← Library‹ シンベグィレ

お母かあさんが死しんでしまって、シンベグィレは、本当ほんとうに悲かなしい気持きもちでした。けれども、お父とうさんがシンベグィレのためにできる限かぎりのことをしてくれたので、お母かあさんがいなくても、ふたりとも少すこしずつですが元気げんきになれるようになりました。ふたりは、毎朝まいあさ一緒いっしょに座すわってその日ひのことをはなし、夜よるには一緒いっしょにご飯はんをつくりました。そして、お皿洗さらあらいが終おわったら、お父とうさんがシンベグィレの宿題しゅくだいを手伝てつだうのでした。

ある日ひのことでした。お父とうさんがいつもより遅おそく帰かえってきました。「シンベグィレ、どこにいる?」呼よばれてシンベグィレがお父とうさんに駆かけよっていきます。けれども、お父とうさんが知しらない女おんなの人ひとの手てを握にぎっているのを見みたとたん、ぴたっと立たち止どまってしまいました。「シンベグィレに、特別とくべつな人ひとを会あわせたくて連つれてきたんだ。アニータというんだよ」お父とうさんはにっこりほほえんで言いいました。

「はじめまして、シンベグィレ。お父とうさんからたくさんあなたのことを聞きいてるのよ」そう言いったものの、アニータはにこりともしなければ、シンベグィレの手てを取とろうともしません。お父とうさんはというと、とても嬉うれしそうにウキウキしながら、これから3人にんで暮くらしたらどんなに素敵すてきな暮くらしになるかを話はなしています。「ねぇ、シンベグィレ、アニータをお母かあさんだと思おもってくれたら嬉うれしいんだけどな」お父とうさんは言いいました。

シンベグィレの暮くらしは、変かわってしまいました。お父とうさんと朝あさ一緒いっしょに同おなじ椅子いすに座すわる時間じかんはありません。アニータがあまりにたくさんの家いえのお手伝い事おてつだいごとを言いいつけるので、シンベグィレは夜よるには疲つかれて宿題しゅくだいもできません。夜よるご飯はんが終おわると、シンベグィレはまっすぐにベッドへ行いくようになりました。死しんでしまったお母かあさんがくれたカラフルな毛布もうふだけが、シンベグィレをなぐさめてくれたのです。お父とうさんは、そんなシンベグィレの悲かなしい気持きもちに気きづいていないようでした。

何か月なんかげつかたって、お父とうさんはしばらく家いえを空あけると言いいました。「出張しゅっちょうにいかなくちゃいけないけど、ふたりは一緒いっしょにがんばれるよね」シンベグィレの顔かおが曇くもったことに、お父とうさんは気きづきませんでした。アニータはだまっていました。アニータも嬉うれしくなかったのです。

お父とうさんが出でかけたあと、シンベグィレの毎日まいにちは前まえよりもっとつらくなりました。お手伝てつだいを全部ぜんぶしなかったり、弱音よわねをはいたりすると、アニータはシンベグィレをたたくのです。しかも、夜よるご飯はんはアニータがほとんど食たべてしまって、シンベグィレにはほんの少すこしの食たべ残のこししか回まわってきません。毎晩まいばんシンベグィレは、お母かあさんの毛布もうふを抱だきしめて、泣なきながら寝ねるのでした。

そんなある朝あさ、シンベグィレは寝坊ねぼうしてしまいました。「なんて怠なまけ者ものなの!」アニータは怒おこって、シンベグィレを布団ふとんから引ひきずり出だしました。大切たいせつなお母かあさんの毛布もうふがくぎにひっかかって、真っ二つまっぷたつにちぎれてしまいました。

シンベグィレはもうびっくりして悲かなしくて、とうとう家いえから逃にげ出だすことにしたのです。ちぎれた毛布もうふと少すこしの食たべ物ものをもって家いえを出でると、お父とうさんが通かよった道みちをたどっていきました。

夜よるになって、シンベグィレは川かわのほとりの高たかい木きにのぼって、枝えだの間あいだに寝床ねどこをつくりました。そして、寝ねるときにこんな歌うたをうたいました。「おかあさーん、おかあさーん、おかあさーん、私わたしをおいていっちゃった。私わたしを置おいていって、もうかえらない。おとうさんはもう私わたしを愛あいしていないよ。おかあさん、いつかえってくるの?私わたしを置おいていっちゃった。」

