← Library‹ 透明怪人 地下室

島田しまだ少年しょうねんと、島田しまだ君くんのおとうさんと、黒川くろかわ記者きしゃは、その紙かみきれの、おそろしい文句もんくを読よんで、ただ、青あおざめた顔かおを見みあわせるばかりでした。もう日ひがくれて、室内しつないはまっくらになっていました。三さん人にんは電灯でんとうをつけることさえわすれていたのです。

「アッ。」

とつぜん、島田しまだ少年しょうねんがおとうさんのうでに、すがりつきました。目めの玉たまが、まぶたから飛とびださんばかりに、まんまるにひらいて、部屋へやの一方いっぽうをみつめています。おとうさんと黒川くろかわ記者きしゃは、おどろいて、そのほうをながめました。

島田しまだ君くんがみつめていたのは、しめきったガラス窓まどでした。それは西洋せいようふうのおしあげ窓まどで、スリガラスがはめてあるのですが、そのスリガラスに、ボンヤリと人ひとの影かげがうつっていました。実物じつぶつの二に倍ばいほどもある大おおきな横顔よこがおが、口くちを三み日か月がつがたにひらいています。

「エヘヘヘヘ……。」

あの、しわがれた、身みの毛けもよだつ笑わらい声ごえが、かすかにきこえてきました。笑わらうたびに、影かげのくちびるが、ヘラヘラと動うごくのです。ふつうの人間にんげんの影かげではありません。透明とうめい怪人かいじん特有とくゆうの、うすぼんやりした、幽霊ゆうれいのような影かげです。

黒川くろかわ記者きしゃは、さすがに勇敢ゆうかんでした。それを見みると、「うぬ。」とさけびざま、飛鳥ひちょうのような早はやさで、窓まどに飛とびついていきました。そして、おしあげ戸とに手てをかけると、いきなり、ガラッとひらきました。しかし、窓まどのそとには何者なにもののすがたも見みえません。見みえるわけがないのです。

「エヘヘ……。」

あの、いやないやな笑わらい声ごえだけが、くらやみの庭にわのどこからかただよってきました。やがて、その笑わらい声ごえがとだえ、しばらくは、シーンとしずまりかえっていましたが、とつぜん、

「あすの、晩ばんの、九きゅう時じをわすれるな。」と言いう、しわがれ声こえが、天てんからふってくるように聞きこえました。透明とうめい怪人かいじんがはじめてものを言いったのです。なんという、うすきみの悪わるい声こえでしょう。まるで外国がいこく人にんが日本にっぽん語ごをしゃべっているような、まのびのした、たどたどしいことば、みょうにしわがれた声こえ、それをきくと、室内しつないのふたりのおとなと、ひとりの少年しょうねんは、魔法まほうにでもかかったようにたちすくんだまま、身みうごきもできなくなってしまいました。

「おじさん、早はやく、早はやく、窓まどをしめなくっちゃ。」

島田しまだ少年しょうねんが黒川くろかわ記者きしゃにささやきました。でないと、透明とうめい怪人かいじんは窓まどからはいってくるかもしれないからです。はいってきても、だれにもわからないからです。黒川くろかわ記者きしゃも、なるほどと思おもったのか、いそいで窓まどのガラス戸とを、バタンとしめました。すると、またしても、

「エヘヘヘ……。」と言いう、あの笑わらい声ごえが、窓まどガラスのそとからきこえ、それが、だんだん、遠とおざかっていくように、かすかになり、やがて、もう、きこえなくなりました。

「あいつは地下ちか室しつの、ひみつの入いり口ぐちを、知しっているのでしょうか。」

島田しまだ君くんのおとうさんが、青あおざめた顔かおで、しんぱいそうに言いいました。

「あなたの書斎しょさいのじゅうたんの下したに、かくし戸とがあるのでしたね。あなたは、ちかごろ、そこをひらかれたことがありますか。」

黒川くろかわ記者きしゃがたずねます。

「つい四よん―五いつ日かまえに、真珠しんじゅ塔とうがぶじにあるかどうか、しらべるために、地下ちか室しつにはいりました。月つきに一いち度どぐらいは、金庫きんこをひらいて、たしかめてみるのです。」

「フーン、その四よん―五いつ日かまえのときに、あいつが、もし、あなたのあとにくっついて、地下ちか室しつにはいったとすれば……。」

「エッ、なんですって?」

島田しまださんは、ギョッとしたように、黒川くろかわ記者きしゃの顔かおを、見みつめました。言いわれてみれば、あいては目めに見みえないやつですから、そういうことが、なかったとも、かぎりません。「あすの九きゅう時じ」ではなくて、そのときに、もうぬすまれてしまったのではないかと思おもうと、島田しまださんは、にわかに、しんぱいになってきました。

「しらべてみましょう。あなたも、いっしょに来きてください。一郎いちろうも来きなさい。三さん人にんではいれば、たとえあいつが、しのびこもうとしても、ふせぐのは、わけありません。」

「そうですね。一いち度ど、たしかめておくほうが、いいかもしれませんね。」

そこで、三さん人にんはいそいで書斎しょさいにはいり、まず、ドアに中なかからかぎをかけ、窓まどもみな、かけがねで、しまりをしました。こうしておけば、透明とうめい怪人かいじんは、はいってくることができないからです。

三さん人にんが書斎しょさいにはいったときには、怪人かいじんはとっくに、先手せんてをうって、書斎しょさいの中なかに、かくれていたかもしれません。しかし、それをふせぐ、てだてがあったのです。

島田しまださんは、イスをのけて、ゆかにしいてあるじゅうたんをめくり、ゆか板いたに手てをかけて、グッと持もちあげました。ゆかが四角しかくく切きりぬかれ、あげぶたとなっているのです。島田しまださんは、それをごく少すこしひらいて、やっと人間にんげんが、はいこめるほどの、すきまをつくりました。

「さあ、ふたりは、このすきまから、はいってください。わたしは、あとから、はいって、これをしめます。そうすれば、あいつが、すぐそばにいたとしても、だいじょうぶです。とてもわたしたちに、さわらないで、はいりこむことは、できません。」

そのとおりにして、三さん人にんはゆかの下したに、はいりました。あげぶたを、おろすと、まっくらになりましたが、島田しまださんが、床下ゆかしたにしかけたスイッチをおして、パッと電灯でんとうをつけました。見みると、そこは、コンクリートのかべにかこまれた、一いちメートル四方しほうほどの、箱はこのような場所ばしょです。足あしの下したもコンクリートで、その一方いっぽうのすみに、六十ろくじゅうセンチ四方しほうほどの、鉄てつの板いたがあります。それが、深ふかい地下ちか室しつへの入いり口ぐちなのです。

箱はこのような場所ばしょは、三さん人にんがはいると、いっぱいになってしまって、首くびをちぢめないと、頭あたまがつかえるほど、せまくて、きゅうくつでした。島田しまださんは天井てんじょうのあげぶたに、中なかから、しまりをしながら、

「どうです。これなら、だいじょうぶでしょう。ここは、わたしたちで、いっぱいなのだから、いくら透明とうめい怪人かいじんでも、はいるすきがありません。こうしておいて、それから、この足あしの下したの鉄てつの戸とをひらくのです。」

と、とくいらしく言いうのでした。そして、鉄てつの戸とをひらき、三さん人にんがはいってしまうと、また、下したからその戸とにかぎをかけました。

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