← Library‹ 透明怪人 怪人のすみか

透明とうめい怪人かいじんを、たったひとりで、尾行びこうした子こどもというのは、少年しょうねん探偵たんてい団だんの副ふく団長だんちょうで、小林こばやし団長だんちょうのかた腕うでと言いわれる、大友おおとも少年しょうねんでした。大友おおとも久ひさしという、中学ちゅうがく二に年ねん生せいなのです。

大友おおとも君くんは、いけがきのそとで、ルンペン青年せいねんが指ゆびさす、怪かい人物じんぶつのすがたを見みると、とっさに、あれこそ透明とうめい怪人かいじんにちがいないと思おもいました。うしろすがたが、みんなに聞きいていた怪人かいじんの服装ふくそうと、まったく同おなじだったからです。

こちらは、からだの小ちいさい少年しょうねんです。それに、さびしい屋敷やしき町まちで電灯でんとうもごくすくないので、尾行びこうは、わりにらくでした。島田しまだ邸ていから百ひゃくメートルほど行いった、くらい町まちかどに、一いち台だいの自動じどう車しゃが、ヘッド・ライトを消けして、とまっていました。

あやしい洋服ようふく紳士しんしは、その自動じどう車しゃに近ちかづくと、コツ、コツ、コツコツコツと、みょうなちょうしで、自動じどう車しゃのそとがわをたたいて、あいずをしたうえ、ドアをひらいて、うしろの席せきにこしかけ、運転うんてん手しゅになにかボソボソささやいています。

大友おおとも少年しょうねんは身みがかるくて、木馬もくばや鉄棒てつぼうが、だいとくいでした。そのうえひじょうな冒険ぼうけんずきです。この好こう機会きかいをのがしてなるものかと思おもいました。武者むしゃぶるいというのでしょう。なんだか、からだがふるえて心臓しんぞうがドキドキしてきました。

大友おおとも君くんは「よしッ。」と心こころの中なかでさけぶと、足音あしおとをしのばせて、自動じどう車しゃのうしろに、近ちかづき、ヒョイと後部こうぶ車輪しゃりんのおおいのうえに、とびのり、そこに、つまさきだちをして、スルスルと、自動じどう車しゃの屋根やねの上うえに、のぼりつきました。目めにもとまらぬ早はやわざです。大友おおとも君くんが、そうして、屋根やねの上うえに、ひらぐものように、すがりついたときには、自動じどう車しゃはもうはしりだしていたのです。

自動じどう車しゃは、交番こうばんをさけて、くらい町まちから、くらい町まちへと、三十さんじゅう分ふんあまりも、はしりました。怪かい人物じんぶつも運転うんてん手しゅも、自分じぶんたちのすぐ頭あたまの上うえに、少年しょうねん探偵たんてい団だんの副ふく団長だんちょうが、つきまとっていようとは、すこしも気きづいていないようすです。大友おおとも君くんは、自動じどう車しゃが町まちかどをまがるたびに、いまにも、ふりおとされそうになりながら、やっとの思おもいで、屋根やねの上うえにすがりついていました。

自動じどう車しゃがとまったのは、東京とうきょう都内とないにはちがいないのですが、むかしの兵営へいえいのあととでもいった、草くさぼうぼうの広ひろっぱでした。見みわたすかぎり、人家じんかはなく戦災せんさいで焼やけた大おおきなかれ木きが、まだニョキニョキと立たっていて、遠とおくの、にぎやかな町まちの空そらあかりの前まえに、そのかれ木きのむれが、ボーッと浮うきあがっています。

怪かい人物じんぶつが自動じどう車しゃをおりて、どこかへあるきだしたので、見みうしなってはたいへんと、大友おおとも君くんも、屋根やねの上うえから、ソッと、すべりおりると、地面じめんにひれふして、ようすをうかがいました。

