← Library‹ 透明怪人 午後九時

それから、つぎの日ひの午後ごご九きゅう時じ、あの、怪人かいじんが約束やくそくした午後ごご九きゅう時じまでには、いろいろのことがあったのですが、それを、くわしく書かいていては、たいくつですから、ごく、あらましだけを、しるしておきます。

警察けいさつに知しらせますと、その夜よるから、島田しまだ君くんのうちのまわりに警官けいかんの見みはりがつき、よく日ひは、警視けいし庁ちょう捜査そうさ課かの係かかり長ちょう、中村なかむら警部けいぶが、島田しまだ家かを訪問ほうもんして、おとうさんと話はなしをして帰かえりましたが、日ひがくれるころには、中村なかむら係かかり長ちょうは三さん人にんの刑事けいじをつれて、のりこみ、ひとりの刑事けいじには、書斎しょさいのかくし戸とのところに番ばんをさせ、あとのふたりには、家いえのそとの見みまわりをつづけさせ、係かかり長ちょうは地下ちか室しつの金庫きんこの前まえにがんばることになりました。

そのうえに、いよいよ、少年しょうねん探偵たんてい団だんが活動かつどうをはじめることになったのです。透明とうめい怪人かいじんが島田しまだ君くんのうちをねらっているということは、島田しまだ君くんの学校がっこう友ともだちに知しれわたっていたのですが、すると、同おなじ学校がっこうに、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いんがいて、これを小林こばやし団長だんちょうに知しらせました。小林こばやし団長だんちょうというのは、名めい探偵たんてい明智小五郎あけちこごろうの、有名ゆうめいな少年しょうねん助手じょしゅなのです。この小林こばやし少年しょうねんを団長だんちょうとする、少年しょうねん探偵たんてい団だんのことは、『少年しょうねん探偵たんてい団だん』や『妖怪ようかい博士はかせ』の本ほんをお読よみになった読者どくしゃ諸君しょくんは、よくごぞんじのはずです。

小林こばやし団長だんちょうはそれを聞きくと、島田しまだ君くんや木下きね君くんにあって、うちあわせたうえ、島田しまだ君くんのおうちの近ちかくに住すんでいる団員だんいん五ご人にんをえらび、小林こばやし少年しょうねんがその五ご人にんをひきつれて、透明とうめい怪人かいじんの見みはり役やくをつとめることにしました。

見みはりといっても、あいては目めに見みえない怪物かいぶつですから、ただ見みていただけでは、なんにもなりません。そこで、小林こばやし団長だんちょうは、ひとつの妙案みょうあんをかんがえつきました。それは、自分じぶんも、五ご人にんの団員だんいんも、てんでに懐中かいちゅう電灯でんとうを持もち、日ひがくれたら、ふたりずつ三さん組くみにわかれて、島田しまだ君くんのおうちのまわりや、庭にわの中なかを、懐中かいちゅう電灯でんとうで照てらしながら、あるきまわるということでした。

なぜそんなことをするのでしょう。透明とうめい怪人かいじんは、目めには見みえないけれど、影かげはあるからです。懐中かいちゅう電灯でんとうを、あちこちとふり照てらしているうちに、その光ひかりの中なかに、みょうな影かげが、あらわれたら、そこに怪人かいじんがいるしょうこです。その影かげで、けんとうをつけておいて、いきなり飛とびかかっていこうというわけです。

小林こばやし君くんがこのことを、中村なかむら係かかり長ちょうに話はなしますと、係かかり長ちょうも感心かんしんして、自分じぶんの部下ぶかの刑事けいじたちにも、同おなじやりかたを、すすめたほどでした。

そこで、島田しまだ邸ていのまわりは、夜よるにはいると、懐中かいちゅう電灯でんとうの光ひかりがあちこちに、チラチラして、まるで、ほたるが飛とびちがうような、美いしくも、ぶきみな光景こうけいとなりました。

