← Library‹ 孤島の鬼 三角形の頂点

片輪かたわ者しゃは皆みなおとなしかったので、その見張みはりを秀しゅうちゃんと吉きちちゃんに頼たのんだ。性悪しょうわるの吉きちちゃんも、自由じゆうを与あたえてくれた諸戸もろとの云いいつけには、よく従したがった。

唖おしのおとしさんには、秀しゅうちゃんの手真似てまねで、諸戸もろとの命令めいれいを伝つたえた。おとしさんの役目やくめは、土蔵どぞうの中なかの丈たけ五郎ごろう夫婦ふうふと、片輪かたわ者しゃ達たちの為ために三さん度ど三さん度どの食事しょくじを用意よういすることだった。土蔵どぞうの扉とびらは決けっして開ひらいてはならぬこと、食事しょくじは庭にわの窓まどから差入さしいれることなどを繰返くりかえし命めいじた。彼女かのじょは丈たけ五郎ごろう夫婦ふうふに信服しんぷくしていた訳わけではなく寧むしろ暴虐ぼうぎゃくな主人しゅじんを恐おそれ憎にくんでいた位くらいだから、訳わけを聞きくと少すこしも反抗はんこうしなかった。

諸戸もろとがテキパキと事ことを運はこんだので、午後ごごにはもう、この騒動そうどうのあと始末しまつが出来できてしまった。諸戸もろと屋敷やしきには、男おとこの傭人ようにんは三さん人にんしかいず、それが皆みな出払ではらっていたので、私わたくし達たちはあっけなく戦たたかいに勝かつことが出来できたのだ。丈たけ五郎ごろうにして見みれば、私わたくしは已すでにないものと思おもっているし、土蔵どぞうの中なかの道雄みちおは、まさか親おやに対たいしてこんな反抗はんこうをしようとは思おもいがけぬものだから、つい油断ゆだんをして肝腎かんじんの護衛ごえい兵へいを皆みな出だしてやったのであろうが、その虚きょに乗じょうじた諸戸もろとの思おもい切きったやり口くちが、見事みごとに効こうを奏そうした訳わけである。

三さん人にんの男おとこが何なんをしに出掛でかけたのか、どうして五六ごろく日にち帰かえって来こないのか、私わたくしが尋たずねても、諸戸もろとは何故なぜかハッキリした答こたえをしなかった。そして、「奴やつ等とうの仕事しごとが五ご六むい日か以上いじょうかかることは、ある理由りゆうで僕ぼくはよく知しっているのだ。それは確たしかだから安心あんしんし給たまえ」と云いうばかりであった。

その午後ごご、私わたくし達たちは連立れんりつって、例れいの烏帽子えぼし岩がんの所ところへ出掛でかけた。宝探たからさがしを続つづける為ためである。

「僕ぼくは二に度どとこのいやな島しまへ来きたくない。と云いって、このまま逃出にげだしてしまっては、あの人ひと達たちに悪事あくじの資金しきんを与あたえる様ようなものだ。若もし宝たからが隠かくしてあるものなら、僕ぼく達たちの手てで探もとむ出だし度たい。そうすれば、東京とうきょうにいる初代はつよさんの母親ははおやも仕合しあわせになるだろうし、また沢山たくさんの片輪かたわ者しゃを幸福こうふくにする道みちも立たつ。僕ぼくとしてもせめてもの罪つみ亡ほろぼしだ。僕ぼくが宝探たからさがしを急いそいでいるのは、そういう気持きもちからだよ。一体いったいなれば、これを世間せけんに公表こうひょうして、官憲かんけんの手てを煩わずらわすのが本当ほんとうだろうが、それは出来できない。そうすれば僕ぼくの父親ちちおやを断頭だんとう台だいへ送おくることになるんだからね」

烏帽子えぼし岩がんへの道みちで、諸戸もろとは、弁解べんかいする様さまに、そんなことを云いった。

「それは分わかってますよ。外そとに方法ほうほうのないことは僕ぼくにもよく分わかっていますよ」

私わたくしは真実しんじつその様ように思おもっていた。暫しばらくして私わたくしは当面とうめんの宝探たからさがしの方ほうへ話題わだいを持もって行いった。

「僕ぼくは宝たからそのものよりも、暗号あんごうを解といて、それを探さがし出だすことに、非常ひじょうな興味きょうみを感かんじているのです。だが、僕ぼくにはまだよく分わかりません。あなたはすっかり、あの暗号あんごうを解といてしまったのですか」

「やって見みなければ分わからないけれど、何なんだか解とけた様ように思おもうのだが、君きみにも、僕ぼくの考かんがえていることが大体だいたい分わかっているでしょう」

「そうですね。呪文じゅもんの『神かみと仏ふつがおうたなら』というのは、烏帽子えぼし岩がんの鳥居とりいの影かげと石地せきち蔵ぞうとが一ひとつになる時ときという意味いみだ。という位くらいのことしか分わからない」

