宿場の場庭へ、母親に手を曳かれた男の子が指を銜えて這入って来た。
「お母ア、馬々。」
「ああ、馬々。」男の子は母親から手を振り切ると、厩の方へ馳けて来た。そうして二間ほど離れた場庭の中から馬を見ながら、「こりゃッ、こりゃッ。」と叫んで片足で地を打った。
馬は首を擡げて耳を立てた。男の子は馬の真似をして首を上げたが、耳が動かなかった。で、ただやたらに馬の前で顔を顰めると、再び、「こりゃッ、こりゃッ。」と叫んで地を打った。
馬は槽の手蔓に口をひっ掛けながら、またその中へ顔を隠して馬草を食った。
「お母ア、馬々。」
「ああ、馬々。」