← Library‹ 智恵の一太郎 魔法眼鏡

あしたは秋季しゅうき皇霊こうれい祭さいという、九きゅう月がつ二十にじゅう三さん日にちの夜よる、一太郎いちたろう君くんはお父ちちさまのお許ゆるしを受うけて、近所きんじょの大学だいがく生せいの高橋たかはしさんのお家いえへ遊あそびに行いきました。

一太郎いちたろう君くんは高橋たかはしさんがだんだんすきになって来きました。いろいろな科学かがくのお話はなしをしてくれるからです。しかもそのお話はなしは、さすがの一太郎いちたろう君くんも、少すこしも考かんがえていなかったような、なんだかびっくりするような珍めずらしいことばかりだからです。この頃ころでは、毎日まいにち一いち度どは高橋たかはしさんの顔かおを見みないでは、気きがすまないほどになっていました。

二十にじゅう三さん日にちは、満月まんげつの前夜ぜんやでしたから、よく晴はれた空そらに、ほとんどまんまるな月つきが、美うつくしく光ひかっていました。高橋たかはしさんと一太郎いちたろう君くんは、広ひろいお庭にわに面めんした縁側えんがわに腰こしかけて、空そらの月つきをながめながら、月つきというものについて、いろいろなお話はなしをしました。

月つきは自分じぶんで光ひかるのでなく、太陽たいようの光ひかりにてらされて光ひかっているということ、地球ちきゅうは太陽たいようのまわりを、一いち年ねんかかって一ひと廻まわりするが、月つきは地球ちきゅうのまわりを一いち箇月かげつたらずで、一いち廻まわりするということ、月つきの世界せかいには空気くうきがないから、動物どうぶつなどはすんでいないだろうということ、しかし、人間にんげんは、いつか一いち度ど月がつ世界せかいへ旅行りょこうしてみたいというのぞみを持もっていて、昔むかしからたくさんの人ひとが、どうすれば月つきの世界せかいへ行いけるかということを考かんがえた話はなし、近頃ちかごろではロケットというものが発明はつめいされ、ゆくゆくはそのロケットに乗のって、月がつ世界せかいへ飛とんで行いけるようになるだろうと考かんがえている人ひともあること、広ひろい広ひろい天てんの世界せかいの話はなしを聞きいていると、一太郎いちたろう君くんはなんとも言いえない、ふしぎな気持きもちになって来くるのでした。

「一太郎いちたろう君くん、君きみは月つきの大おおきさを知しっているかい」

高橋たかはしさんは、しばらくだまっていたあとで、ふと気きがついたようにたずねました。

「いつか先生せんせいに教おそわったけれど、忘わすれちゃった。地球ちきゅうよりはずっと小ちいさいのですね」

一太郎いちたろう君くんは、空そらに銀色ぎんいろにかがやいている月つきを見みながら、答こたえました。

「うん、むろん地球ちきゅうより小ちいさいけれど、それでも、直径ちょっけい三千さんぜん四百よんひゃく何十なんじゅう粁キロメートルという、でっかいものだよ。ところでね、一太郎いちたろう君くん、一ひとつおもしろい実験じっけんをやってみようか」

高橋たかはしさんは、何なんだか妙みょうな笑顔えがおをして言いうのです。そういう笑わらい方かたをする時ときには、いつでも、一太郎いちたろう君くんをびっくりさせるような、めずらしい話はなしがはじまるのでした。一太郎いちたろう君くんはそれを知しっているものですから、今夜こんやはどんな話はなしが飛とび出だしてくることかと、まちかまえるように高橋たかはしさんの顔かおを見みつめました。

「ほんとうはそんなでっかいものだけれど、非常ひじょうに遠とおくにあるので、こんなに小ちいさく見みえるんだね。で、こうして月つきを見みていてね、君きみは、あれを、どのくらいの大おおきさに感かんじるね。お盆ぼんぐらいか、洋食ようしょく皿さらぐらいか、それとも御飯ごはんをたべるお茶碗ちゃわんぐらいか」

「お盆ぼんなんて大おおきくはないや。洋食ようしょく皿さらよりも小ちいさいや。僕ぼく、洋食ようしょく皿さらとお茶碗ちゃわんの間あいだぐらいだと思おもいますよ」

「うん、そうだね。僕ぼくにもそのくらいに見みえるよ。ある学者がくしゃが大勢おおぜいの人ひとに、今いまのような問といを出だして、答こたえを集あつめてみたところが、一等いっとう多おおい答こたえは、さしわたし十じゅう四よん糎センチぐらいというのだったそうだ。だから、まあ洋食ようしょく皿さらとお茶碗ちゃわんの間あいだの大おおきさなんだね。さあ、それじゃ一ひとつ、おもしろい実験じっけんをしてみよう」