「そんなら、分わかっているんじゃないか」

「でも、巽たつみの鬼おにを打破うちやぶりってのが、見当けんとうがつかないのです」

「巽たつみの鬼おにというのは、無論むろん、土蔵どぞうの鬼瓦おにがわらの事ことさ。それは君きみが僕ぼくに教おしえて呉くれたんじゃありませんか」

「すると、あの鬼瓦おにがわらを打破うちやぶれば、中なかに宝たからが隠かくされているのですか。まさか、そうじゃないでしょう」

「鳥居とりいと石地せきち蔵ぞうの場合ばあいと同おなじ考かんがえ方かたをすればいいのさ。つまり、鬼瓦おにがわらそのものでなくて、鬼瓦おにがわらの影かげを考かんがえるのだ。そうでなければ、第だい一いち句くが無む意味いみになるからね。それを丈たけ五郎ごろうは、鬼瓦おにがわらそのものだと思おもって、屋根やねへ上あがってとりはずしたりしたんだ。僕ぼくは蔵くらの窓まどからあの人ひとが鬼瓦おにがわらを割わっているのを見みたよ。無論むろん何なんも出でやしなかった。併しかし、そのお蔭かげで僕ぼくは、暗号あんごうを解とく手てがかりが出来できたんだけれど」

私わたくしはそれを聞きくと、何なんだか自分じぶんが笑わらわれている様ように感かんじて、思おもわず赤面せきめんした。

「馬鹿ばかですね。僕ぼくはそこへ気きづかなかったのです。すると丁度ちょうど鳥居とりいの影かげが石地せきち蔵ぞうに一致いっちした時とき、鬼瓦おにがわらの影かげの射さす場所ばしょを探さがせばいい訳わけですね」

私わたくしは、諸戸もろとが私わたくしの時計とけいについて尋たずねたことを思おもい出だしながら云いった。

「間違まちがっているかも知しれないけれど、僕ぼくにはそんな風ふうに思おもわれるね」

私わたくし達たちは長ながい道みちをこんな、会話かいわを取とり交かわした他ほかは、多おおく黙だまり込こんで歩あるいた。諸戸もろとが非常ひじょうに不ふ愛あい相しょうで、私わたくしを黙だまらせてしまったのだ。彼かれは父親ちちおやを押おし籠こめた不倫ふりんについて考かんがえていたに相違そういない。父ちちという言葉ことばを使つかわないで、丈たけ五郎ごろうと呼よび捨すてにしていた彼かれではあるが、それが親おやだと思おもうと、打沈うちしずむのはすこしも無理むりではなかった。

私わたくし達たちが目的もくてきの海岸かいがんへ着ついた時ときは、少すこし時間じかんが早はや過すぎて、烏帽子えぼし岩がんの鳥居とりいの影かげは、まだ切岸きりぎしの端はしにあった。

私わたくし達たちは時計とけいの捻子ねじを捲まいて、時ときの移うつるのを待まった。

日蔭ひかげを選えらんで腰こしを卸おろしていたけれど、珍めずらしく風かぜのない日ひでジリジリと背中せなかや胸むねを汗あせが流ながれた。

動うごかない様ようでも、鳥居とりいの影かげは、目めに見みえぬ早はやさで、地面じめんを這はって、少すこしずつ少すこしずつ、丘おかの方ほうへ近ちかづいて行いった。

だが、それが石地せきち蔵ぞうの数すう間かん手前てまえまで迫せまった時とき、私わたくしはふとある事ことに気きづいて、思おもわず諸戸もろとの顔かおを見みた。すると、諸戸もろとも同おなじことを考かんがえたと見みえて、変へんな顔かおをしているのだ。

「この調子ちょうしで進すすむと、鳥居とりいの影かげは石地せきち蔵ぞうには射ささない様ようじゃありませんか」

「二三にさん間けん横よこにそれているね」諸戸もろとはがっかりした調子ちょうしで云いった。「すると僕ぼくの考かんがえ違ちがいかしら」

「あの暗号あんごうの書かかれた時分じぶんには、神仏しんぶつに縁えんのあるものが、外そとにもあったかも知しれませんね。現げんに別べつの海岸かいがんにも、石地せきち蔵ぞうの跡あとがある位くらいだから」

「だが、影かげを投なげる方ほうのものは、高たかい所ところにある筈はずだからね、外そとの海岸かいがんにこんな高たかい岩いわはないし、島しまの真中まなかの山やまには神社じんじゃの跡あとらしいものも見みえない。どうも、「神かみ」というのはこの鳥居とりいとしか思おもえないのだが」

諸戸もろとは未練みれんらしく云いった。

そうしている内うちに、影かげの方ほうはグングン進すすんで、殆ほとんど石地せきち蔵ぞうと肩かたを並ならべる高たかさに達たっした。見みると、丘おかの中腹なかはらに投とうじた鳥居とりいの影かげと、石地せきち蔵ぞうとの間あいだには、二に間けんばかりの隔へだたりがある。

諸戸もろとはそれをじっと眺ながめていたが、何なんを思おもったか、突然とつぜん笑わらい出だした。

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