← Library‹ 少女地獄 殺人リレー 第一の手紙

山下やました智恵子ちえこ様さま みもとに

ミナト・バスにて  友成ともなりトミ子こより

お手紙てがみありがとうよ。

女じょ車掌しゃしょうになりたいって言いう貴女あなたの気きもち、よくわかりましたわ。

百姓ひゃくしょうの生活せいかつはつまらない。

青空あおぞらや雲くもを見みてタメ息いきなんかしてはいけない。東京とうきょうの方ほうへ行いく赤あか、青あお、白しろの筋すじの付ついた汽車きしゃを見送みおくってボンヤリなんかしていたら、なおさらいけない。汗あせでも涙なみだでも、うつむいて土つちの中なかに落おとして行いかなければ、百姓ひゃくしょう仲間なかまの裏切うらぎり者しゃみたいに両親りょうしんや兄弟きょうだいから睨にらまれる。土つちから生うまれて、土つちまみれのボロを着きて、真黒まっくろい、醜みにくい土つちくれのようなお婆ばあさんになって、土つちの中なかに帰かえるだけ……。

ほんとうだわね。同情どうじょうしますわ。

ですけども女じょ車掌しゃしょうになんか成なっちゃ駄目だめよ。ほかの仕事しごとはあたし知しりませんけど、女じょ車掌しゃしょうだけはホントウにダメなのよ。お百姓ひゃくしょうなんかよりもモットモットつまらない、そうしてモットモット恐おそろしい、イヤな仕事しごとなのよ。

女じょ車掌しゃしょうの運命うんめいなんてものは、往来おうらいに散ちらかっている紙かみキレよりもモットモット安やすっぽいものなのよ。女じょ車掌しゃしょうになってみると、すぐにわかるわ。

早はやい話はなしが、お百姓ひゃくしょうの娘むすめでいると、お婿むこさんは純真じゅんしんな村むらの青年せいねんの中なかから御ご両親りょうしんが選えらんで下くださるでしょ。都合つごうよく行いくと好すきな人ひととも一緒いっしょになれるでしょう。

ですけど女じょ車掌しゃしょうになると、そんな幸福こうふくを最初さいしょからアキラメていなければならないのです。会社かいしゃの重役じゅうやくさんとか、役員やくいんさんとか、自動じどう車しゃ係かかりの巡査じゅんささんの言いう事ことは、どんなにイヤな事ことでもおとなしく聞きいて置おかないと、直すぐに首くびになるのです。何なんとかカントかナンクセを付つけて追おい出だされてしまうのです。私わたくしみたいに身みよりタヨリのない孤児みなしごの女おんなはなおさら、そうなのです。ですから賢かしこい人ひとはなるたけお白粉おしろいを塗ぬらないようにして給料きゅうりょうの上のぼらないのは覚悟かくごの前まえで、眼めに立たたないように、影かげにまわってばっかり働はたらいているのです。その馬鹿馬鹿ばかばかしい息苦いきぐるしさったらないのですよ。

そうして、そればっかりじゃないのよ。

あたし御ご存ぞんじの通とおり親おやも兄弟きょうだいもない孤児こじですから、女給じょきゅうにでも交換こうかん手しゅにでも何なんでもなれるんでしたけど、女おんな運転うんてん手しゅが勇いさむカンでスタイルがいいと思おもって、そのお稽古けいこのつもりで女じょ車掌しゃしょうになったんですけど……望のぞみ通とおりに運転うんてん手しゅになって、お金かねを儲もうけたって、それから先さきは何なんの目的もくてきもないんですからねえ。孝行こうこうをする親おやも、可愛かわいがる弟おとうともないんですからねえ。つまんないわ。毎日まいにち毎日まいにち、何なんの目的めあても楽たのしみもないカラッポの世よの中なかを、切きれるような風かぜに吹ふかれたり、ゴミダラケの太陽たいように焼やかれたりして、生命いのちがけで駈かけずりまわるようなもんよ。酔よったお客きゃくにヒヤカサレたり、コワイ巡査じゅんさに手てを握にぎられたり、キザな運転うんてん手しゅに突つっつかれたりするたんびに、心こころの底そこの底そこまで淋さびしくて、悲かなしくて、つまらなくなる商売しょうばいよ。ウント速力そくりょくを出だした時とき、何なんかに行ゆき当あたってメチャメチャになってくれるといいと、ソンナ事ことばっかし考かんがえさせられる商売しょうばいよ。

