← Library‹ 透明怪人 大奇術

明智あけちがことばをきったとき、中村なかむら係かかり長ちょうが、まちかまえていたように、声こえをかけました。

「だが、明智あけち君くん、つくり話ばなしだけでは、すまないような出来事できごとが、たくさんあったね。ぼくには、それが、どうしてもわからないのだが、まずこの事件じけんのさいしょに、島田しまだ、木下きのしたの二に少年しょうねんが、古こ道具どうぐ屋やの店みせから尾行びこうして行いったろう仮面かめんの男おとこだね。あれは、ふたりの少年しょうねんの目めの前まえで、服ふくをぬいだ。すると、まったく目めに見みえない人間にんげんになってしまった。あれをどうせつめいするのだね。まさか、あのふたりの少年しょうねんが黒川くろかわの助手じょしゅではないだろう。」

「あれはアヤツリ人形にんぎょうのしかけなんだよ。ろう仮面かめんの男おとこは、焼やけあとの、こわれたれんがの建物たてものの中なかにはいった。ふたりの少年しょうねんは、建物たてもののそとで、しばらく、ためらっていた。男おとこはそのすきに、横よこのほうから、建物たてもののそとへ、逃にげだし、あとは、あらかじめ用意よういしておいたおなじ仮面かめんと、おなじ洋服ようふくが、たくさんの黒くろい絹糸きぬいとで、二に階かいのゆかのわれめからつりさげてあったのだよ。二に階かいにはひとりの助手じょしゅがいて、その絹糸けんしをあやつり、仮面かめんや洋服ようふくをぬがせたり、ぬいだ洋服ようふくをまるめたり、それが宙ちゅうに浮ういて、建物たてものの横よこの出口でぐちのほうへ、動うごいていったりするように見みせたのだ。もう、夕方ゆうがたの、うすぐらいときだったから、少年しょうねんたちはほそい絹糸きぬいとや、人間にんげんの肩かたのかたちにまげたハリガネなんかの、しかけが見みえなかったのだよ。

黒川くろかわはふたりの少年しょうねんといっしょに、ろう仮面かめんの男おとこを尾行びこうして、服ふくをぬいだやつを、おっかけ、とっくみあいをしたように、みせかけたが、むろん、あれは、おしばいにすぎない。

そのつぎは、デパートの人形にんぎょうのなかに、ろう仮面かめんの怪人かいじんが立たっていて木下きのした少年しょうねんに発見はっけんされた事件じけんだね。ろう仮面かめんはデパートの地階ちかいの倉庫そうこに逃にげこんだ。あの倉庫そうこには、大おおきなからの荷箱にばこがおいてあった。くせものは、洋服ようふくをぬぎすてて、あの荷箱にばこの中なかにかくれ、それからろう仮面かめんを投なげだした。ちょうど、そのとき、ドアがひらかれて、人々ひとびとは宙ちゅうを飛とぶろう仮面かめんのふしぎを見みたというわけだ。」

このとき、また中村なかむら係かかり長ちょうが、しつもんする。

「だが、あのとき、透明とうめい怪人かいじんは倉庫そうこから、逃にげだして、廊下ろうかにいた店員てんいんと、階段かいだんをおりてきた人夫にんぷに、つきあたり、ふたりをたおしているじゃないか。」

「あのふたりが、やっぱり黒川くろかわの助手じょしゅだったのさ。ハハハハハハ、うまく考かんがえたもんだね。ひとりは店員てんいんに化ばけ、ひとりは人夫にんぷに化ばけ、さも透明とうめい怪人かいじんに、つきとばされたように見みせかけたのさ。

もうひとつ、にたような例れいを言ゆうと、島田しまだ少年しょうねんが、自分じぶんのうちの庭にわで、ローラー・スケートが、ひとりで動うごくのを見みたが、あれも、スケートにほそい絹糸きぬいとをつけて、庭にわのしげみの中なかから、黒川くろかわの助手じょしゅが、ひっぱっていたのだよ。」

「それから、怪人かいじんの半はん透明とうめいの影かげが、たびたび窓まどにうつったね。そして、ぶきみな笑わらい声ごえをたてた。すると、あれも……。」

「幻灯げんとうと、腹話ふくわ術じゅつさ。助手じょしゅが家いえのそとの木きのしげみなどにかくれて、窓まどにむかって怪人かいじんの横顔よこがおの幻灯げんとうをうつすと、部屋へやのなかで、黒川くろかわが腹話ふくわ術じゅつをやる。怪人かいじんの影かげがうつるときには、その部屋へやに、かならず黒川くろかわがいた。腹話ふくわ術じゅつというのは、口くちをすこしも動うごかさないで、ものを言ゆう、あの術じゅつだね。腹話ふくわ術じゅつだと声こえがどこからくるかわからない。窓まどのそとと思おもえば、窓まどのそとのようにも、聞きこえるのだよ。

