名探偵とニコラ博士は、ヒノキの枝の上で、にらみあいました。
「きみは、この木のてっぺんから、スーパーマンのように、とびたつつもりだったろうが、そのとび道具のプロペラは、ぼくがこわしてしまった。きみはもう超人の力をうしなったのだ。」
明智が一段上の木の枝から、ニコラ博士を見おろして、とどめをさすように、いいました。
ニコラ博士は、ポケットにいれていた二梃のピストルも、さっき明智にとりあげられてしまったので、もうどうすることもできません。上の枝には明智がいるのですから、にげるなら、下におりるほかはないのです。
博士は、いきなり、木をすべりおちるように、下へにげます。明智はそのあとをおいながら、大声にさけびました。
「おーい、小林君、少年探偵団の諸君。ニコラ博士は、木をおりていく。ピストルはぼくがとりあげてしまったから、だいじょうぶだ。みんなで、つかまえてくれたまえ。」
すると、下にまちかまえていた小林少年が、ポケットから、呼び子の笛をとりだして、ピリピリピリ……と、ふきならしました。
それをきくと、四方ににげちっていた少年たちが、小林君のそばに、かけもどってきました。
「ニコラ博士は、もうピストルを持っていない。みんなで、つかまえるんだっ。」
そうさけんでいるところに、すぐ目の前のヒノキのみきを、サーッとすべりおりてくるニコラ博士の姿が見えました。
「それっ。」というので、少年たちはとびかかっていきます。
おそろしい格闘がはじまりました。ニコラ博士は、若者のような力があります。くみついていく少年たちは、かたっぱしから、投げとばされました。
しかし、投げられても、投げられても、またくみついていく少年たち。こちらは小林少年をいれて十一人です。いくら博士が強くても、だんだん、旗色がわるくなってきました。
しかし、ニコラ博士にはおくの手があったのです。
博士は、少年たちのうちで、いちばんよわそうなひとりを、いきなり、うしろから、だきかかえると、少年の首に、腕をまきつけて、のどをしめました。
「やい、こわっぱども。おれにてむかいすると、この子どもを、しめ殺してしまうぞっ。さあ、どうだ。これでもか。」
小林君の懐中電灯が、そのありさまをてらしだしました。
つかまっている少年は、息がつまって、まっかな顔をして、目を白黒させています。このまま、ほうっておいたら殺されてしまうかもしれません。
小林君はポケットをさぐりました。そこには二梃のピストルがはいっています。さっき、木の上から、明智探偵が投げおとしたニコラ博士のピストルを、ひろっておいたのです。
「ニコラ博士、その手をはなせっ。でないと、これだぞっ。」
小林君は、右手で一梃のピストルをかまえて、左手の懐中電灯の光を、それにあててみせました。
そのとき、くらやみの中から、明智探偵の力強い声がひびいてきました。探偵もヒノキからおりて、さっきから、格闘のようすをながめていたのです。
「二十面相君、きみは人殺しはしないはずだったね。」
ふいをつかれて、ニコラ博士は、おもわず、少年をつかまえていた手をはなしました。そして、おどろきのために、とびだすほど、見ひらいた目で、やみの中をみつめました。ニコラ博士の顔は、明智の懐中電灯でてらされていましたが、明智の姿は、やみにかくれて、すこしも見えないのです。
「ハハハハハ……、とうとう白状したな。いまのようすで、きみが二十面相であることは、もうまちがいない。背中につけて、空をとぶ豆ヘリコプターを持っているのは、二十面相のほかにはない。ぼくはそれを、まえに見たことがあるので、よく知っているのだ。このヒノキのてっぺんに、かくしてあったのは、それとおなじものだった。
ぼくはさいしょから、ニコラ博士は二十面相にちがいないと思っていた。宝石や美術品ばかりねらうのは、いかにも二十面相らしいし、小林君や少年探偵団員を、ひどいめにあわせて、よろこんでいるのは、二十面相の復讐としか考えられないからね。そこへもってきて、小林君が、にせ小林になりすまして、きみの秘密を、みんなきいてしまったのだよ。ハハハハ……、二十面相君、しばらくだったねえ。」
「ワハハハハ……。」
ニコラ博士は、明智よりも、もっと大きな声で笑いとばしました。
「明智君、きみももうろくしたな。てごわいあいてにでくわすと、みんな二十面相にしてしまう。わしはドイツ生まれの百十四歳のニコラ博士だ。人ちがいをしてもらってはこまるよ。」
そのとき、やみの中から、パッととびだしてきたものがあります。明智探偵です。探偵は、いきなり、ニコラ博士にちかづくと、博士の長い白ひげと、しらがのかつらを、力まかせに、はぎとってしまいました。その下からあらわれたのは、黒いかみの毛の、わかわかしい顔でした。
こうなっては、もう百十四歳の老人などといいはることはできません。
「ハハハハ……、さすがは明智君だ。とうとうニコラ博士の魔法をやぶってしまったねえ。だが、おれはまだまけたわけではないぜ。いつもいうように、おれはどんなときでも、さいごのおくの手が、のこしてあるのだ。」
そういったかと思うと、ポケットから小さな写真機のようなものをとりだして、口の前に持っていきました。
「こちらニコラ。こちらニコラ。さいごの手段だっ。わかったか。よしよし、わかったね。」
それは小型の無線電話機でした。はなしかけたあいては、ニコラ博士の、れいのすみかに、るす番をしている部下のものにちがいありません。
二十面相は、にくにくしげな笑い顔で、明智探偵にむきなおりました。
「わかるかね。さいごの手段とは、なんだと思う。爆発だっ。なにもかも、こなみじんになって、ふっとんでしまうのだ。おれの地下室の牢屋には、宝石王玉村一家のものと、白井美術店の人たちが、とじこめてある。おれに自由をあたえなければ、それらの人たちが、みな殺しになってしまうのだ。おれは人殺しは大きらいだ。しかし、おれの自由にはかえられない。おれに人殺しをさせるのも、明智君、みんなきみのせいだぞっ。」
「アハハハハ……。」