちらかが、にせものにちがいありませんが、その見わけが、まったくつかないのです。
「ワハハハハ……、にせものの明智君、うまくばけたね。しかし、きみはニコラ博士の手下だ。ダイヤモンドをまもるのではなくて、それをぬすむためにやってきたのだ。そして、きみはもうぬすんでしまったのだ。」
あとからきたほうの明智が、そういって、カラカラと笑いました。
しかし、前からいる明智も、けっしてまけてはいません。
「なにをばかな。きみこそにせものだ。いまごろになって、ノコノコやってきたのが、にせもののしょうこじゃないか。
だが、うたがうなら、ぼくのからだをさがしてみるがいい。あんな大きなダイヤだから、ぼくが持っていれば、すぐにわかるはずだ。」
それをきくと、小林少年が、お堂の入口へかけていって、用意していた、呼び子の笛をとりだすと、ピリピリピリリリリリリ……と、はげしくふきならしました。
この小林少年は、ほんものなのでしょうか、それとも、にせものなのでしょうか。読者諸君は、もうおわかりになっているでしょうね。
それはともかく、呼び子の音に、庭のあちこちにかくれていた十人の少年探偵団員が、大いそぎでかけつけてきました。
少年たちはお堂の入口にむらがって、中をのぞきこみましたが、明智先生がふたりいるのを見ると、ギョッとして、ものもいえなくなってしまいました。
「やあ、少年探偵団の諸君だね。ここにいるぼくとそっくりのやつは、にせものだ。こいつは大きなダイヤモンドをぬすんだのだ。きみたちみんなで、こいつのからだをしらべてくれたまえ。どこかにかくしているにちがいないのだから。」
あとからきた明智がいいますと、さきにきていた明智もまけないで、少年たちに声をかけました。
「やあ、きみたち、ゆだんをしてはいけないぞ。いましゃべったやつが、にせもので、ニコラ博士の手下だよ。
しかし、ぼくのからだをさがすなら、さがしてもよろしい。ぼくはぬすみなんか、ぜったいにしていないのだから。」