翌朝よくあさも、シンベグィレはまた同おなじ歌うたをうたいました。その悲かなしい歌うたは、川かわへ洗濯せんたくに来きた女おんなの人ひとたちの耳みみにも入はいりましたが、高たかい木きの上うえから聞きこえてくるので、女おんなの人ひとたちは、これはきっと葉はっぱが音おとを立たてているのだろうと思おもって洗濯せんたくを続つづけていました。けれども、その歌うたをしっかり聴きいた人ひとがひとりだけいました。

その女おんなの人ひとは木きを見上みあげて、女おんなの子ことカラフルな毛布もうふを見みつけると、思おもわず声こえを上あげました。「シンベグィレ!弟おとうとの子こだわ!」ほかの女おんなの人ひとたちは洗濯せんたくをやめて、シンベグィレを木きから下おろしてくれました。シンベグィレのおばさんは、小ちいさなシンベグィレを抱だきしめて、一生いっしょう懸命けんめいになぐさめてくれました。

おばさんはシンベグィレを自分じぶんの家いえに連つれて帰かえり、あたたかいご飯はんを出だしてくれたあと、お母かあさんの毛布もうふをかけた布団ふとんにシンベグィレを寝ねかせてくれました。その夜よる寝ねるとき、シンベグィレは泣ないてしまったのですが、でもそれはつらくて泣ないたのではありません。安心あんしんしたから泣ないてしまったのでした。おばさんならちゃんと面倒めんどうをみてくれると、シンベグィレにはわかったのです。

シンベグィレのお父とうさんが家いえに帰かえると、シンベグィレがいないことに気きづきました。「アニータ、何なにがあったんだ?」お父とうさんは暗くらい気持きもちで聞ききました。アニータはシンベグィレが逃にげ出だしたことを話はなしました。「シンベグィレにみとめてもらいたかったの。でもきっと、私わたしがきつくあたりすぎたんだわ・・・」お父とうさんは家いえを出でると、川かわのほうへ歩あるいてから、お姉ねえさんの住すむ村むらに向むかいました。シンベグィレを見みかけていないか、お姉ねえさんに確たしかめるためでした。

シンベグィレがいとこたちと遊あそんでいるときでした。遠とおくにお父とうさんの姿すがたを見みつけたシンベグィレは、お父とうさんが怒おこっているんじゃないかと怖こわくなって、おばさんの家いえの中なかに急いそいで隠かくれてしまいました。けれども、近ちかくまでやってきたお父とうさんはこう言いいました。「シンベグィレ、お母かあさんにぴったりな人ひとを自分じぶんで探さがし出だしたんだね。シンベグィレのことが大好だいすきで、しかもわかってくれる人ひとだもんね。僕ぼくはそんなすごい娘むすめがいてくれて幸しあわせだし、父とうさんだってシンベグィレのことが大好だいすきなんだよ」お父とうさんとはなして、シンベグィレは好すきなだけおばさんの家いえにいられることになりました。

お父とうさんは毎日まいにちシンベグィレに会あいに来きました。ある日ひ、アニータが一緒いっしょにやってきて、シンベグィレの手てを握にぎろうと手てを差さし出だしました。「本当ほんとうにごめんなさい。私わたしが悪わるかったの」こう言いって、アニータは泣ないていました。「もう一いち度ど、私わたしにやりなおさせてもらえるかな?」シンベグィレは心配しんぱいそうなお父とうさんの顔かおを見上みあげてから、ゆっくりと一歩いっぽ踏ふみ出だすと、アニータに抱だきついたのでした。

次つぎの週しゅう、アニータはシンベグィレといとことおばさんを家いえに呼よんで、ご飯はんをふるまいました。すごいごちそうです!アニータはシンベグィレの大好だいすきなものをぜんぶ作つくっていて、みんなでおなかいっぱいになるまで食たべました。食たべ終おわると、大人おとなたちが話はなしているあいだ、子こどもたちは一緒いっしょに遊あそびました。遊あそびながら、シンベグィレは嬉うれしくなって、勇気ゆうきもわいてきました。だからこう決きめたのです。「あと少すこし、あとほんの少すこししたら、うちに帰かえって、お父とうさんと新あたらしいお母かあさんと一緒いっしょに暮くらそう。」

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