← Library‹ 蠅 五

宿場しゅくばの場庭ばにわへ、母親ははおやに手てを曳ひかれた男おとこの子こが指ゆびを銜くわえて這入はいって来きた。

「お母ははア、馬うま々。」

「ああ、馬うま々。」男おとこの子こは母親ははおやから手てを振ふり切きると、厩うまやの方ほうへ馳はせけて来きた。そうして二に間けんほど離はなれた場庭ばにわの中なかから馬うまを見みながら、「こりゃッ、こりゃッ。」と叫さけんで片足かたあしで地ちを打うった。

馬うまは首くびを擡もたげて耳みみを立たてた。男おとこの子こは馬うまの真似まねをして首くびを上あげたが、耳みみが動うごかなかった。で、ただやたらに馬うまの前まえで顔かおを顰しかめると、再ふたたび、「こりゃッ、こりゃッ。」と叫さけんで地ちを打うった。

馬うまは槽おけの手蔓てづるに口くちをひっ掛かけながら、またその中なかへ顔かおを隠かくして馬草まぐさを食くった。

「お母ははア、馬うま々。」

「ああ、馬うま々。」

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