あたりは、まっくらです。まっくらな地の底へ、スーッと落ちていくのです。
ああ、わかりました。かがみの部屋の床が、下へ開くようになっていたのです。鉄人Qが、どこかのスイッチをおして、とつぜん、それを開いたのです。
かがみの部屋は、一階にあるのですから、その下は地下室です。それとも、井戸のような、深いあなかもしれません。
小林君もポケット小僧も、スーッとおちていきながら、もう死んでしまうのかと思いました。
ドシーン……。おしりが、ぶっつかりました。なんだかやわらかいものの上に、落ちたのです。べつにけがをしたようすもありません。
しばらく、そのままじっとしていますと、目がなれるにしたがって、あたりがぼんやりと見えてきました。
ふしぎ、ふしぎ。そこは、たくさん木のはえた森の中でした。落ちたのは、やわらかい草の上です。
「へんだなあ、こんな地の底に、森があるなんて。」
いよいよ、ゆめでも見ているような気持です。これも、おばけやしきの、しかけの一つなのでしょうか。
まわりには、いろいろな、ふとい木の幹が、立ちならんで、見とおしもきかないくらいです。頭の上には、木の葉がいっぱい茂っていて、いま落ちてきた、かがみの部屋が、どの辺にあるのか、すこしもわかりません。
「あらっ……?」
そのとき、ポケット小僧が、何を見たのか、びっくりしたような声を立てました。
「ね、あすこ、ほら、木の幹のあいだから、チラチラ見えるだろう。ね、赤い服をきた、一つ目小僧が……。」
ポケット小僧が、ささやきました。小林君も、その方を見て、
「あっ、ひょっとしたら、あれ、ここにとらえられている女の子かもしれないよ。さっき中井君が、そんなこといってたから。」
「あ、そうだね。じゃあ、小林さん、いいことがあるよ。」
すばしっこいポケット小僧は、なにかうまいことをおもいついたらしく、目を光らせて、小林君の耳に、ヒソヒソと、ささやくのでした。
「じゃあ、やってみたまえ。女の子をこわがらせないようにね。」
小林君がいいますと、ポケット小僧は、一つ目小僧の変装のまま、木の幹から、木の幹をつたうようにして、そっと、向こうの一つ目小僧のほうへ、近づいていきました。
それから、どんなことがあったのか、わかりませんが、しばらくすると、一つ目小僧が、小林君のそばへ、もどってきました。しかし、なにもいいません。だまって、小林君のそばに立っているばかりです。小林君の方でも、何もききません。ふたりとも、だまったまま、そこにじっとしていました。
やがて、向こうの方から、みょうな音が聞こえてきました。ザワザワと、風の吹くような、きみの悪い音です。直径一メートルもあるような、ふとい木が、草の中に、横倒しになっているように見えました。しかも、それが、動いているのです。
その大きな木は青ぐろい色をしていました。それが、草をザワザワいわせながら、こちらへ近づいてくるのです。
木が、ひとりで動くはずはありません。これは、いったいどうしたことでしょう。
あっ、その木のはしに、二つの大きな目がついていました。自動車のヘッドライトほどもある大きな目が、白く光るのではなくて、リンのように青くもえているのです。
それは、どんな動物園でも、見たことがないほど、おそろしく大きなニシキヘビでした。
ポケット小僧が、
「キャーッ。」
といって、小林君にしがみついてきました。
ガタガタふるえています。
いまの「キャーッ。」という声は、ポケット小僧にしては、ひどくかんだかい声でした。それにガタガタふるえているのも、いつも大胆な、ポケット小僧らしくありません。まるで人がかわってしまったようです。しかし、小林君は、べつに、あやしむようすもなく、「だいじょうぶだよ。」というように、一つ目小僧にばけたポケット小僧を、だきしめてやりました。
おそろしいニシキヘビは、だんだん、こちらへ近づいてきます。小林君たちは、思わず、ジリジリと、あとずさりをしました。
大ヘビが、かまくびをもたげて、青く光る目で、ふたりを、じっと見つめました。そして、まっかな口を、ガッと開いたのです。
ああ、その口。小林君たちふたりを、パクッと、ひとのみにできるような。大きな口です。その口の中が、まっかなのです。ギザギザのとがった歯が、ズーッとならび、ゾウのきばのような大きなきばが、ニューッと、二本はえています。
ペロペロ、ペロペロと、赤ぐろい、ほのおのような舌が、目にも見えない早さで、とびだしてきました。それが、小林君のほおを、なめたのです。ゾッとするほど、つめたい舌でした。
「ウヘヘヘヘヘ……。」
おそろしい、笑い声が、ヘビの口の中から、もれてきました。ニシキヘビが笑ったのでしょうか。
まっかな口が、小林君の目の前で、ガッと開いています。いまにも、のみこまれそうです。小林君は、思わず、その口の奥を見ました。そして、さすがの小林君も、あまりのおそろしさに、まっさおになってしまいました。
ヘビののどの奥に、みょうなものが見えたのです。なんとも、えたいのしれない、へんてこなものでした。
それは大きな白いまるいもので、そのまるいものに、目や、鼻や、口がついているのです。人間の顔に、似ています。
それでは、さっき笑ったのは、ヘビではなくて、ヘビののどの奥にいる、このへんなやつだったのでしょうか。
「ウヘヘヘヘ……。」
そうです。たしかに、のどの奥のやつが、笑っているのです。そいつの赤いくちびるが、笑ったかっこうになっています。
これはどうしたというのでしょう。笑っているやつは、この大ヘビにのまれたのでしょうか。しかし、それならば、のんきに笑っているはずはありません。ではこいつは、あまりのこわさに、気がちがってしまったのでしょうか。
小林君たちが、みいられたように、身動きもできなくなって、立ちすくんでいますと、その大蛇ののどの奥の怪物が、
「ウヘヘヘヘ……。」
と笑いながら、だんだん、こちらへ出てきたではありませんか。
そのときの、なんともいえないこわさを小林君は、一生わすれることができませんでした。