むかし、ゴールウェイ県に、夫をなくした女の人が住んでいた。ふたりの息子がおり、名前はダーモッドとドーナルといった。ダーモッドのほうが年上で、家のことを仕切っていた。おおきな農家で、地主から地代を納めに来るようにとお達しがあった。家にそれほどお金がなかったので、ダーモッドはドーナルに言いつけた。「荷車一杯ぶんのオート麦をゴールウェイに運んで売ってこい」ドーナルは荷を積んで、二頭の馬を荷車につなぎ、ゴールウェイの街まで出かけた。オート麦を売り、なかなかの稼ぎを手にした。帰り道、いつものようにとちゅうの宿屋でひとやすみして、自分は酒を飲み、馬たちには水とオート麦をやることにした。
一杯やろうと宿屋に入ると、若者がふたり、トランプの賭けをしていた。しばらく見ていると、ひとりが言った。「おまえもやるかい?」ドーナルは賭けに加わり、オート麦の稼ぎを一ペニー残らずすってしまうまでやめなかった。「さあどうしよう。ダーモッドに殺される。ともかく、家に帰って正直に言うことにしよう」
家に着くと、ダーモッドがたずねた。「オート麦は売れたか?」「売れたよ、なかなかの稼ぎになった」とドーナルは答えた。「金をよこせ」「ないんだ。とちゅうの宿屋でトランプの賭けをして、一ペニー残らずすってしまった」「呪われろ、二十と四人ぶんも呪われてしまえ」ダーモッドは母親のところへ行って、ドーナルが馬鹿な真似をしたのを話した。「今回ばかりはゆるしておやり。もう二度としないだろうから」と母親は言った。「明日、また荷車一杯のオート麦を売ってこい。稼ぎを失くしたりしたら、戻ってくるんじゃないぞ」とダーモッドは言った。
つぎの日の朝、ドーナルはふたたび荷を積んで、ゴールウェイへ行った。オート麦を売り、なかなかの稼ぎを手にした。帰り道、宿屋が近づいてくると、自分に言い聞かせた。「宿屋を通り過ぎるまで、目をつぶっていよう。入りたくなったらいけない」ドーナルは目をつぶったが、宿屋まで来ると、馬たちが立ち止まって一歩も動かなくなった。ゴールウェイからの帰りはいつも、ここでオート麦と水をもらっていたからだ。ドーナルは目を開け、馬たちにオート麦と水をやり、自分はパイプに炭を入れようと、宿屋へ入った。
入ってみると、若者たちがトランプの賭けをしていた。おまえもやるかとドーナルにたずね、ひょっとすると昨日の負けをぜんぶ取り戻せるかもなと言った。トランプにさそわれたドーナルは賭けに加わり、持っているお金を一ペニー残らずすってしまうまでやめなかった。「いまここで家になど帰れない。すったお金の代わりに馬と荷車を賭けよう」ドーナルはもう一度勝負をし、馬と荷車を取られた。どうしてよいかわからなかったが、しばらく考えたあげくにこう言った。「おれが家に帰らないと、おふくろが心配するだろう。帰ってほんとうのことを言おう。どうせ追い出されるだけだ」
家に着くと、ダーモッドがたずねた。「オート麦は売れたか? それに馬と荷車はどこだ」「ぜんぶトランプの賭けですってしまったよ。戻ってきたのは、ただ、おまえたちの達者を祈ってから出て行こうと思ってね」「おまえも、おまえが稼いだ金も一ペニーだって、二度と戻ってこないように。おまえに祈ってもらいたくもない」
ドーナルは母親にお達者でと言い、勤め口をさがしに旅立った。夜が近づいて暗くなるころには、のどがかわいて腹もへってきた。そこへ貧しい男が袋をかついでやってくるのが見えた。男はドーナルに気づいて言った。「ドーナル、なんの用で来た、それにどこへ行くのかね」「おれはおまえを知らないが」ドーナルは答えた。
「おまえのお父さんが生きていたころ、わしはなん度も家に泊めてもらったよ。お父さんに神さまのお情けがあるように。ひょっとして、お腹がすいているなら、わしの袋にある食べ物をいやだとは言うまいね?」
「くれるんなら友達だ」そこで貧しい男はパンと肉をドーナルにくれて、ドーナルがじゅうぶん食べ終わると「今夜はどこに泊まるのかね」と聞いた。
「さあねえ、どうしようか」
「あっちのおおきな家に、とあるだんなが住んでいて、日が暮れてから宿を頼みに行くと、だれでも泊めてくれる。わしはそこへ行こうと思うが」
「あんたといっしょに、おれも泊めてもらえるかな」「まちがいないさ」
ふたりでおおきな家に行って、貧しい男が扉をたたくと、召使いが扉を開けた。「この家のご主人にお目にかかりたい」ドーナルが言った。
召使いがひっこみ、主人が出てきた。「今晩の宿をさがしているんだが」
「ちょっとお待ちいただけるなら、宿をお貸ししましょう。あちらのお城まで登っていきなさい、そうしたらあとでわたしも行きます。あすの朝までいたら、あなたがたに百と十ペンスずつ、それにたくさんの飲み物や食べ物もあげましょう。寝心地のいいベッドもあります」
「すばらしいお申し出だ。おれたちはそこへ行こう」
ふたりはお城に行って部屋に入り、火をたいた。しばらくすると主人が来て、牛肉、羊の肉、そのほかのものをくれた。「ついておいでなさい、酒蔵をお見せしましょう、ワインもエールもたっぷりあります。好きなだけ注いでかまいませんよ」酒蔵を案内してから、主人は城を出てゆき、扉に錠をかけていった。
ドーナルは貧しい男に言った。「テーブルに食べ物を並べておいてくれ。おれはエールを汲んでくるよ」そうして明かりとクルーシュキーン(水差し)を持って酒蔵に下りていった。手前の樽のところにかがんで酒を注ごうとしたとき、声が聞こえた。「やめろ、その樽はわしのものだ」ドーナルが顔を上げると、頭のない小男が樽のひとつにまたがっていた。