← Library‹ 智恵の一太郎 白と黒

ゆうべ一いち晩ばん雪ゆきが降ふって、今日きょうはからりと晴はれた日曜にちよう日ひです。

一太郎いちたろう君くんは朝あさから近所きんじょの広ひろっぱで、たくさんのお友ともだちといっしょに、大おおきな雪ゆきだるまをつくって遊あそびましたが、その帰かえりがけ、同級どうきゅう生せいの北川きたがわ君くんと二人ふたりで、高橋たかはしさんのお家いえの前まえを通とおりかかりますと、門もんの中なかから二人ふたりを呼よびとめる声こえがきこえました。

見みると、大学だいがく生せいの高橋たかはしさんが、両手りょうてに一いち枚まいずつ、雑記ざっき帳ちょうほどの大おおきさの紙かみを持もって、門もんの中なかの雪ゆきの上うえにしゃがんでいるのです。

「高橋たかはしさん、お早はよう。何なんしているの」

一太郎いちたろう君くんはたずねながら、北川きたがわ君くんといっしょに門もんの中なかへはいって行いきました。

「まあ、見みていてごらん」

高橋たかはしさんは何なんかわけのありそうな笑わらい方かたをして、一太郎いちたろう君くんの顔かおをながめました。なんだかおもしろいことがはじまりそうです。

二人ふたりは高橋たかはしさんのそばまで近ちかづいて、だまって見みていますと、高橋たかはしさんは地面じめんの雪ゆきの上うえに、二に枚まいの紙かみをていねいにならべました。一いち枚まいは真白まっしろな洋紙ようし、もう一いち枚まいは黒々くろぐろと墨すみをぬった洋紙ようしです。まるで白しろと黒くろとの大おおきな膏薬こうやくでもはったように見みえます。

「さあ、これでよしと。君きみたち、僕ぼくがなぜこんなことをしたのかわかるかい。おもしろい実験じっけんなんだよ。何なんの実験じっけんだろうね。一ひとつあててごらん」

高橋たかはしさんは立上たちあがって、二人ふたりの顔かおを見みくらべながら言いうのです。

一太郎いちたろう君くんと北川きたがわ君くんは、おたがいに目めを見合みあわせて、しばらく考かんがえていましたが、さっぱりわけがわかりません。雪ゆきの上うえに白しろと黒くろとの膏薬こうやくをはって、いったい何なんの実験じっけんをしようというのでしょう。高橋たかはしさんはいつでも、一太郎いちたろう君くんたちがまるで思おもいもつかないような、ふしぎなことを考かんがえ出だす人ひとです。

二人ふたりがいつまでたっても返事へんじをしないものですから、高橋たかはしさんは笑わらい出だしました。

「ハハハハハ、わからないかい。よしよし、それじゃ二に時間じかんほどしてから、また、ここへ来きてごらん。その時ときにすっかりわけを聞きかせて上あげるからね。そして、ちょっと君きみたちの智恵ちえだめしをして上あげるよ。いいかい。今いまから二に時間じかんほどしてね」

高橋たかはしさんはそう言いって、お家いえの中なかへはいって行いきました。二人ふたりの少年しょうねんは「じゃ、きっと」と約束やくそくして、門もんを出でましたが、二に時間じかんがまちどおしくて仕方しかたがありません。めいめいのお家いえへ帰かえってからも、時計とけいばかり見みていましたが、やがて約束やくそくの時間じかんが来きますと、二人ふたりはさそい合あって、高橋たかはしさんのお家いえへ行いきました。

「やあ、約束やくそくを忘わすれないで、やって来きたね」

高橋たかはしさんは門もんの外そとに待まちかまえていて、二人ふたりに声こえをかけました。

「ところで、さっきの実験じっけんを見みせる前まえに、君きみたちにたずねたいことがある。智恵ちえだめしだよ。君きみたちは、僕ぼくが雪ゆきの上うえに白しろと黒くろと二に枚まいの紙かみをおいたのを見みたね。そして、その紙かみの上うえに日ひがあたっていたのをおぼえているだろうね」

