← Library‹ 鉄人Q モーターボート

ポケット小僧こぞうは、小林こばやし少年しょうねんの耳みみに口くちをつけるようにして、ささやきました。

「鉄人てつじんQと人形にんぎょうじいさんは、秘密ひみつの通路つうろから川かわの方ほうへおりていったにちがいないよ。この西洋せいよう館かんの下したには川かわの水みずがはいりこんでいるんだぜ。だから、そこに船ふねがつないであって、あいつらは、船ふねに乗のって逃にげるかもしれないよ。」

「あっ、そうだね。いいことを教おしえてくれた。すぐ中村なかむらさんに話はなして、その方かたの見みはりをすることにしよう。」

小林こばやし少年しょうねんはそういって、向むこうに立たっている中村なかむら警部けいぶのところへ、かけだしていきました。そして、ポケット小僧こぞうの話はなしを、くりかえすのでした。

「よしっ、それなら、西洋せいよう館かんの裏うらの川かわっぷちの見みはりをふやそう。それから水上すいじょう警察けいさつに頼たのんで、ランチをまわしてもらうんだ。」

中村なかむら警部けいぶは、そばにいた警官けいかんにそれぞれさしずをしました。すると、三さん人にんの警官けいかんが裏手うらての川かわっぷちへいそぎ、もうひとりの警官けいかんは近ちかくにいるパトロールカーのそばへとんでいって、無電むでんで警視けいし庁ちょうへ連絡れんらくし、水上すいじょう警察けいさつに、ランチのことをつたえてもらいました。

「さあ、われわれは川かわっぷちで、ランチの来くるのを待まつことにしよう。」

中村なかむら警部けいぶと小林こばやし少年しょうねんとポケット小僧こぞうは、門もんを出でて、西洋せいよう館かんの並ならびにある川かわの荷にあげ場ばへいそぎました。

「さっき、鉄人てつじんQはここから、ザブザブと、川かわの中なかへはいっていったんだよ。」

ポケット小僧こぞうは、石いしの段々だんだんを、まっくらな川かわの方ほうへおりながら、説明せつめいするのでした。

すると、そのときです。

「ピリピリピリリリリリリリ……。」

西洋せいよう館かんの裏手うらてから、するどい笛ふえの音おとが聞きこえてきました。警官けいかんたちが吹ふきならす、合図あいずのよびこです。

――さては……。

と、くらやみの川かわをじっと見みつめますと、一いっそうのモーターボートが、へさきで白しろい水みずを切きって、向むこうへ遠とおざかっていくのが、かすかに見みえました。モーターボートは、あかりを一ひとつもつけておりません。人目ひとめをしのぶ鉄人てつじんQのボートにちがいないのです。

水上すいじょう警察けいさつのランチは、どうしたのでしょう。モーターボートは、みるみる向むこうへ遠とおざかっていきます。おそろしいスピードです。ぐずぐずしていたら、見失みうしなってしまいます。中村なかむら警部けいぶと小林こばやし少年しょうねんは、石段いしだんを水みずぎわまでおりて、川上かわかみの方ほうを見みつめました。

「あっ、あすこから来きたっ。あのあかるいライトをつけたランチが、そうにちがいない。おうい、ここだぞう。」

中村なかむら警部けいぶは、おどりあがるようにして、そのランチに呼よびかけるのでした。

パトロールカーのおまわりさんは小型こがたのサーチライトをこちらに向むけて、中村なかむら警部けいぶたちをてらしだしました。ランチの方ほうでも、それと察さっして、荷にあげ場ばへ近ちかづいてきました。それはやっぱり、水上すいじょう警察けいさつのランチでした。

中村なかむら警部けいぶと小林こばやし少年しょうねんとポケット小僧こぞうは、水上すいじょう警察けいさつのランチに乗のりこみました。ランチには水上すいじょう署しょの六ろく人にんのおまわりさんが乗のっています。

