← Library‹ 智恵の一太郎 針の穴

ある朝あさ、明石あかし一太郎いちたろう君くんのお祖父じいさんが、老眼ろうがん鏡きょうをどこかへおき忘わすれて、いくらさがしても見みつからないので、新聞しんぶんがよめないといって、困こまっていらっしゃいました。

「一太郎いちたろう、お前まえがいたずらをしたんじゃあるまいな」

お祖父そふさんは、そばにいた一太郎いちたろう君くんを見みて、笑わらいながら、おっしゃるのでした。

「いいえ、僕ぼく、いたずらなんかしませんよ。でもね、お祖父そふさん、僕ぼくが新聞しんぶんをよめるようにしてあげましょうか」

一太郎いちたろう君くんが妙みょうなことをいいました。

「よめるようにといって、お前まえがよんで聞きかせてくれるのかね」

「いいえ、そうじゃありません。お祖父そふさんがおよみになるんです。眼鏡めがねの代かわりになるものを、僕ぼくが作つくってあげましょうかっていうのですよ」

「眼鏡めがねの代かわりになるものだって。ハハハハハハハ、ほんとうにそんな便利べんりなものがあればいいんだがね」

お祖父そふさんは、一太郎いちたろう君くんがじょうだんをいっているのだとお考かんがえになったのです。胸むねにたれた真白まっしろなお髭ひげをふるわせて、お笑わらいになりました。

「お祖父そふさん、うそだとお思おもいになるのですか。じゃ今いま、僕ぼくが作つくって来きますからね。待まってて下くださいね。三さん分ふんもかからないのですよ」

一太郎いちたろう君くんは、そう言いいすてて、自分じぶんの勉強べんきょう部屋へやの方ほうへ行いきました。

みなさん、一太郎いちたろう君くんはいったい、どんなものを作つくってくるのでしょうか。一ひとつあててみて下ください。今いまは夏なつのはじめですから、いつかのように氷こおりの眼鏡めがね玉たまなんて、できるはずはありません。むろんレンズの拡大かくだい鏡きょうでもないのです。そんなものでは代用だいよう品ひんとはいえませんからね。

やがて、一太郎いちたろう君くんがニコニコしながら、もってきたのは、郵便ゆうびんはがきを縦たてに半分はんぶんに切きったほどの、白しろい画用がよう紙しだったのです。

「お祖父そふさん、眼鏡めがねの代かわりというのは、これですよ」

その画用がよう紙しを見みて、お祖父そふさんはへんな顔かおをなさいました。

「おやおや、ただの厚紙あつがみじゃないか。そんなものが眼鏡めがねの代かわりになるのかい」

「ええ、そうなんです。不思議ふしぎでしょう。こうして見みるんですよ」

一太郎いちたろう君くんは、その細長ほそながい画用がよう紙しを横よこにして、両方りょうほうの目めの前まえにあてて見みせました。

「ちょうど、目めのところに小ちいさい穴あなをあけてあるんです。両方りょうほうの目めに合あうように二ふたつ穴あながあけてあるんですよ。その穴あなからのぞくんです」

「ほほう、そうすると、新聞しんぶんがよめるというのかね」

「ええ、よめるんです。明あかるいところでなくちゃだめですよ。縁えんがわに出でて、やってごらんなさい。きっとよめますから」

お祖父そふさんは、あんまり一太郎いちたろう君くんがすすめるものですから、明あかるい縁えんがわに出でて、その画用がよう紙しを目めにあてて、新聞しんぶんをのぞいてごらんになりました。

小ちいさな小ちいさな穴あなを、ちょうど目めのところにあてがうのに、ちょっと骨ほねがおれましたが、やがて、その穴あなから、新聞しんぶんの活字かつじが、まるで眼鏡めがねをかけたように、はっきり見みえてきました。

「うむ、不思議ふしぎだ。これは不思議ふしぎだ。よめるよ。小ちいさな振ふり仮名がなまで、よくよめるよ」

お祖父そふさんはびっくりしたように大おおきな声こえでおっしゃるのです。

すると、その声こえが聞きこえたのか、となり部屋へやから、お父ちちさんが出でておいでになりました。

「何なんを感心かんしんしていらっしゃるのです。又また、一太郎いちたろうが何なんかやったのですか」

「いや、この子こには、時々ときどきおどろかされるよ。こんな厚紙あつがみに穴あなをあけただけで、老眼ろうがん鏡きょうで見みるように、新聞しんぶんの字じがよく見みえるのだ」

