← Library‹ 透明怪人 真犯人

明智あけちの話はなしはつづきます。

「いったい、なんのために、ありもしない透明とうめい人間にんげんを、あるようにみせかけたか。それは、ひとつには、宝石ほうせきだとか、いろいろの高価こうかなものをぬすむためです。透明とうめい怪人かいじんという、お化ばけのようなやつが、犯人はんにんだと思おもわせておけば、ほんとうの犯人はんにんは、うたがわれないで、すむからです。

しかし、それだけではありません。この犯人はんにんは、せけんの人ひとをビックリさせたかったのです。子こどもが、しょうじのかげに、かくれていて、むこうから来きた人ひとを、バアと言いっておどかす、あの気持きもちを大おおきくしたようなものです。東京とうきょうじゅう、日本にっぽんじゅうの人ひとを、バアと言いって、おどかしたかったのですね。透明とうめい怪人かいじんという化ばけものが、ほんとうに、この世よにあらわれ、それが、何十なんじゅう人にん、何百なんびゃく人にんと、だんだんふえていくぞと、みんなをビクビクさせて、よろこんでいたのですね。

それから、もうひとつは、ぼくを――この明智あけち小五郎こごろうを、アッと言いわせたかったのです。ぼくと文代ふみよと小林こばやし君くんまでも、透明とうめい人間にんげんにしてしまうぞと、おどかしたうえ、ほんとうに、ぼくたちを、さらっていって、せけんの人ひとに、さすがの名めい探偵たんていも、とうとう透明とうめい人間にんげんにされてしまったと、思おもわせたかったのです。

怪かい老人ろうじんがぼくの事務じむ所しょへ電話でんわをかけてきたときに、ぼくはあいつのおそろしい決心けっしんをさとりました。そこで、ぼくの、とっておきの手てをもちいたのです。それは、ぼくと文代ふみよのかえだまを、探偵たんてい事務じむ所しょにすまわせ、ほんもののぼくと文代ふみよは、せけんから、すがたを、かくしてしまうという方法ほうほうでした。

中村なかむら君くんはよく知しっていますが、ぼくはずっとまえの事件じけんで、自分じぶんのかえだまをつかったことがあります。そのころから、ぼくと顔かおかたちがソックリの人ひとを、さがしだして、ひみつの場所ばしょに、すまわせてあったのです。こんども、そのおなじ人ひとを、つかいました。

まえの事件じけんのときには、文代ふみよのかえだまは、まだ、なかったのですが、そののち、たえず気きをつけていて、とうとう、文代ふみよとソックリの人ひとを見みつけました。この女おんなも、やはり、ひみつの場所ばしょに、やしなってあったのです。

ぼくの探偵たんてい事務じむ所しょの、いちばんおくの部屋へやに、ひみつの通路つうろがあります。かべのいちぶぶんが、電気でんきじかけのガンドウがえしになっているのです。ぼくと文代ふみよは、怪かい老人ろうじんのおどかしの電話でんわをきいたあとで、そのひみつの通路つうろから、ぬけだし、ふたりのかえだまと、いれかわってしまいました。

ですから、自動じどう車しゃでさらわれた明智あけちは、そのかえだまのほうだったのです。また、ゆうべ黒川くろかわと、にせの中村なかむら係かかり長ちょうに、つれだされた文代ふみよも、かえだまのほうでした。小林こばやし君くんにたすけられて、いまここにいる文代ふみよは、ほんとうの文ぶん代だいではありません。ぼくの妻つまの文代ふみよは、だれも知しらない、安全あんぜんな場所ばしょにかくれているのです。」

明智あけちの話はなしは、聞きけばきくほど、いがいなことばかりで、部屋へやにいる人々ひとびとは、息いきをつくひまもありません。あまりのことに、あきれはてて、ポカンと口くちをあけて、明智あけちの顔かおを、みつめているばかりです。

「そうしておいて、ほんとうのぼくは、怪かい老人ろうじんのすみかを、さがしあて、コックに化ばけて、すみこんでいたのです。かえだまをさらっていって、安心あんしんした犯人はんにんには、そこに大おおきなゆだんがありました。犯人はんにんは、人ひともあろうに、このぼくに、自分じぶんのかえだまになれと、命めいじたのです。

