ニコラ博士のすみかにつくと、中村警部とその部下たちは、うらおもてから建物にふみこみ、そこにいた賊の手下どもを、すっかりとらえてしまいました。
それから、二十面相を、地下室の牢屋の一つにとじこめ、見はりの刑事をつけておいて、べつの牢屋にいれられていた、玉村家と白井家の人たちをたすけだし、牢屋にのこっていた、にせの小林少年は、ひきだして、手錠をはめてしまいました。
「これで、二十面相とその部下のしまつはついたが、まだ一つだけ、のこっていることがある。それは、この地下室のいちばんおくにかくれている、一寸法師の医学者の尋問だ。まったくおなじ人間を、いくらでもつくりだす、あの医学者の秘密を、あきらかにしなければならない。小林君、そこに案内してくれたまえ。」
みんなは、小林少年のあとについて、部屋ぜんたいのエレベーターで地下二階におり、ロッカーのような人形箱のならんでいる廊下をとおりすぎて、あの、まぶしいほどあかるい機械室にはいっていきました。
すると、たちならぶ、めずらしい機械のおくから、まるでビックリ箱をとびだすように、あの頭をまるぼうずにした一寸法師が、ピョコンと、姿をあらわしました。
小林少年は、ツカツカとそのそばにちかづいて、
「先生、ぼくをおぼえていらっしゃるでしょう?」
と、声をかけました。
「おお、おぼえているとも、わしのかわいいむすこじゃもんなあ。」
一寸法師はニヤニヤ笑っています。
「えっ、むすこですって?」
「おお、むすこじゃとも、わしのつくった人間は、千人、万人、十万人、みんなわしのかわいいむすこじゃよ。
ところで、きみたち、おおぜいで、きょうは、なにかあるのかね。あっ、そうだ。お祝いのパーティーだったね。シャンパンをぬくんだね。おーい、ボーイども、シャンパンだ。十本、二十本、いや、まだたりない。五十本、百本、いくらでも持ってこい。そして、けいきよくポンポンぬくんだ。おーい、ボーイどもはいないのか。ボーイ、ボーイ……。」
こんなところにボーイなどいるはずがありません。シャンパンなどあるはずがないのです。一寸法師は、このまえ、小林君があったときから、気ちがいめいていましたが、今夜はもっとひどいようです。
「先生、そんなことよりも、このあいだ、ぼくにおしえてくださったように、そっくりおなじ人間をつくり出す方法を、みなさんに話してあげてください。このかたは警視庁捜査課の中村警部さんです。それから、こちらは、ぼくの先生の明智探偵です。今夜はみんなで、あなたのお話をききにきたのですよ。」
「おお、きみが名探偵明智小五郎君か。わしは、一度あいたいと思っていたよ。ちょうどいい。さあ、シャンパンをぬいて乾杯しよう。そして、きみとおどろう。バンド・マスター、うまくたのむぜ。」
そういったかと思うと、おどろいたことには、一寸法師は、いきなり、ひとりでダンスをはじめて、機械のあいだを、あちらこちらと、はねまわるのでした。
それを見て、明智探偵は、みんなに話しかけました。
「この人は、とうとう気がちがったようです。この人には、まえに小林君があったことがあるのです。そのときから、すこしおかしかったそうですが、それでも、人間改造術について、ながながと、小林君に演説してきかせたそうです。
ぼくはそれを、小林君からくわしくきいていますから、ここで、ごくかんたんに、その術についてお話しすることにしましょう。人間の顔をかえることは、眼科や耳鼻科で、今でも、あるていどは、やっているのです。
眼科では、ひとえまぶたを、ふたえまぶたにする手術は、てがるにできます。顔を美しくしたい若い女の人などが、よくその手術をうけています。
耳鼻科では、ゾウゲやそのほかの材料を、鼻の中に入れる手術で、鼻を高くすることができます。これも、おしゃれの男や女が、さかんにやってもらっているのです。
いまはやっているのは、目と鼻の手術ぐらいですが、やろうと思えば、人間のからだは、どこでも、そういう整形手術をほどこすことができるはずです。たとえば肩のはった人を、なで肩にするのには、肩の骨をけずればいいのだし、あごの形をかえるのにも、やはりあごの骨をけずればいいのです。そういう手術は、わけなくできるけれども、だれもそんなものずきなまねをしないだけのことです。それから、歯を総いれ歯にすれば、そのいれ歯のつくりかたで、口やほおの形を、どんなにでもかえることができます。また、やせたほおをふっくらさせるのには、薬品をほおに注射するというやりかたもあります。かみの毛のはえぎわや、まゆの形をかえるのには、脱毛術、植毛術があり、毛の色をかえるのも、ぞうさないことです。
それから、コンタクトレンズを、すこし大きくつくって、義眼のように黒目の絵をかけば、黒目を大きくも小さくもできるし、目の色をかえることだってわけはないのです。
この一寸法師の医学者は、医科大学にいるころに、人間改造術ということを考えつき、だれもやらないその術のために、一生をささげようと決心したのだそうです。
そして、眼科、歯科、耳鼻科、整形外科、皮膚科、美容術と、あらゆる方面にわたって研究をつづけ、ついに人間改造術というものをつくりあげてしまったのです。ところが、ふつうの人間は、顔かたちをかえることなど、考えるものではありません。もしそういうことを考えるものがあるとすれば、それは犯罪者です。警察に追われている犯罪者ならば、じぶんの顔を、まったくちがった顔にかえたくなるでしょう。
ですから、この一寸法師のお医者さんは、しぜんと悪人とつきあうようになり、さいごには、怪人二十面相の手下になってしまったのです。めざす宝石や美術品をもっている人の一家を、みんな、にせものにかえてしまうという思いきったやりかたは、おそらく二十面相が考えついたのでしょう。