「やっ、さては、きさま、ほんとうの小林だな。いつのまに、いれかわったのだ。」
にせ明智は、おさえつけられたまま、わめきました。
「ハハハハハ、はじめから、いれかわっていたのさ。にせの小林は、ぼくのかわりに、地下室の牢屋にはいっているよ。ぼくが、ほんとうの明智先生をとらえる手だすけをしたのは、きみたちを、ゆだんさせるためだったのさ。」
小林君は、笑いながら、種あかしをしました。
「ちくしょうめ、こわっぱめに、はかられたのかっ。」
にせ明智は、さもくやしそうに、つぶやきましたが、そのあとから、かれの顔に、うすきみのわるい笑いがうかんできました。
「ウフフフフ、きみたち、それで、勝ったつもりでいるのかね。ウフフフフ、そうはいくまいぜ。こっちには、おくの手があるんだからね。
おい、おれのはらを、おさえているぼうや、右のポケットにさわってごらん。写真機みたいなものが、はいっているだろう。
それを、なんだと思うね。世界でいちばん小さい無電機だよ。さっきからスイッチはいれたままになっているから、ここで、みんなのしゃべったことは、すっかりニコラ博士の無電機にはいっている。
さあ、そうすると、どういうことになるだろうね。いまに、おそろしいことがおこるだろうから、用心するがいいぜ。」
ただのおどかしではなさそうです。小林君は、にせ明智のポケットから、写真機のようなものを、とりだしました。たしかに小型無線機のようです。スイッチをはずして、音がつたわらないようにして、じぶんのポケットにいれました。
「きみたち、そいつの手と足を、グルグルまきにしばって、身動きできないようにするんだ。みんな、ほそびきを、腰にまいているだろう。それでしばるんだ。」
小林君の命令で、十人の少年のうちの三人が、腰のほそびきをといて、にせ明智を、げんじゅうに、しばりあげてしまいました。
そのとき、持仏堂の入口から、ほんものの明智探偵が、はいってきました。いつのまにか、外へ出て、どこかへ行ってきたらしいのです。
「いや、感心、感心、さすがに小林君だ。よくやった。」
明智探偵はニコニコしながら、小林少年をほめたたえるのでした。
「ウフフフフ……。」
しばられて、お堂の入口にころがっている、にせの明智が、また、うすきみわるく笑いました。
「ニコラ博士は、あんがい、近くにいるのだ。もうやってくるじぶんだぜ。どんな姿で、やってくるか、きもをつぶさぬ用心をするがいい、ウフフフフ……。」
そのときです。お堂の外から「ウオーッ。」という、ものすごいうなり声が、ひびいてきました。明智探偵と小林少年は、お堂の外に、とびだしてみました。
月がてりかがやいて、そのへんは、昼のように明るいのです。それに、広い庭には、森のように木のしげったところがあります。
その中は、月がさしこまないので、まっくらです。
そのときです。チカッと金色に光るものが見えました。
そしてまた、「ウオーッ。」という、おそろしい、うなり声です。
「先生、さっき、お話した金色のトラです……。今夜は、きっと、あらわれるだろうと、思っていました。」
小林君が、そういっているうちに、黄金のトラは全身をあらわして、こちらへノソノソ歩いてきます。
人間が四つんばいになったほどの、でっかいトラです。そして、そのからだは、金色にピカピカ光っているのです。
「ウオーッ。」
こちらをむいて、大きな口をガッとひらきました。白いするどい牙がニュッとつきだし、口の中はもえるように、まっかです。二つのまんまるな目はリンのように青く光っています。
さすがの明智探偵も、小林少年も、それを見ると、思わず、たちすくんでしまいました。
すると、黄金のトラは、ゆうゆうと、森の外に出てきました。月の光をあびて、全身が美しく光りかがやいています。
小林君のうしろにいた十人の少年たちは、「ワーッ。」といって、にげだしました。
トラは少年たちには目もくれず、パッとひととびで、お堂の入口にちかづきました。その速さ! まるで金色のにじが立ったように見えました。
トラはお堂の中にはいると、そこにころがされている、にせ明智のそばによって口とまえ足をつかって、ほそびきを、ほどこうとしました。
それを見ると、明智探偵が、小林君の耳に、なにかささやきました。
小林君は、うなずいて、ポケットからピストルをとりだしました。にせ小林になりすまして、自動車の中で、明智にさしむけた、あのピストルが、まだポケットにはいっていたのです。
「こらっ、やめろっ。でないと、ピストルをぶっぱなすぞ。」
小林君は、まるで、あいてが人間ででもあるように、どなりつけました。
すると、ふしぎなことが、おこったのです。トラが、人間のように、まえ足を上にあげて、「かんべんしてください。」といわぬばかりに、あとじさりをはじめたではありませんか。
「あっ、そいつもにせものだ。ほんとうのトラでなくて、人間がトラの皮をかぶっているのだ。みんな、こいつをやっつけてしまえ。皮をはいでしまえっ。」
小林君がさけびますと、にげだしていた少年たちが、もどってきました。
「それっ、やっつけるんだ。」
小林君が、まっさきに、トラにとびついていきました。十人の少年たちも、四方からトラのからだに、くみつき、「エイ、エイ。」とかけ声をして、とうとう、トラをそこにたおしてしまいました。
「あっ、やっぱりそうだっ。ここにチャックがある。」
小林君が、それをグーッとひっぱりますと、トラのはらがさけて、中に人間がはいっていることがわかりました。黒いシャツをきた大きな男です。
「みんな、こいつもしばってしまえ。」
十人の少年たちは、すっかりトラの皮をはいで、黒シャツの男を、グルグルまきに、しばってしまいました。
トラ男は、小林君のさしむけるピストルを見て、うっかり手をあげたのが、しっぱいでした。それで人間だということがわかってしまったのです。
そのときです。またしても、むこうの木のしげみの中から、「ウオーッ、ウオーッ。」という、おそろしいうなり声が、ひびいてきました。そして、チラッ、チラッと金色のものが、見えたりかくれたりしています。