さて、こちらは地下ちか室しつです。時間じかんは九きゅう時じ十じゅう分ふんまえ、金庫きんこのまわりに四よんつのイスがならび、もう一いち時間じかんもまえから、島田しまだ少年しょうねん、島田しまだ君くんのおとうさん、黒川くろかわ記者きしゃ、中村なかむら捜査そうさ係かかり長ちょうの四よん人にんが、わき目めもふらず、金庫きんこのとびらを、見みつめているのでした。

四よん人にんがここへはいるときには、まえの晩ばんと同おなじように、注意ちゅういに注意ちゅういをして、どうしても、怪人かいじんのはいりこむすきのないようにしました。ですから、この地下ちか室しつには、怪人かいじんはぜったいにいないはずです。また、入いり口ぐちの二に重じゅうの戸とには、中なかからかぎがかけてあるので、怪人かいじんは、あとから、はいってくることも、できないのです。

「わたしは、あいつに、いちどもおめにかかっていないせいか、みなさんが、そんなに、こわがっておられるのが、ちょっと、ふにおちないほどですよ。これほど用心ようじんをすれば、もう、だいじょうぶでしょう。九きゅう時じにやってくるなんて、人ひとさわがせなおどしもんくにすぎませんよ。」

背広せびろすがたの中村なかむら係かかり長ちょうが、たばこの箱はこを、ポケットからとりだしながら、言いいました。すると、黒川くろかわ記者きしゃが、

「いや、あいつは魔物まものみたいなやつです。けっして、ゆだんはできません。いまに、われわれの見みている前まえで、金庫きんこの戸とが、ひとりでに、スーッとひらくようなことが、おこらないともかぎりません。」

「ハハハ……、それはだいじょうぶですよ。小林こばやし君くんがうまいことを、かんがえた。あいつには影かげがある。影かげさえ気きをつけていればいいのです。この地下ちか室しつには電灯でんとうがついている。もし、あいつが、はいってくれば、どこかに影かげがうつるはずですからね。」

「ところが、係長かかりちょうさん、あいつには影かげのないときもあるのですよ。いつか、あいつがクツみがきの少年しょうねんをたすけたときには、ぼくはその場ばにいて、見みたのですが、不良ふりょう青年せいねんと、とっくみあっている、あいつの影かげは少すこしもうつらなかった。地面じめんには不良ふりょう青年せいねんが、ひとりで、もがいている影かげが、うつっていたばかりですよ。あいつは、だれかを、こわがらせたいときだけ、影かげをうつすという、魔法まほうをこころえているのじゃないでしょうか。」

「ハハハ……、黒川くろかわ君くんは、どうも、あいつを尊敬そんけいしているような、あんばいだね。」

中村なかむら係かかり長ちょうはそう言いって、笑わらいましたが、その笑わらい声ごえがまだ消きえないうちに、どこかで、コトンと、みょうな音おとがしました。

四よん人にんはハッとなって、顔かおを見みあわせました。そして、室内しつないはしばらく、シーンとしずまりかえっていましたが、そのとき、島田しまだ少年しょうねんが、おとうさんの腕うで時計とけいをのぞきこんで、思おもわず口くちばしるのでした。

「おとうさん、あと一いち分ふんで、九きゅう時じですよ。」

係長かかりちょうも記者きしゃも、それぞれ、自分じぶんの時計とけいを見みました。たしかに九きゅう時じ一いち分ふんまえです。三さん人にんとも、まえもってラジオに時計とけいをあわせておいたのです。

だれも口くちをききません。係長かかりちょうも、今いまはしんけんな顔かおつきです。三みつの時計とけいの秒びょうをきざむ音おとが、ハッキリきこえるほどの、しずかさでした。十じゅう秒びょう、二十にじゅう秒びょう、またたくまに、時ときがたってゆきます。八ようつの目めが、金庫きんこのとびらを、くいいるように、にらみつけていました。

島田しまだ少年しょうねんは、そうして、じっとみつめていると、何なんかもうろうとした、人ひとのすがたが、金庫きんこのそばに立たっているように感かんじました。

「オヤッ。」と思おもって、見みなおすと、もう、何なんも見みえません。気きのせいだったのでしょうか。それとも……。

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