銀一君のときは、白ひげのじいさんがあらわれ、光子さんのときは、人形みたいな顔の紳士があらわれて、どことも知れぬあやしい家へつれていき、そこの地下室に、とじこめてしまったのです。
玉村さんのうちには、にせの光子さんと銀一君が、ちゃんといるのですから、だれも、人間がいれかわったとは気がつきません。光子さんのにせものも、銀一君のにせものも、じつにうまく、ほんもののまねをしていたのです。
ところが、たったひとり、にせの銀一君をうたがっている少年がありました。
それは、いつか銀一君がスリをはたらくところをみつけた、松井少年です。銀一君の同級生の松井君です。
松井君は、玉村銀一君とそっくりの少年が、もうひとりいることを、知っていました。もしその少年が、銀一君といれかわったら、どうなるだろうと思うと、なんだかおそろしくなってきました。
ある日、松井君は、休みの時間に、学校の運動場を、玉村銀一君と、肩をならべて歩いていました。
「ねえ、玉村君、きみ、ほんとうに玉村君だろうね。」
松井君がみょうなことをいいました。
「なにをいってるんだ。ぼくは玉村だよ。どうして、そんなことをきくんだい。」
銀一君は、おこったような顔をしました。
「きみ、それじゃあ、少年探偵団のバッジをもってるかい?」
「きょうはもってないよ。うちにあるよ。」
松井君も玉村君も、少年探偵団員でした。団員はB・Dバッジを二十個以上、いつもポケットに入れていなければならない規則です。悪者につれていかれるようなとき、道にばらまいて、いくさきを知らせるためです。玉村君はその規則を知らないのでしょうか。
「じゃあ、七つ道具は?」
「えっ、七つ道具って?」
少年探偵団の七つ道具は、①B・Dバッジ ②万年筆型の懐中電灯 ③呼び子の笛 ④虫めがね ⑤小型望遠鏡 ⑥磁石 ⑦手帳と鉛筆です。
「それももってないんだね。」
「うん。きょうはもってないよ。」
「じゃあ、なにとなにだかいってごらん。」
玉村君は、きゅうには答えられないで、しばらく考えていましたが、やがて、どもりながら、こんなことをいうのです。
「B・Dバッジ、それから懐中電灯、えーと、それから、オモチャのピストル、とびだしナイフ、えーとそれから……。」
そこで、いきづまってしまいました。玉村君は、七つ道具を知らないのです。松井君はさらに聞きました。
「じゃあね、七つ道具のほかに、団長と中学生の団員だけがもっている道具があるんだよ。なんだか知ってる?」
玉村君は、口をもぐもぐさせていますが、答えることができません。知らないらしいのです。
「縄ばしごだよ。」
松井君がおしえますと、玉村君は、いかにも知ったかぶりに、
「そうだよ。縄ばしごだよ。二本の縄に、足をかける木の棒が、たくさんくくりつけてある。」
「ちがうよ。黒いきぬ糸を、よりあわせたひもだよ。二本じゃない。一本きりだよ。そのきぬひもに、三十センチおきに、足の指をかける、むすび玉がついているんだよ。」
「あっ、そうだ。ぼく、うっかりしてたよ。黒いきぬ糸だったねえ。」
玉村君はそういって、ごまかそうとしましたが、ほんとうは、なにも知らないことが、わかりました。
松井君は、いよいよ、こいつはにせものにちがいないと思いました。その場は、なにげなくわかれて、その日、学校がひけてから、明智探偵事務所の小林少年をたずねました。
明智先生は北海道に事件があって、旅行中でした。小林少年は、少女助手のマユミさんとふたりで、るす番をしていました。
小林君は、少年探偵団長です。すぐに松井君を応接室にとおして、話をききました。
松井君は、お祭りの日に、玉村銀一君とそっくりの少年を見たことから、きょう学校でのできごとまで、すっかり話しました。
「だから、ひょっとすると、玉村君は、にせものといれかわっているんじゃないかと思うのです。そんなによくにた人間がいるなんて、ふしぎでしょうがないけれど、ほんとうなんです。ぼくは、そいつがスリをはたらいているところを、ちゃんと見たんですからね。」
「へんな話だねえ。ふたごでもないのに、そっくりの人間が、ふたりいるなんて、ちょっと、考えられないことだねえ。」
さすがの小林少年も、こんな話をきくのは、はじめてでした。
「だから、ふしぎなんですよ。しかし、たしかに、ふたご以上に、よくにたやつがいるんです。そいつが、玉村君のまわりに、ウロウロしていたんですからね。ぼくはどうもあやしいと思うんです。バッジももっていないし、七つ道具のことも知らないのは、ほんとうの玉村君でないしょうこですよ。」
「なにか、たくらんでいるのかもしれないね。」
「玉村君のおとうさんは、宝石王でしょう。宝石を手に入れるための陰謀かもしれません。玉村君のおとうさんに、このことを知らせてあげなくてもいいでしょうか。」
「うん、そうだね。明智先生がいらっしゃるといいんだが、一週間ぐらいはお帰りにならない。しかし、きみの話だと、ほってもおけないようだから、ぼくが玉村君のおとうさんにあって、このことをお話ししておいたほうがいいかもしれないね。」
「ええ、ぼくもそう思うんです。にせものといれかわった玉村君が、どこかで、ひどいめにあっていると、たいへんですからね。」
「じゃあ、電話をかけて、玉村さんのつごうを聞いてみよう。いまは銀座の店におられるだろうね。店をたずねるのがいい。すまいのほうにはにせの銀一君がいるんだからね。」
そこで、小林君が電話をかけますと、玉村銀之助さんは、ちょうど店にいて、電話口に出ました。
玉村さんは小林君をよく知っていました。名探偵明智小五郎の少年助手として、たびたびてがらをたてて、新聞にのるものですから、小林少年の名を知らない人はありません。ことに玉村銀一君は少年探偵団員なので、その団長の小林君には、おとうさんも、したしみをかんじていたのです。
「うちの銀一が、いつもおせわになります。」
玉村さんは、電話口で、そんなあいさつをするのでした。
「その銀一君のことで、至急にお話ししたいことがあるのです。これからお店のほうに、おじゃましていいでしょうか。」