二少年は、あまりのおそろしさに、思わずあとずさりをしたので、窓の外においてあった、ふみだいの木の箱から、足をふみはずしてしまいました。
ころびそうになるのを、やっと、ふみこたえましたが、すると、そのとき、まっくらな庭の、うしろの方から、ケラケラケラという、ぶきみな笑い声が、聞こえてきました。
はっとして、ふりむきますと、そこのやみの中に、小さなおばけが立っていたではありませんか。
窓からもれてくる、かすかな光で、そのおばけが、ぼんやりと見えています。
そいつは、少女の一つ目小僧でした。まっ白な大きな顔の、額のまん中に、目が一つしかないのです。そして、まっかなくちびるをひらいて、ケラケラと笑っているのです。
そのおばけには、足がないように見えました。ちんちくりんの、まっかなワンピースを着ていてパッとひらいたスカートの下に、なんにもないのです。一つ目の顔と、ワンピースだけが、宙に浮いているのです。
二少年は、
「ワーッ。」
と叫んで、逃げだそうとしました。すると、おばけが、
「逃げなくてもいいわよ。話があるのよ。」
と、呼びとめました。かわいらしい少女の声です。声は少しもおばけらしくありません。
二少年は、立ちどまって、ふりむきました。すると、ちんちくりんのスカートの下に、まっ黒な長い足がついていることがわかりました。黒い靴下をはいているので、やみにとけこんで、ちょっと見たのでは、わからなかったのです。
「びっくりしなくってもいいわよ。あたし、おばけじゃないのよ。三千代ちゃんというのよ。」
少女は、ほがらかな声でいって、かぶっていた、はりこの頭を、両手で、スッポリと、ぬいでみせました。
すると、その下から、目の二つある、ふつうの少女の顔が、現われたではありませんか。
「なあんだ、きみ、一つ目小僧じゃなかったのかい。」
中井君が、安心したように、いいました。
「ええ、おばけのまねをしていただけよ。」
「きみは、ここのうちの子かい。」
「そうじゃないわ。ロボットに、さらわれてきたのよ。」
「へえ、さらわれたの? ロボットって、鉄人Qのことだね。」
「名前は知らないわ。でも、鉄でできたロボットよ。」
ああ、鉄人Qは、またしても、こんな少女をさらってきたのでしょうか。まえには、村田ミドリちゃんという、かわいらしい少女をさらって、上野公園の五重の塔にかくれていたことがあります。こんどもまた、同じようにして、この少女をさらったのかもしれません。
「じゃあ、逃げればいいじゃないか。どうして、逃げないの?」
中井君がたずねますと、少女はまたケラケラと笑いました。
「逃げられないわ。あんたたちだって、逃げられないのよ。ほら、ごらんなさい。」
少女が、すぐうしろの、やみの中を、指さしました。
思わず、その方を見ますと、くらやみの中から、ボーッと、現われてきたものがあります。
そいつは、まっ四角な、大きな箱のような顔をしていました。胸も、腹も、まっ四角です。手や足は、四角な棒のようです。そいつが、ガクンガクンと、機械みたいな歩き方で、こちらへ、近づいてくるではありませんか。背の高さも、おとなよりずっと大きいのです。
それが一つだけではありません。二つ、三つ、四つと、やみの中から、つぎつぎと、おそろしい姿を現わしてくるのでした。
これこそロボットです。四角な顔、四角なからだをしたロボットです。
四つの大きなロボットが、やみの中から、現われて、二少年をとりまいてしまいました。
ロボットが足を動かすたびに、ギリギリ、ギリギリと、歯車の音がします。機械でできているらしいのです。
「ね、逃げられないでしょう。こいつらが、番をしているのよ。逃げようとすれば、ひどいめにあわされるわ。」
少女は、べつにこわがってもいないような、ほがらかな声で、いうのでした。
しかし、少年たちは、おそろしさに、ガタガタふるえて、ものもいえないのです。
「ここは、おもしろいうちよ。おばけの家なのよ。だから、あたしも一つ目小僧にされちゃったのよ。でも、こわいことはないわ。あたし、強い子だから、へいきよ。ここのうちにいるのが、たのしいくらいだわ。あんたたちも、きょうから、このうちに、いなければいけないのよ。そしておばけになるのよ。」
少女が、へんなことを、いいだしました。
「おばけになるんだって。」
中井君が、びっくりして、聞きかえします。
「そうよ。ここのうちには、おばけがウジャウジャいるのよ。あたしたちも、その仲間いりするんだわ。」
「きみは、へいきなんだね。だが、ぼくたちはいやだよ。おうちへ帰らないと、しかられるからね。」
「だって、帰ることはできないんですもの。あたしも、はじめは、帰ろうとしたの。でも、そうすると、ひどいめにあうのよ。おそろしいめにあうのよ。だから、あたしおばけになったの。おばけになれば、だれも何もしないで、おいしいごちそうを、たくさん食べさせてくれるのよ。」
少年たちは、少女のいうことが、よくわかりませんでした。おばけになれば、ごちそうが食べられるなんて、なにがなんだか、すこしもわけがわからないのです。
いくらごちそうが食べられたって、おばけの家に、とじこめられるのは、いやです。そのうえ、このうちには、あのおそろしい鉄人Qが住んでいるのですから、こんなうちにいるなんて、まっぴらごめんです。
中井少年と北見少年は、たがいに目くばせをして、サッと、逃げだそうとしました。
すると、少年たちをとりかこんでいた四つのロボットが、ギリギリと、歯車の音をさせながら、ぐうっと、近よってくるのです。
そのとき、四つのロボットの目が、まっかに光りだしたではありませんか。
ロボットの四角な顔に、ちゃわんのような大きな目が、まっかにかがやいているのです。その目でにらみつけながら、ギリギリと、近づいてくるのです。
少年たちは、あまりのこわさに、両手で目をふさいで、そこへうずくまってしまいました。
ロボットたちは、おそろしい力で、ふたりの少年の両手を、左右から引っぱって、どこかへ連れていくのです。少年たちは、目がくらんで、どこをどう歩いたのか、まるでわかりませんでした。