「どれどれ、私わたくしにも一ひとつ見みせて下ください」

お父ちちさんは、その画用がよう紙しを目めにあてて、新聞しんぶんを近ちかよせ、しばらくのぞいておいでになりましたが、

「ふーむ、なるほど、拡大かくだい鏡きょうで見みるように、大おおきく見みえますね。一太郎いちたろう、これはお前まえが考かんがえついたのか」

と感心かんしんしたように、おたずねになりました。

「ええ、僕ぼくが考かんがえたんです」

「どうして考かんがえついたか話はなしてごらん。お父ちちさんも、こんな手軽てがるな眼鏡めがねがあろうとは、思おもいもつかなかったからね」

そこで、一太郎いちたろう君くんは、この不思議ふしぎな眼鏡めがねを考かんがえつくまでのすじみちを、次つぎのように話はなしはじめました。

「僕ぼく、小ちいさい時とき、目めを細ほそくして、明あかるいところを見みていたら、目めの前まえに、太ふとい線せんのようなものが、幾いく本ほんも見みえたんです。僕ぼく、びっくりしてしまったんです。

よく考かんがえてみたら、それが僕ぼくのこのまつ毛げだったのですよ。

それから、僕ぼく、いろんなものをためしてみたんです。目めを糸いとのように細ほそくして、そのすぐ前まえに、指ゆびの先さきを出だすと、指紋しもんが拡大かくだい鏡きょうで見みるようにはっきり見みえるのです。僕ぼく、それが不思議ふしぎでたまらないので、幾いく度どもためしてみたのです。

理科りかでレンズのことを習ならったとき、そのことを、すぐ思おもいだしました。そして、レンズがなくても、目めをうんと細ほそくすれば、いろんなものがよく見みえるということからいいことを思おもいついたんですよ。目めを細ほそめる代かわりに、厚紙あつがみに穴あなをあけて、のぞいて見みるっていう工夫くふうです。はじめ僕ぼくは、小ちいさい穴あなや大おおきい穴あなや、いろいろやってみたんです。大おおきい穴あなではだめでしたが、小ちいさくするほどよく見みえ、針はりの先さきであけた穴あなにすると、とてもよく見みえたのです。針はりの穴あなが小ちいさければ小ちいさいほど、暗くらくなるけれど、物ものは大おおきく見みえるのですよ。蚊かだとか蠅はえの翅はねだとか、いろんなものを、その針はりの穴あなのむこうがわへ、二にセンチぐらいに近ちかづけて、明あかるい光ひかりにあててのぞくと、虫むし眼鏡めがねのように見みえるんです。四五しご倍ばいぐらいになって見みえるんです。小ちいさい活字かつじの字引じびきなんかは、穴あなを一いちミリぐらいに大おおきくして、十じゅうセンチほどはなして見みると、お祖父そふさんの老眼ろうがん鏡きょうぐらいには、大おおきくなって見みえるんです。

それで、僕ぼく、厚紙あつがみを眼鏡めがねの形かたちに切きりぬいて、それに穴あなを二ふたつあけて、ひもをつければ、お祖父そふさんの眼鏡めがねができるなあと思おもったんです。いつかお祖父そふさんに作つくってあげようと考かんがえていたんです。

すると、お祖父そふさんが、眼鏡めがねをなくして、お困こまりになっていたでしょう。だから、僕ぼく、すぐにそれを思おもいついてやってみたんですよ」

お父ちちさんは、この一太郎いちたろう君くんの説明せつめいを、お聞ききになって、たいへん感心かんしんなさいました。

「ああそうか、よくそこまで思おもいついたね、目めを細ほそめて自分じぶんのまつ毛げを見みることは、誰だれにもできるが、それからだんだん考かんがえを進すすめて、虫むし眼鏡めがねや老眼ろうがん鏡きょうを工夫くふうしたのはえらい。学者がくしゃの発見はっけんや、発明はつめいでも、みんなそうして、一ひとつのことを次つぎから次つぎへと根気こんきよく考かんがえ進すすめて行いってこそ、できあがるのだよ。

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