← Library‹ 塔上の奇術師 恐ろしい手紙

小林こばやし少年しょうねんと園田そのだ丈じょう吉きち君くんは、時計とけい塔とうの機械きかい室しつにのぼって、身みをかくす場所ばしょをさがしました。

そこには、大小だいしょうさまざまな歯車はぐるまが、まわっているのですが、その南みなみがわの通路つうろに面めんした機械きかいの下したによこになればはいれるほどの、すきまがあることに気きづきました。

ふたりは、そこへはいこんで、歯車はぐるまのすきまから、北きたがわの壁かべをのぞきましたが、うまいぐあいに、その壁かべの下したのほうが、おおかた見みえるようになっていました。

ふたりは、そこに寝ねそべって、ときどき、ぼそぼそと、ささやきあいながら、ながいあいだ待まちました。かわりあって、朝あさごはんをたべ、昼ひるごはんをたべ、それから二に時間じかん、三さん時間じかん、四よん時間じかん、もう夕ゆうがたに近ちかづいても、なにごともおこりません。

「きょうは、うちの中なかへは、あらわれないのかもしれないね。」

丈たけ吉きち君くんが、うんざりして、ささやきました。

「うん、だが、もうすこしがまんしよう。ひょっとしたら、夜よるになってから、やってくるのかもしれないからね。」

小林こばやし君くんが、丈たけ吉きち君くんをなだめるように、ささやきかえします。

それから、しばらくして、四よん時じ五十ごじゅう分ふんごろでした。北きたがわの板いたばりの壁かべの一部いちぶが、スウッと動うごきはじめたではありませんか。

ふたりは寝ねそべったまま、ぐっと手てをにぎりあって、そのほうを、いっしんに見みつめました。

しばらくすると、北きたがわの壁かべに、ぽっかりと、四角しかくいまっ黒くろな口くちがひらいていました。はば六ろく〇れいセンチほどのかくし戸とが、むこうへひらいたのです。そして、そこから、ヌウッとすがたをあらわしたのは、なんと、園田そのださんのうちの、山本やまもとという書生しょせいだったではありませんか。

のぞいていたふたりは、びっくりしてしまいました。

いったいこれはどうしたことでしょう。それでは、書生しょせいの山本やまもとさんが、四十よんじゅう面相めんそうのなかまだったのでしょうか。

いや、そんなはずはありません。いまから十じゅう分ふんほどまえ、小林こばやし君くんが便所べんじょへおりていったとき、一いち階かいの廊下ろうかで山本やまもとさんと出であったばかりでした。そして山本やまもとさんは、ふたりの少年しょうねんが、ここにかくれていることをよく知しっているのです。

もし山本やまもとさんが、四十よんじゅう面相めんそうのなかまだとしたら、小林こばやし君くんたちが見みはっているのを知しりながら、秘密ひみつ戸とをあけて出でてくるはずがありません。

(アッ、わかった。四十よんじゅう面相めんそうが化ばけているんだ。四十よんじゅうの顔かおをもつ変装へんそうの名人めいじんだから、山本やまもとさんに化ばけるくらい、なんでもないことだ。)

小林こばやし君くんは、心こころの中なかでそう叫さけびました。

書生しょせいに化ばけてしのびこむとは、なんといううまい思おもいつきでしょう。ほんものの山本やまもとさんにさえ出であわないように気きをつけていれば、ほかの人ひとは、だれに出であってもへいきなのです。あいては、山本やまもとさんだと思おもって、すこしもあやしまれないからです。

山本やまもとさんに化ばけた四十よんじゅう面相めんそうは、かくし戸とをもとどおりにしめて、階段かいだんをおりていきました。

「丈たけ吉きち君くん、あれ、山本やまもとさんじゃないよ。きっと山本やまもとさんに変装へんそうした四十よんじゅう面相めんそうだよ。だって、十じゅう分ふんほどまえ、ぼくは下したで山本やまもとさんにあったんだもの。そして、山本やまもとさんは、ぼくらがここにいることを知しっているんだもの。」

「おどろいたなあ。あれが四十よんじゅう面相めんそうの変装へんそうかしら、山本やまもとさんとそっくりだったよ。」

「そりゃ、変装へんそうの名人めいじんだもの。だれにだって化ばけられるよ。あいつは、明智あけち先生せんせいに化ばけたことだってあるんだからね。」

それから、ふたりは、かくれ場所ばしょをはいだして、北きたがわの板壁いたかべの前まえにいって、さっきのかくし戸とのあたりを、おしたり、たたいたりしてみましたが、もうかぎがかかってしまったらしく、びくとも動うごきません。それに、かくし戸とと板壁いたかべのさかいめさえわかりません。じつに、よくできた秘密ひみつ戸とです。

「あいつが帰かえってくるまで、ここに待まっていることにしよう。そうすれば、かくし戸とのあけかたがわかるよ。それをよくおぼえておいて、あとから、ぼくたちも、あそこへはいっていくのだ。」

小林こばやし少年しょうねんはそういって、丈たけ吉きち君くんといっしょに、また、さっきのかくれ場所ばしょへはいこむのでした。

二十にじゅう分ふんほどしますと、小林こばやし君くんのいったとおり、書生しょせいに化ばけた男おとこが、機械きかい室しつへ帰かえってきました。

「さあ、いまだ。あいつ、どうして、かくし戸とをひらくのかしら。」

と、目めをさらのようにして見みつめていますと、男おとこは機械きかいのほうをむいて、そこの歯車はぐるまの一ひとつを、カチッと動うごかしたようすです。すると、それがかくし戸とをひらくしかけらしく、扉とびらは、スウッと、むこうへひらいていき、男おとこはすばやく、そこから中なかにはいって、またもとどおり戸とをしめてしまいました。

ふたりの少年しょうねんは、しばらく待まってから、かくれ場所ばしょを出でて、むこうがわにまわり、山本やまもとさんに化ばけた男おとこがさわったらしい歯車はぐるまを、あちこちといじくっていますと、カタンとかるい音おとがして、うしろのかくし戸とが、スウッとひらいたではありませんか。

しかしふたりは、いますぐ、かくし戸との中なかへはいる気きはありません。さっきの男おとこがなにをしにやってきたか、それをたしかめてからでも、おそくはないのです。

そこで小林こばやし君くんは、あきかけた戸とに手てをかけて、こちらへグッとひきますと、そのまま、ぴったりしまって、もう、おしてもたたいても、ひらかなくなりました。

「さあ、これで、秘密ひみつのぬけ穴あなはわかった。これから下したへおりて、あいつがなにをしていったか、しらべてみよう。」

そういって、丈たけ吉きち君くんといっしょに階段かいだんをおりていきました。

一いち階かいにおりて、園田そのださんの部屋へやのそばへいきますと、そこのえんがわにヨシ子こちゃんが立たっていて、庭にわの土つちの上うえを、じっと見みつめています。

「オヤッ、なにをしているんだろう。……ヨシ子し、なにを見みているんだい?」

丈たけ吉きち君くんがよびかけますと、ヨシ子こちゃんはギョッとしたようにこちらをむいて、かすれた声こえで、

「あれ、なんだか字じみたいだわね。」

といって、庭にわをゆびさすのです。

庭にわは、夕ゆうもやにつつまれていましたが、よく注意ちゅういして見みると、庭にわの土つちの上うえに、なにか、かたいものできずをつけたようなあとが、いちめんについていました。その一ひとつ一ひとつが、字じのように見みえるのです。

小林こばやし少年しょうねんは、地面じめんをしばらくにらんでいましたが、やがて、それをゆっくり読よみはじめました。

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