← Library‹ 怪人と少年探偵 ふしぎな変装

あくる日ひの朝あさになりました。デパートの店員てんいんたちが、売うり場ばへやってきました。そして、ちん列れつ台だいの白しろいきれを、とりのけたり、そのへんの、そうじをしたりしました。

あのどろぼう人形にんぎょうは、もとの場所ばしょに、なにくわぬ顔かおで、立たっています。だれも、それが人間にんげんだとは気きがつきません。

そのうちに、開店かいてんの時間じかんがきて、ぼつぼつお客きゃくさんが、はいってきました。しかし、だれも、どろぼう人形にんぎょうには、気きがつきません。

そのころ、宝石ほうせき売うり場ばのほうは、大おおさわぎになっていました。デパートにやとわれている探偵たんていが、そこへ集あつまって、警察けいさつへ電話でんわをかけるやら、支配しはい人にんをよんでくるやら、ごったがえしていました。

開店かいてんしてから一いち時間じかんほどたったころです。洋服ようふく売うり場ばを、子こどもを連つれた女おんなのお客きゃくさんが、通とおりかかりました。子こどもは六むいつぐらいの、いたずららしい男おとこの子こでしたが、おかあさんの手てをはなれて、どろぼう人形にんぎょうの立たっている、低ひくいかこいの中なかへ、入はいっていってしまいました。

そして、どろぼう人形にんぎょうの足あしにさわったのです。さわったかとおもうと、子こどもは、へんな顔かおをしました。ふしぎそうに、人形にんぎょうのひざから、もものほうへ、手てでさわっていきましたが、びっくりしたように、かこいのそとへ、とび出だしてきました。

「ママ、あの人形にんぎょうの足あし、あったかいよ。グニャグニャしてるよ」

おかあさんのそばによって、ささやくように、言いいました。

「ほんと?」おかあさんは、うたがわしそうに、聞ききかえします。

「ほんとだよ。ママも、さわってごらん」

おかあさんは、おもわず、手てをのばして、人形にんぎょうの足あしにさわってみました。そして、ハッとしたように、手てをひっこめました。それは生いきた人間にんげんの足あしに、ちがいなかったからです。

いそいで、むこうにいる店員てんいんのところへいって、そのことを知しらせました。

「えっ、なんですって?」店員てんいんはびっくりして、人形にんぎょうのほうをふりむきました。そして、もう一人ひとりの店員てんいんといっしょに、人形にんぎょうをしらべるために、こちらへやってくるのです。

それがわかったので、どろぼう人形にんぎょうは、パッと、かこいからとびだして、にげだしました。おおぜいのお客きゃくさんのあいだを、くぐりぬけて人形にんぎょうが走はしっていくのです。みんな、おどろいて立たちどまったまま、あっけにとられていました。

どろぼう人形にんぎょうは、ちん列れつ場じょうをグルグル走はしりぬけて、店員てんいんだけのつかうドアのなかへ、消きえてしまいました。その中なかには、支配しはい人にん室しつや、応接おうせつ間かんや、物ものおきべやなどがあります。どろぼう人形にんぎょうは、その物ものおきべやにとびこんで、大おおきな箱はこの積つんである、すみっこにかくれると、みょうなことをはじめました。

いきなり、顔かおの皮かわを、めくりとったのです。それは、うすいビニールでできたお面めんでした。耳みみのうしろまでつづいたお面めんです。それをはぎとると、中なかから、三十さんじゅう五ご、六ろく才さいの男おとこの顔かおがあらわれました。つぎには、両手りょうてにはめていた、手てぶくろのようなものを、ぬきとりました。ビニールの手てぶくろで、人形にんぎょうの手てにみせかけてあったのです。それから、手てばやく、上着うわぎとズボンをぬぎ、両方りょうほうとも、うらがえしにして、もとのように身みにつけました。

洋服ようふくの表ひょうは、はでなしまですが、うらはじみな無地むじの茶色ちゃいろです。うらがえしても、ちゃんとした、せびろなのです。変装へんそうのためにつくった、表ひょうもうらも使つかえる洋服ようふくなのです。

洋服ようふくの変装へんそうがすむと、こんどは、顔かおの変装へんそうです。ポケットから出だした小ちいさな鏡かがみを見みながら、鼻はなの下したに、つけひげをつけ、しゃれためがねをかけました。そして、小ちいさな箱はこにはいっている、絵えの具ぐと筆ふでで、顔かおの変装へんそうをしました。

おおいそぎでやったので、ぜんたいで、二に分ふんほどしか、かかりませんでした。

パッと、物ものおきべやをとびだすと、むこうの支配しはい人にん室しつのドアを、ソッと開ひらいて、中なかをのぞきました。支配しはい人にんはどこへいったのか、へやの中なかはからっぽです。

どろぼう人形にんぎょうは、へやにはいって、ドアをしめ、支配しはい人にんの大おおきなつくえのむこうに、どっかりと、こしをおろし、つくえの上うえにあったペンをとって、紙かみになにか書かきはじめました。

しばらくすると、コツコツと、ドアにノックの音おとがして、三さん人にんの店員てんいんの顔かおがのぞきました。さっき、おっかけてきた店員てんいんたちが、ほうぼうさがしたあとで、ここへやってきたのです。どろぼう人形にんぎょうは、下したをむいて、字じを書かきつづけています。

「いま、だれかきませんでしたか」

店員てんいんの一人ひとりが、たずねました。

「いいや、だれもこないよ。どうしたんだ、おおぜいで」

人形にんぎょうは、やっぱり下したをむいたまま、支配しはい人にんの声こえをまねて、しかりつけるように言いいました。

「人形にんぎょうにばけていたやつが、にげたんです。もっとほかを、さがしてみます」

店員てんいんたちは、そういいすてて、いそいで、かけだしていきました。

それを見みおくって、どろぼう人形にんぎょうは、つくえのむこうに、すっくと立たちあがり、ニヤニヤとうすきみわるく、わらいました。

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