「ええ、日ひがあたっていました」

一太郎いちたろう君くんはそれを思おもい出だして答こたえました。

「すると、二に時間じかんのうちに、どんなことがおこっただろうね。何なんか変かわったことがおこっているはずなんだがね」

二人ふたりは、また目めを見合みあわせて考かんがえましたが、「あ、わかった」というようにうなずき合あいました。

「太陽たいように照てらされて、雪ゆきがとけたのでしょう。つもっている雪ゆきがうすくなったのでしょう」

「うん、そうだ。けさは十じゅう五ごセンチもつもっていた雪ゆきが、今いまはかって見みると、十じゅうセンチほどになっている。太陽たいようがそれだけ雪ゆきをとかしたのだ。さあ、そこで君きみたちにたずねるがね、さっき僕ぼくがならべておいた白しろい紙かみと黒くろい紙かみの下したの雪ゆきは、どうなっているだろう。両方りょうほうとも同おなじようにとけているだろうか、それとも、どちらかの方ほうがよけいにとけているだろうか。一ひとつ考かんがえてごらん。これは理科りかの問題もんだいだよ。よく考かんがえてこたえてごらん」

二人ふたりはしばらく考かんがえていましたが、最初さいしょに口くちをひらいたのは北川きたがわ少年しょうねんでした。

「僕ぼく、白しろい紙かみの下したが、黒くろい紙かみの下したよりも、よけいにとけていると思おもいます」

「ほほう、白しろの方ほうがよけいにとけて、雪ゆきが少すくなくなっているというのだね。それはなぜだね」

「それはね、白しろい色いろはあたたかくて、黒くろい色いろはつめたいからです。つめたい黒くろい紙かみの下したは、とけるのがおそいでしょう」

「うーん、なるほどね。それじゃ一太郎いちたろう君くんはどう考かんがえる? 君きみも白しろい紙かみの下したが、よけいにとけていると思おもうのかい」

「僕ぼくはそうじゃないと思おもいます」

一太郎いちたろう君くんはちょっと顔かおを赤あからめて、答こたえました。うまい考かんがえがうかんで、それを言いい出だす時ときには、いつも顔かおが赤あかくなるのです。

「僕ぼくは黒くろい紙かみの下したの方ほうが、よけいにとけていると思おもいます」

「なぜだね」

「黒くろい紙かみの下したの方ほうがあたたかいからです」

「ほう、北川きたがわ君くんとまるであべこべの考かんがえ方かただね。それじゃ、なぜ黒くろの下したがあたたかいか、そのわけを言いってごらん」

「僕ぼく、いつかお父ちちさんに教おそわったことを、ふと思おもい出だしたんです。南洋なんようの住民じゅうみんはみな白しろい着物きものを着きていますね。インド人にんもそうですね。あつい国くにの人ひとがなぜ白しろい着物きものを着きるのか、僕ぼく、ふしぎに思おもったものだから、お父ちちさんにたずねたことがあるんです。

すると、お父ちちさんは、同おなじ布ぬのでできていても、白しろい着物きものは涼すずしくて、黒くろい色いろの着物きものはあついのだと教おしえてくれました。ですから、あつい国くにの人ひとは白しろい着物きものを着きるし、寒さむい国くにの人ひとは黒くろっぽい着物きものを着きるんですって。水兵すいへいさんや、おまわりさんの服ふくが、夏なつは白しろくて、冬ふゆは黒くろいのもそのためなんですって。

僕ぼく、その話はなしを思おもい出だしたんです。だから、白しろい紙かみの下したは涼すずしくて、黒くろい紙かみの下したはあたたかいだろうと思おもったのです。あたたかければ、雪ゆきはよけいにとけるわけですからね」

「うん、おもしろいことを考かんがえついたね。よし、それじゃ、どちらがあたっているか、さっきの紙かみの下したをしらべてみよう」

高橋たかはしさんは、そこでやっと、二人ふたりに門もんの中なかへはいることをゆるしました。見みると、白しろと黒くろの洋紙ようしはもとの場所ばしょに行儀ぎょうぎよくならんでいます。ところが、その高たかさが少すこしちがっているのです。黒くろい方ほうがひくく、白しろい紙かみの方ほうが高たかく、二に枚まいの紙かみの間あいだに段だんができていました。

「いいかい、こちらが黒くろ、こちらが白しろだよ」

高橋たかはしさんはそう言いって、二に枚まいの紙かみをはがし、そのあとの雪ゆきの高たかさを二人ふたりに見みせました。やっぱり黒くろい紙かみの下したが、ほんの少すこしですが、ひくくなっているのです。

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