← Library‹ 智恵の一太郎 お雛様の花びん

一太郎いちたろう君くんは、ある日曜にちよう日ひに、また田舎いなかの伯父おじさんの家いえへ遊あそびにいきました。いつか蜘蛛くもの橋渡はしわたしの曲芸きょくげいを見みせて下くださった、あの農学のうがく士しの伯父おじさんの家いえです。

いつものようにごちそうになったり、庭にわの温室おんしつを見みせてもらったりしたが、一番いちばんおもしろかったのは、やっぱり伯父おじさんのお話はなしです。

そのお話はなしの中なかで、伯父おじさんはニコニコ笑わらいながら、妙みょうなことをおたずねになるのでした。

「一太郎いちたろう、お前まえは、お前まえの体からだが二ふたつも三みつも入はいるような、大おおきなセメントの壺つぼを、一人ひとりでつくることができるかい」

一太郎いちたろう君くんは、このとっぴな質問しつもんに、びっくりしてしまいました。

「え、セメントの壺つぼですって」

「そうだよ。口くちのところが徳利とっくりのような形かたちをした、まんまるな壺つぼだよ」

「とても一人ひとりでなんかできっこありませんよ。まず型かたをつくらなければならないし、第だい一いち僕ぼくはセメントと砂すなのまぜ方かたさえ知しらないんですもの」

「そうだろう。大人おとなだって、そんな大おおきな壺つぼを、一人ひとりでつくるのはちょっとむずかしいからね。ところがね、一太郎いちたろう、そういう大おおきな壺つぼを、たった一人ひとりで、なんの道具どうぐも使つかわなくて、やすやすとつくるやつがいるんだよ。しかも、その壺つぼが実じつにいい形かたちをしているんだ」

「へえ、それ、どこの人ひとですか」

「いや、人間にんげんじゃないんだ。今いまのはたとえ話ばなしだよ。いつかの蜘蛛くもと同おなじで、やっぱり虫むしなんだ。そういう壺つぼつくりの名人めいじんの虫むしがあるんだよ」

そういって、伯父おじさんは研究けんきゅう室しつへ入はいって行いって、小ちいさな木きの枯枝かれえだを、さもだいじそうに持もって、出でてこられました。

「これだよ。ごらん、ここにその壺つぼが三みつもくっついているんだよ」

その枯木こぼくの枝えだには、さくらんぼぐらいの大おおきさの白しろいまるいものが、少すこしずつ間まをおいて、三みつくっついていました。

よく見みますと、その丸まるいものは、いかにも人間にんげんがつくった徳利とっくりのように、うまくできているのです。まんまるな胴どうに、細ほそい口くちがついて、その口くちのはしが花はなでも開ひらいたように、ひろがっているのです。

「やあ、かわいい徳利とっくりだな。これ僕ぼくの家いえの一輪挿いちりんざしの花瓶かびんとそっくりですね。この口くちのところなんか、ほんとうにそっくりですよ」

一太郎いちたろう君くんは、お雛ひな様さまの花瓶かびんのような、かわいらしいセメント細工さいくのようなものが、すっかり気きに入はいってしまいました。

「うまくできているだろう。ところで、これをつくった虫むしは何なんだと思おもうね」

一太郎いちたろう君くんは、首くびをかしげて考かんがえましたが、どうしてもわかりません。まだそんな虫むしのことは、教おそわったことがないのです。

「蜂はちだよ。これはトックリバチという蜂はちの巣すなんだよ」

伯父おじさんが種たねあかしをして下くださいました。

「へえ、蜂はちですって? 蜂はちがこんな白しろい巣すをつくるんですか」

「そうだよ、蜂はちといえば、誰だれでも蜜蜂すがるや山蜂やまばちを思おもいだすけれども、ほかにもいろいろな蜂はちがあるんだ。蜂はちの種類しゅるいによって、みんな巣すのつくり方かたがちがうのだよ。

蜜蜂みつばちの巣すは見みたことがあるだろう。あれも実じつに見事みごとなものだね。正ただしい六角ろっかく形けいの筒つつを数かずかぎりなくよせあつめた、大おおきな房ぼうのような、あのお家いえもほんとうにりっぱなものだ。