ごめんなさいね。貴女きじょのおためを思おもえばこそホントの事ことを言いうんですから、怒おこらないで頂戴ちょうだいね。そればっかしじゃないのよ。

モットモット恐おそろしい事ことがあるのよ。

この先さきに入いれといた月川げっせん艶子つやこさんのお手紙てがみを読よんでちょうだい。文句もんくをソックリその通とおりに写うつして置おきましたから。

この手紙てがみは妾めかけの大事だいじな手紙てがみです。恐おそろしい殺人さつじん事件じけんの秘密ひみつのショウコになるかも知しれない手紙てがみですから、このまんま貴女きじょに上あげるわけに行いかないのです。そのわけもお読よみになればわかるわ。

月川げっせんツヤ子こさんは妾めかけの小しょう学校がっこうの同級どうきゅう生せいなの。お父ちちさんと一緒いっしょに浜松はままつのベンキョウ・バス会社かいしゃで、あたしと同おなじに女じょ車掌しゃしょうをつとめている人ひとよ。今年ことし十じゅう九きゅう。身体からだは小ちいさいけど、とてもシャンなの。妾めかけと違ちがって気きの弱よわい親切しんせつな人ひと。あたしの昔むかしからの親友しんゆう。字じもモット上手じょうずなんですけど。

月川げっせんツヤ子こさんの手紙てがみ

友成ともなりトミ子こさん

ごぶさたしました。お変かわりありませんか。

トツゼン変へんな事ことを書かいてすみませんけど、私わたくしこのごろある人ひとに殺ころされそうな気きがするのです。

このごろ私わたくしのいる勉強べんきょう乗合のりあい自動じどう車しゃ会社かいしゃに、新高にいたかって言いう新あたらしい運転うんてん手しゅさんが来きましたの。それはナポレオンによく似にた冷つめたい顔かおをした背せの高たかい人ひとです。運転うんてんがトテモ上手じょうずで、スタイルがよくて、骨身ほねみを惜おしまず働はたらくのでグングン昇給しょうきゅうして行いく人ひとです。

その人ひとが来きてから三さんか月げつ目めに、私わたくしをお嫁よめにくれって、私わたくしのお父ちちさんに申もうし込こみました。二に週間しゅうかんばかり前まえの事ことです。

会社かいしゃの工場こうじょうに勤つとめている私わたくしのお父ちちさんは、気きが進すすまないけど、新高にいたかさんを可愛かわいがっている会社かいしゃの専務せんむ取締とりしまり役やくの人ひとが仲なかに立たっているのでイヤとは言いえないのだが、お前まえはドウかって尋たずねられた時ときに、妾めかけはすぐに承知しょうちしてしまいました。新高にいたかさんなら前まえから嫌きらいじゃなかったんですからね。

ごめんなさいね。あなたに御ご相談そうだんしないで承知しょうちしてしまったこと。

でも妾めかけ、最初さいしょビックリしましたわ。どうして新高にいたかさんが、妾めかけのような女おんなを貰もらう気きになったのだろうと思おもいましてね。

新高にいたかという人ひとはシンカラ無口むくちの人ひとらしいのです。待合まちあい室しつに来きても、ほかの運転うんてん手しゅのように女じょ車掌しゃしょうに甘あまったるい事ことを言いったり、妙みょうな眼付めつきをした事ことなんか一いち度どもないのです。並ならんで腰こしかけている私わたくしたちを見向みむきもしないで、スパリスパリ煙草たばこばかり吹ふかしているのです。

そうかと思おもうとダシヌケに、ヤンチャを言いっているお客きゃくさんの子供こどもを抱だき上あげて、頬擦ほおずりをしてキャッキャと笑わらわせたり、十じゅう銭せんで三みつぐらいの一番いちばん高価たかいお蜜柑みかんを一いち円えんばかりも買かって来きて、黙だまって私わたくしたちにバラ撒まいたままプイッと外そとへ出でて行いってしまったりしてトテモ気きまぐれな人ひとなのです。

そうかと思おもうとまた運転うんてん台だいで、バットを吸すい吸すいモノスゴイ速力そくりょくを出だしながら、ステキに朗ほがらかな澄すみ切きった声こえで、

エーエ。二に度どとオー惚ほれエーまいイ運転うんてん手しゅのオ――畜生ちくしょうめエ――

敷しき逃にげエ――したア――ままア――知しらぬウ――顔かおオ――

なんて歌うたって、満員まんいんのお客きゃくをゲラゲラ笑わらわしたりするのです。その癖くせ、遊あそびに行いった話はなしはチットモ聞ききません。いつもお金かねをポケットの中なかでジャラジャラ言いわせているのですよ。ですから会社かいしゃの重役じゅうやくさんがスッカリ信用しんようしてしまったらしいのです。

私わたくしも男おとこらしい固かたい人ひとと思おもい込こんで、何なんもかも言いうなりになってしまったんです。そうして正式せいしきに結婚けっこん式しきを挙あげるばかりになっていたのです。

Click a word · hold for the whole sentence 0%