高橋たかはしさんはそう言いって、立たち上のぼったかと思おもうと、書斎しょさいへかけこんで、一いち枚まいの大おおきな画用がよう紙しを持もち出だして来きました。そして、それをくるくるとまいて、長ながさ五十ごじゅう糎、直径ちょっけい三さん糎ほどの細長ほそながい筒つつをこしらえました。

「さあ、これをどちらかの目めにあてて、望遠ぼうえん鏡きょうを見みるようにして、あの月つきを見みてごらん」

そこで、一太郎いちたろう君くんは、手てわたされた紙筒かみづつを目めにあてて、空そらの月つきをぐっと見みていましたが、しばらくすると、紙筒かみづつを目めからはなして、ふしぎそうなようすで、だまりこんでいます。

「はははは……、なんだか変へんな顔かおをしているね。どうだい。やっぱり茶碗ちゃわんよりも大おおきく見みえたかい」

高橋たかはしさんは、からかうように言いうのです。

「妙みょうですね。この筒つつで見みると、一いちぺんに月つきが小ちいさくなっちゃうんですよ」

「どのくらい小ちいさくなったの、五十ごじゅう銭せん銀貨ぎんかぐらいかい」

「え、そのくらいです」

「まちがいないね。ほんとうに五十ごじゅう銭せん玉たまぐらいに見みえるんだね」

「え、まちがいありません」

「ようし、それじゃもう一いち度どびっくりさせてあげるよ。さあ、それを貸かしてごらん」

高橋たかはしさんはそう言いって、紙筒かみづつを受取うけとると、目めにあてる方かたはそのままにしておいて、先さきの方ほうだけを小ちいさくまきこんで、半分はんぶんぐらいの太ふとさ、つまり直径ちょっけい一いち糎半はんほどにしました。根ねもとが太ふとくて先さきの細ほそい筒つつができたわけです。

「これでのぞいてごらん。こんどはまた、月つきの大おおきさがちがって見みえるはずだよ」

一太郎いちたろう君くんは、言いわれるままに、その筒つつの太ふとい方ほうを目めにあてて、月つきをのぞきましたが、のぞいたかと思おもうと、いきなりとんきょうな声こえを立たてました。

「あれっ、へんですね、また月つきが小ちいさくなっちゃった。五ご銭せん玉たまぐらいですよ」

「ふしぎだろう。それじゃね、今度こんどは自分じぶんで、紙筒かみづつの先さきの方ほうをだんだん細ほそくまきこんでごらん。そして、月つきがちょうどその穴あなと同おなじになるまで、月つきで穴あなが一いっぱいになるまで、細ほそくしていってごらん」

一太郎いちたろう君くんは両手りょうてで紙筒かみづつを持もって、ぎゅうぎゅうとしめつけながら、先さきの方ほうだけを細ほそくしていきました。すると、奇妙きみょうなことに、先さきの穴あなが小ちいさくなるにつれて、月つきの方ほうもだんだん小ちいさくなるような気きがするのです。そして、筒つつの先さきの穴あなと月つきの大おおきさとが、ぴったり同おなじになった時とき、紙筒かみづつを目めからはなして、その先さきの穴あなをしらべてみますと、なんと驚おどろいたことには、それは直径ちょっけい三さん粍ミリあるかなしかの、米こめつぶほどの小ちいさなものになっていました。

「はははは、驚おどろいたかい。洋食ようしょく皿さらと茶碗ちゃわんの間あいだぐらいだった月つきが、五十ごじゅう銭せん玉たまになり、五ご銭せん玉たまになって、おしまいには米こめつぶほどに小ちいさくなってしまった。この画用がよう紙しの筒つつは魔法まほうの眼鏡めがねだね」

「へんだなあ。画用がよう紙しに何なんか仕掛しかけがあるのですか」

「いいや、仕掛しかけなんかありゃしないよ。これは手品てじなじゃないんだよ。画用がよう紙しの筒つつなんかなくったって、ちゃんと同おなじ実験じっけんができるんだからね。一ひとつやってごらん。君きみの右みぎの手てを目めから五十ごじゅう糎ほどはなして、親指おやゆびと人差ひとさし指ゆびで、月つきの大おおきさをはかってごらん。そうすると、月つきがどんなに小ちいさいかということがわかるから。

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