しかし、あれは誰だれでも知しっている。都会とかいの人ひとは、蜂はちの巣すといえば、どれでもあんな形かたちをしているのだと思おもっているくらいだからね。

ところが、蜂はちの巣すには、いろんなのがあるんだよ。土つちの中なかへ穴あなをほって巣すをつくる蜂はちもある。それから細ほそい枯木かれきの中なかへもぐりこんで、その中なかをがらんどうにしてしまって、幾いく段だんにもわけて巣すをつくるのがある。かたつむりのからを占領せんりょうして、その中なかへ巣すをつくるやつもある。又また、家いえの天井てんじょうなどの太ふとい材木ざいもくをくりぬいて巣すをつくるのもある。これはまるで大工だいくさんのようだというので、ダイクバチという名ながついているのだよ。

それから、サカンバチというのもある。屋根やねの瓦かわらの下したや、石いしがけなどに、小石こいしをしっくいでぬりかためたような巣すをつくる、人間にんげんでいえば、ちょうど壁かべをぬる左官さかんと同おなじだね。だからサカンバチっていうのだよ。

このかわいいセメントの壺つぼをつくるやつは、徳利とっくり製造せいぞうの名人めいじんだから、そこでトックリバチというわけさ。この蜂はちはからだまで徳利とっくりみたいな恰好かっこをしているんだよ。こんなふうにね」

伯父おじさんは、そこにあった紙かみに、鉛筆えんぴつでトックリバチの図ずをかいて見みせました。胸むねと腹はらの間あいだが、ふつうの蜂はちよりも細ほそくて、腹はらの形かたちがちょうど徳利とっくりのように見みえるのです。

「この蜂はちはからだの長ながさが一いちセンチあまりしかない小ちいさなやつで、この巣すの徳利とっくりの中なかへ二に匹ひきも三さん匹ひきも入いれるくらいなんだよ。ほらね、だから、こいつは自分じぶんのからだの二三にさん倍ばいもある大おおきなセメントの壺つぼをつくるわけじゃないか。それも一ひとつじゃないんだよ。いくつでもつくるんだ。そして、一ひとつの巣すに一ひとつずつ卵たまごを生うみつけていくんだよ」

「じゃあ、蜜蜂すがるなんかとちがって、こいつは一人ひとりぼっちで巣すをつくるんですか」

「うん。そうだ。いい質問しつもんをしたね。これは仲間なかまといっしょに働はたらかない、一人ひとりぼっちの蜂はちなんだ。

蜜蜂みつばちなんかそうじゃないね。女王じょおう蜂はちと雄蜂おばちと働はたらけ蜂はちとが一ひとつの国くにをつくっていて、その中なかの働はたらけ蜂はちが力ちからを合あわせて、あの大おおきな巣すをつくるんだね。

ところが、こいつは名人めいじんかたぎとでもいうのか、自分じぶん一人ひとりで、気きに入はいった壺つぼをつくっているという変かわったやつだよ」

「それじゃ、自分じぶんのからだの何なん倍ばいもあるようなこの壺つぼを、トックリバチは、いったいどうしてつくるのですか。セメントをどこから持もってくるのですか」

一太郎いちたろう君くんは、この壺つぼつくりの名人めいじんの秘密ひみつを、早はやく知しりたくてたまらないのでした。

「その材料ざいりょうはよく乾かわいた土つちなんだよ。少すこしでもしめりがあってはいけない。人ひとが歩あるいてふみかためた、白しろく乾かわいた道みちなんかの、かたい土つちがいいのだ。

トックリバチは、そのかたい土つちを、くちばしで削けずりとる。そしてその土つちの粉こなを自分じぶんの唾つばでまるめるのだ。この唾つばに土つちをかためる特別とくべつの性質せいしつがあるんだよ。いわばセメントの素もととでもいうようなはたらきをするのだね。このまるめた土つちを、脚あしでかかえて、巣すをつくる場所ばしょへ飛とんでくる。その第だい一いち回かいに運はこんだのが、まず壺つぼの底そこになるんだね。

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