「鉄人てつじんQとじいさんが、モーターボートで逃にげたのだ。もう二百にひゃくメートルも川かわをくだっている。サーチライトをつけてください。」

中村なかむら警部けいぶのことばに、おまわりさんはいそいで、サーチライトのスイッチを入いれました。

サーッと、白しろい光ひかりの棒ぼうが、くらやみを切きって走はしりました。

「あっ、小ちいさく見みえる。あれだ、あれが鉄人てつじんQのモーターボートだ。全ぜん速力そくりょくを出だしてください。あれに追おいついてください。」

いくら、モーターボートが早はやいといっても、警察けいさつのランチにはかないません。ふたつの船ふねのへだたりは、みるみるちぢまっていきました。

ランチには、双眼そうがん鏡きょうがそなえてあったので、中村なかむら警部けいぶは、それを目めに当あてました。

「あっ、鉄人てつじんQがボートの上うえに立たちはだかっている。たしかに、あのきみの悪わるい鉄てつの顔かおだ。ああ、もうこれ以上いじょう、速力そくりょくが出でないのか。何なんをぐずぐずしているんだ。」

と、じだんだをふまんばかりです。

そのとき、ボートとランチの間あいだは、ぐっとちぢまりました。なぜか、モーターボートが速力そくりょくを落おとしたからです。

もう双眼そうがん鏡きょうでなくても、鉄人てつじんQの姿すがたがよく見みえます。かれはサーチライトの光ひかりを受うけて、ボートの中なかに立たちあがり、右手みぎてを顔かおの前まえにひろげて、指ゆびをへらへらと動うごかしています。

「やあい、ざまをみろ。」

と、こちらをからかっているのです。

「ちくしょうめ、いまにみろ。」

中村なかむら警部けいぶが、くやしそうに叫さけびながら、手てをふって、おどかすようなかっこうをしました。

「ワハハハハハハハ……。」

かすかに、鉄人てつじんQの笑わらい声ごえがひびいてきました。そして敵てきのボートは、また、にわかに速力そくりょくをましたのです。間あいだが、みるみる遠とおざかって、モーターボートは、サーチライトの光ひかりの外そとへ逃にげだしてしまいました。

そうしてまた、二にそうの船ふねの競走きょうそうがつづきましたが、しばらくするとなんだかへんなことがおこりました。あんなに離はなれていたモーターボートが、またしても、ぐんぐんこちらへ近ちかづいてくるではありませんか。

「あっ、エンジンをとめてしまって、流ながれにまかせている。機械きかいにこしょうがおこったのかな。」

中村なかむら警部けいぶがふしんそうに、つぶやきました。

ごらんなさい。ボートの中なかに立たちはだかった鉄人てつじんQ、その横よこに、うずくまっているじいさんの姿すがた。二人ふたりは、エンジンがとまってもべつにさわぐようすもなく落おちつきはらっているではありませんか。

ランチはたちまち、モーターボートに近ちかづきました。そして船ふねと船ふねとがくっつくと、ふたりのおまわりさんが、ピストルをかまえて、ボートの中なかへ乗のりこんでいきました。

しかし、ボートのふたりは、手向てむかいもしなければ、逃にげようともせず、じっとしています。いったい、どうしたというのでしょう。

すると、また、へんなことがおこったのです。おまわりさんたちは、鉄人てつじんQとじいさんのからだを、さもかるがると持もちあげて、グルグルふりまわしているではありませんか。

「あっ、どうしたんだ。それは服ふくばかりじゃないか。」

こちらから、中村なかむら警部けいぶがどなりました。

「ボートの中なかに棒ぼうを立たて、服ふくと仮面かめんが引ひっかけてあったんです。ボートには、だれもいません。」

おまわりさんが、大おおきな声こえで答こたえました。

「それじゃあ、ふたりとも水みずの中なかにとびこんで、逃にげてしまったんだな。」

中村なかむら警部けいぶは、がっかりしていいました。鉄人てつじんQたちは、さっきサーチライトの外そとへ逃にげたとき、服ふくをぬいで、こんなしかけをしておいて、水みずの中なかへとびこんでしまったのにちがいありません。

それから一いち晩ばん、川筋かわすじのそうさくをつづけましたが、どうしても、ふたりを見みつけだすことはできませんでした。

鉄人てつじんQと人形にんぎょうじいさんは、いったい、どこへ逃にげたのでしょうか。そして、このつぎには、どこで、どんなおそろしいことを、たくらむのでしょうか。

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