「こいつは人間じゃない! 歯車で動くロボットだぞ!」
少年たちが叫びました。たしかに、ロボットです。からだの中には何もなくて、歯車ばかりです。
「そいつはロボットだよ。しかし、さっきのやつは、ほんとうの人間がロボットにばけていたのだ。二十面相は、どこかにこのロボットをかくしておいて、いつのまにか、いれかわったのだよ。見ていたまえ。いまにほんものの方が出てくるから。」
明智探偵が自信ありげにいいました。
そのとき、いっぽうでは、明智探偵のいったとおりのことが、おこっていました。
二十面相の鉄人Qは、原っぱのはずれの林の中にある、大きなほらあなから、同じ姿のロボットをとりだして、少年たちの方へ歩かせておいて、自分はそのほらあなの中へ逃げこんでいったのです。
そのほらあなは、地下道で、二十面相のすみかへ通じていました。浅野行夫少年をゆうかいして、ここから自分のすみかへ連れこむつもりだったのです。
しかし、行夫少年は明智探偵にとりもどされてしまったので、いまは、自分ひとりで逃げこむほかはありません。
じめじめした、まっくらなほらあな。その中を、手さぐりで進んでいきました。そして、五メートルもはいった時です。二十面相はギョッとして立ちどまりました。
あなの奥のやみの中から、ギラギラ光る三つの目がこちらへ近づいてくるのです。三つ目の怪物です。
いや、怪物ではありません。どうやら、三人の人間が、トーチをてらしながらこちらへやってくるらしいことがわかりました。
「敵か? 味方か?」
二十面相は、じっと身がまえをして、待ちうけました。
ほらあなの向こうの二十面相のすみかには、たくさんの部下がいるのです。その部下が、トーチをてらして、迎えにきたのかもしれません。
三つのトーチのそばに、一つずつみょうなものがぼんやりと見えます。あっ! ピストルです! 三挺のピストルがこちらをねらっているのです。
「きさまたち、何者だっ!」
「アハハハハ……、びっくりしているな。ぼくたちは少年探偵団員だ。きみのすみかも、すっかりわかってしまった。警視庁の中村警部の一隊がふみこんで、きみの部下はみんなつかまってしまったよ。きみは、もう、ひとりぼっちだ。さあ、あなの外へ出るんだ。ぼくたちは、明智先生のさしずで、きみを待ちぶせしていたんだよ。」
そういいながら、三挺のピストルが、ジリジリとこちらへせまってきます。二十面相は、あなの入口へ引きかえしていくほかはないのです。
あなの中に待ちぶせしていたのは、少年探偵団の中でも、もっとも勇気があり、力の強い、中学二年生の山本、酒井、清水の三少年でした。
あなの外の草の中には、ふたりの少年がたがいにはなれて、ねそべっていました。ふたりは、一本のほそびきを地面すれすれに、両方から引っぱりあっていたのです。
そこへ、二十面相があなの中からかけだしてきました。まっくらですから、地面のほそびきには気がつきません。たちまち、それに足をとられて、みごとにころがってしまいました。
ワーッ、という、叫び声があがりました。草の中に身をふせていた大ぜいの少年たちが、集まってきました。
二十面相はふくろのネズミです。とうとうつかまってしまうのでしょうか。
いや、まだまだゆだんはできません。二十面相は、いつでも、おくの手の、そのまたおくの手を用意しているやつですから。
そのほらあなのまわりの林には、ひじょうに高い木がいく本もありました。
その木の根もとのやみの中に、ふたりの少年が立っていました。明智先生の指示にしたがって、これから、大冒険をやろうというのです。
「いいかい、しっかりやるんだよ。二十面相が原っぱでつかまってしまえばいいけれど、もし逃げられたら、こんどは、ぼくたちふたりの責任になるからね。」
そういったのは、小林少年でした。
「うん、だいじょうぶだ。このあいだから、ずいぶん練習したからね。それに、こっちの方が馬力が強いんだから、負けやしないよ。」
そう答えたのは、井上一郎少年でした。井上君は、もと選手だったおとうさんに教えられてボクシングができる、強い少年でした。
しかし、“馬力”とは、いったいなんのことでしょう? 力が強いという意味でしょうか。いくら井上君でも、おとなの二十面相よりも強いはずはないのに……。
そのうちに、ふたりは、みょうなことをはじめました。
わかれわかれになって、林の中の、めだって高い二本の木の根もとに近づくと、てんでに木をのぼっていくのです。
ふたりとも、木のぼりがうまくて、みるみるうちに、上の方のしげみの中へかくれてしまいました。
ふたりは、いったい何をしようというのでしょう?
いっぽう、少年たちにとりかこまれた二十面相は、死にものぐるいに両手をふりまわしてかこみをやぶると、林の中をグルグルと逃げまわりました。
しかし、あいては大ぜいの少年です。なかなか、逃げきれるものではありません。一本の高い木の根もとで、またしても、とりかこまれてしまいました。
そのとき、二十面相も、みょうなことをはじめました。その高い木をのぼっていくのです。かれも、木のぼりの名人でした。あっというまにスルスルとふとい幹をのぼって、上の方のしげみに姿をかくしてしまいました。
「よし、それでいいんだ。もう、追っかけなくてもよろしい。いまに、おもしろいことがはじまるから、見ていたまえ。」
少年たちのうしろから、明智探偵が声をかけました。そして、さっきのほらあなの入口まで行って、合図の笛を、ピリピリと吹きならしました。
すると、ほらあなの中から、中村警部の部下のふたりの刑事が、何か重い機械のようなものを持って、出てきました。
長いコードのついた、小型のサーチライトです。二十面相のすみかの電線につないであるのでしょう。しかし、まだスイッチが入れてないので、ただ黒く見えるばかりです。
「二十面相をわざと木にのぼらせたんだよ。びっくりさせてやろうと思ってね。いまに、びっくりするようなことがおこるから、よく見ていたまえ。」
明智探偵は、にこにこしながら、そんなことをいいました。
ブルルン、ブルル、ブルルン、ブルルルル……。