しんたのむねから打ちあげられて、少しくもった空で花火がはじけたのは、春も末に近いころの昼でした。
村の方から行列が、しんたのむねを下りて来ました。行列の先頭には黒い服、黒と黄の帽子をかむった兵士が一人いました。それが海蔵さんでありました。
しんたのむねを下りたところに、かたがわには椿の木がありました。今花は散って、浅緑の柔らかい若葉になっていました。もういっぽうには、崖をすこしえぐりとって、そこに新しい井戸ができていました。
そこまで来ると、行列がとまってしまいました。先頭の海蔵さんがとまったからです。学校かえりの小さい子供が二人、井戸から水を汲んで、のどをならしながら、美しい水をのんでいました。海蔵さんは、それをにこにこしながら見ていました。
「おれも、いっぱいのんで行こうか。」
子供たちがすむと、海蔵さんはそういって、井戸のところへ行きました。
中をのぞくと、新しい井戸に、新しい清水がゆたかに湧いていました。ちょうど、そのように、海蔵さんの心の中にも、よろこびが湧いていました。
海蔵さんは、汲んでうまそうにのみました。
「わしはもう、思いのこすことはないがや。こんな小さな仕事だが、人のためになることを残すことができたからのオ。」
と、海蔵さんは誰でも、とっつかまえていいたい気持ちでした。しかし、そんなことはいわないで、ただにこにこしながら、町の方へ坂をのぼって行きました。
日本とロシヤが、海の向こうでたたかいをはじめていました。海蔵さんは海をわたって、そのたたかいの中にはいって行くのでありました。