ぼくはコックになって、怪かい老人ろうじんのすみかに、はいりこんだのだから、そのほか、いろいろのことがわかった。怪かい老人ろうじんというのは、すなわち黒川くろかわなんだよ。黒川くろかわはなんにでも、化ばけられるふしぎなやつだ。あいつのつかった奇術きじゅつのたねは、アヤツリと幻灯げんとうと腹話ふくわ術じゅつのほかに、黒魔術ブラック・マジックと鏡かがみトリックがある。透明とうめい怪人かいじんをつくりだすのには、あらゆる奇術きじゅつがひつようだった。こんどの事件じけんは、まるで奇術きじゅつの展覧てんらん会かいのようなものだよ。

大友おおとも少年しょうねんが、あやしい自動じどう車しゃの屋根やねに乗のって、防空ぼうくうごうの怪かい老人ろうじんのすみかに、しのびこんだとき、ドアのすきまから、透明とうめい怪人かいじんの寝室しんしつをのぞいたね。すると、パジャマばかりで、顔かおも手てもないやつが、コップを持もって、水みずをのんでいた。あれが、黒魔術ブラック・マジックなのだよ。あの寝室しんしつのかべは、黒くろい幕まくでおおわれていた。そのまっ黒くろな背景はいけいの前まえで、黒川くろかわの助手じょしゅが、顔かおを黒くろビロードでつつみ、手てにも黒くろい手袋てぶくろをはめて、ああいうことをやってみせた。そうすると、顔かおも手てもない人間にんげんが、水みずをのんでいるように見みえるのだよ。

それから、大友おおとも君くんは怪かい老人ろうじんのために、透明とうめい人間にんげんにされてしまった。大友おおとも君くんじしんも、そういうふうに感かんじていた。ぼくは大友おおとも君くんを、悪者わるもののすみかから、ソッと逃にがしてやったが、そのとき、大友おおとも君くんの話はなしを、くわしくきいた。

怪かい老人ろうじんは大友おおとも君くんに、ねむりぐすりを注射ちゅうしゃして、イスにしばりつけ、二に畳じょうほどの、せまい部屋へやにとじこめた。その部屋へやには、一方いっぽうのかべに三十さんじゅうセンチ四方しほうほどの、小ちいさい鏡かがみが、はめこみになっていた。大友おおとも君くんが目めをさますと、その鏡かがみに自分じぶんの胸むねから上うえが、うつっていた。それはたしかに、自分じぶんの学生がくせい服ふくだったが、ふしぎなことに、顔かおがない。顔かおのあるべき場所ばしょには、うしろのコンクリートのかべが、うつっているばかりだ。

両手りょうてをイスのうしろに、しばりつけられているので、自分じぶんの顔かおに、さわってみることはできない。大友おおとも君くんは、しかたがないので、しばられたまま、肩かたをうごかしてみた。すると、鏡かがみの中なかの学生がくせい服ふくも、おなじように、肩かたをうごかした。それで、鏡かがみにうつっているのは、自分じぶんにちがいないことが、わかった。大友おおとも君くんはすっかり、きもをつぶして、とうとう、自分じぶんも透明とうめい人間にんげんにされたものと、思おもいこんでしまったのだ。

これは鏡かがみにしかけがあった。かべにはめこんであるのは、透明とうめいなふつうのガラスで、そのおくに、はすに、ほんとうの鏡かがみが、おいてあるのだ。そして、その横よこのほうに、大友おおとも君くんとおなじ学生がくせい服ふくをきた人間にんげんが、胸むねから上うえだけうつるように、イスにかけ、顔かおはコンクリートのかべと同おなじ色いろの板いたで、かくしている。はすにおいた鏡かがみにそれがうつると、大友おおとも君くんの目めには、首くびのない自分じぶんのすがたが、うつっているように見みえるのだ。大友おおとも君くんが肩かたを動うごかせば、むこうの人間にんげんも、おなじように、肩かたをうごかすわけだね。だれでも知しっている鏡かがみ奇術きじゅつだよ。

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