犯人はんにんも、さるものです。やっぱり、ぼくとおなじようなことを、考かんがえ、かえだまをつかって、警察けいさつをあざむこうとしたのです。

ぼくを怪かい老人ろうじんに化ばけさせ、わざと、とらえられて警察けいさつを安心あんしんさせたうえ、いよいよ、おそろしいことをたくらもうとしたのです。

では、かえだまのぼくと、いれかわった、ほんとうの怪かい老人ろうじんはどうしたのでしょう。もとの黒川くろかわ記者きしゃにもどったのでしょうか。いや、そうではありません。世界せかいじゅうで、いちばんうたがわれない人物じんぶつ、すなわち、探偵たんていに化ばけたのです。明智あけちはとりこにしてしまったと、思おもいこんでいる犯人はんにんは、自分じぶんが明智あけちに化ばけて、警察けいさつに、ひとあわ、ふかせようとしたのです。つまり、ゆうべ、焼やけビルの樋といをつたいおりて、わざとパトロールの警官けいかんに発見はっけんされた明智あけちこそ、犯人はんにんが化ばけたものです。」

それをきくと、人々ひとびとの目めが、いっせいに、一方いっぽうのイスにしばられている明智あけちを、にらみつけました。ほんとうの明智あけち小五郎こごろうのために、おまえが犯人はんにんだと、きめつけられた、にせ明智あけちは、まっさおになって、うなだれていました。かれが真ま犯人はんにんであることは、それを見みただけでも、あきらかです。

ほんとうの明智あけちは、にせ明智あけちの、しおれたようすを、こきみよげに、ながめながら、さらに、ことばをつづけました。

「黒川くろかわ記者きしゃになり、怪かい老人ろうじんに化ばけ、いまはまた、明智あけちに化ばけ、しかも、このぼくと、どこから見みても、くべつができないほど、うまく化ばけています。この犯人はんにんは、じつに変装へんそうの大名だいみょう人にんではありませんか。

明智あけちをアッと言いわせ、明智あけちをとりこにして、よろこぶ犯人はんにん、この明智あけちに、それほど、ふかいうらみを、いだいているやつ――、いくつ顔かおを持もっているのだろうと、あやしまれるほどの、変装へんそうの名人めいじん。みなさん、この二ふたつのことから、何者なにものかを、思おもいだされはしないでしょうか。」

明智あけちは、グルッと、人々ひとびとの顔かおを見みまわしました。みんなの目めが、飛とびだしそうに、見みひらかれています。みんなが石いしにでもなったように、身みうごきするものもありません。

「おわかりになりましたね。そうです。老ろう怪人かいじんに化ばけ、明智あけちに化ばけた黒川くろかわ記者きしゃ、その黒川くろかわもほんとうのかれではなかったのです。ぼくはかれの本名ほんみょうを知しりません。一いち年ねんあまりまえ、『虎とらの牙きば』の事件じけんで、魔法まほう博士はかせとして、とらえられた人物じんぶつ、すなわち、怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうです。みなさん、そのイスにしばられているのがあのおそるべき大だい悪魔あくま、怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうなのです。

『虎とらの牙きば』の事件じけんで、とらえられた数すう日じつ後ご、かれはもう、とくいの牢ろうやぶりで、すがたを消けしていました。そして、東洋とうよう新聞しんぶんの黒川くろかわ記者きしゃとなって、ぼくへの遠大えんだいなふくしゅうを、けいかくしていたのです。

捜査そうさ課か長ちょうさん、あらためて、凶賊きょうぞく二十にじゅう面相めんそうを、ひきわたします。こんどこそ、逃にがさないように、万全ばんぜんのしゅだんをこうじてください。」

明智あけちのことばが、きれるかきれないうちに、ワッと言いう声こえが、部屋へやじゅうに、ひびきわたり、課長かちょう、係かかり長ちょう、刑事けいじ、小林こばやし少年しょうねん、少年しょうねん探偵たんてい団だん員いん、あわせて十じゅう人にんの人々ひとびとが、イスにしばられた、にせ明智あけちのまわりに、殺到さっとうしていました。

そのいきおいに、犯人はんにんのしばられたイスがたおれ、怪人かいじん二十にじゅう面相めんそうは、ぶざまなかっこうで、ゆかにころがっていました。さすがの魔術まじゅつ師しも、こうなっては、もう、どうすることもできません。まっさおな顔かおにあぶらあせをながし、くちびるを、かみしめて、死人しにんのように、よこたわっているばかりです。

かくして、あれほど、せけんをさわがせた、透明とうめい怪人かいじんの大だい事件じけんも、ついにさいごの幕まくをとじることになりました。これよりして、名めい探偵たんてい明智あけち小五郎こごろうと名めい助手じょしゅ小林こばやし少年しょうねんの評判ひょうばんが、いよいよ高たかくなったことは、言いうまでもありません。しばらくは、どこへいっても、ふたりのてがらばなしばかりでした。

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