ガガガガ……と、すぐ頭あたまの上うえで、ひどい音おとがしたので、びっくりして見みあげると、自動じどう車しゃが出発しゅっぱつするところでした。怪人かいじんの部下ぶかの運転うんてん手しゅは、用事ようじをすませた車くるまを、どこかの秘密ひみつのガレージへ、はこぶのでしょう。見みるまに、自動じどう車しゃは、やみのかなたへ消きえていきました。

さあ、いよいよ、さいごの尾行びこうです。怪人かいじんのすみかは、この広ひろっぱの、どこかにあるのです。それは、いったい、どんな場所ばしょでしょうか。大友おおとも少年しょうねんの身辺しんぺんは、ますます危険きけんになってきました。

見みると、むこうに、高たかさ十じゅうメートルもあるような、いちめんに草くさのはえたがけが、ズーッとつづいています。怪人かいじんはそのがけにむかって、すすんでいくのです。

大友おおとも君くんは、草くさの上うえを、はうようにして、怪人かいじんのあとをつけました。まっくらな広ひろっぱですから、たとえ怪人かいじんがふりむいても、めったにみつかるしんぱいはありません。音おとさえたてなければ、だいじょうぶです。

怪人かいじんはがけのま下したに、近ちかづきました。そこは、ひじょうに、くらくて、もう、すがたも見みわけられないほどです。大友おおとも君くんは、目めをまんまるにひらいて、じっと、そのくらやみを見みつめました。

すると、カサカサと草くさのすれる音おとがして、それっきり、怪人かいじんのすがたは、まったく見みえなくなってしまいました。いくら、見みつめても、がけの土つちと草くさのほかには、何なんもないのです。

怪人かいじんは、またしても、魔法まほうをつかったのでしょうか。いや、そうではありません。そこには、草くさでかくれた、大おおきなほら穴あながあったのです。トンネルのような横穴よこあながあったのです。怪人かいじんはそのトンネルの中なかへはいっていったのです。

大友おおとも君くんは、それと気きづくと、そのトンネルの入いり口ぐちに、はいよって、耳みみをすまして中なかのようすを、うかがいました。

ゴソゴソと音おとがしています。怪人かいじんはトンネルのおくふかく、はいっていくのです。あとになって、わかったのですが、それは戦争せんそう中ちゅうにほられた、横穴よこあな防空ぼうくうごうでした。さびしい場所ばしょなので、だれも穴あなをうめないので、そのままになっていたのです。

穴あなの入いり口ぐちに、草くさがはえしげって、いまでは、そこに穴あながあるということさえ、わからなくなっていました。

大友おおとも君くんは、音おとをたてぬように、用心ようじんに用心ようじんしながら、そのまっくらな横穴よこあなの中なかへ、はいりこんでいきました。

ところが、十じゅうメートルも進すすむと、もう行いきどまりになっていて、えだ道みちもなにもないのです。「オヤッ、へんだな、あいつは、どこかへかくれたのかしら。」しかし、どこにも、かくれるところはありません。穴あなはせまいのですから、怪人かいじんがいれば、大友おおとも君くんのからだにさわるはずです。

「またおくの手てをだして、消きえてしまったのかな。」と、ふしぎに思おもいながら、しばらく、じっとしていますと、すぐ目めの前まえに、かすかな光ひかりが見みえました。四十よんじゅうセンチ四方しほうほどの、まるい穴あながあって、そのむこうが、ボンヤリあかるくなっているのです。

「ハハア、この小ちいさな穴あなのむこうがわに、ひろい場所ばしょがあるんだな。そこに、あかりがついていて、それが、ここまで反射はんしゃしているんだな。すると、あいつは、この小ちいさな穴あなから、中なかへはいりこんだのに、ちがいないぞ。」

大友おおとも君くんは、やっと、そこに気きがつきました。たとえ、だれかが、この横穴よこあなへはいっても、そのおくに、怪人かいじんのすみかがあることを、気きづかれないように、そんな小ちいさい穴あなが、通とおり道みちになっているのでしょう。いつもは、その穴あなに、内部ないぶから、ふたがしてあるのかもしれません。

「よしッ、この中なかへ、はいってみよう。」

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